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ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第6回)

by staff on 2013/9/10, 火曜日

大浦総合研究所 代表/大浦勇三

ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第6回)

遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ

- 梁塵秘抄 -

 3・11大震災・福島原発事故に対する政府事故調査報告書(畑村洋太郎委員長)では、“あり得ることは起こる、あり得ないことも起こる” “見たくないものは観えない、見たいものだけが観える” “すべては変わる、その変化に柔軟に対応する” “危険の存在を認め、危険に正対して議論できる文化をつくる” などが指摘されています。これを一人ひとりが真正面から受けとめないと、“爆弾にあたったらどうするかを考えるのは一種の敗北主義”とした過去と変わらないことになります。梁塵秘抄では“我等は薄地の凡夫なり、善根勤むる道知らず、一味の雨に潤ひて、などか佛にならざらん”とあります。我々が凡夫であるのは今も昔も変わらないこと。どの時代も何が起こるかわからないけれど、そこを生き抜くのが人間ではということでしょうか。最近、BCM(事業継続性)と併せてDR(IT継続性)の必要性が叫ばれています。RTR(Right Things Right)という経営手法とも密接に関係するものです。“正しいこと(Right Thing)を正しくやる(Right Way)”本源的価値を突き詰めるだけでなく、正しいことを間違った方法でやっていないか、間違っていることをガンバリズムだけで正当化しようとしていないか、なども冷静に分析・評価していこうというものです。不確実な明日のために”今日何をするか、何をしてはいけないか、やり方は正しいか、間違ったことに盲進していないか”を繰り返し自らに問うことが必要な時代になりました。

“遊びをせんとや生れけん” 「遊」

宗教 ありがたいが最初はとっつきにくい 成り立ちを少し知ると親近感がわく
法然、大切なことを深く 親鸞、大切なことを易しく 蓮如、大切なことを広く
罰当たり覚悟の言 法然は研究開発、親鸞はモノづくり、蓮如はマーケティング
平生即辞世、と松尾芭蕉 人間の価値だけは下げないように、平生から心掛ける

 現在の過酷な時代の中では、宗教の存在をこれまで以上に強く意識することが多くなりました。宗教もまた、時代と密接に関わっているとすると、法然、親鸞、蓮如(れんにょ)などの傑出した高僧に深く学びながらも、今の時代に合った形と内容を新たに創造していくことが求められているように思います。北陸では、蓮如上人は”蓮如さん”と親愛をもって語られます。“小事(日常茶飯事)をした後に念仏を唱えるのでなく、小事そのものが念仏”との説話が、働きづめで疲労困憊、仏壇に手を合わせる気力・体力も残っていない農民の心を鷲掴みにしたからだと聞かされた覚えがあります。これは芭蕉の”平生即辞世”ともつながりそうです。死ぬ間際に辞世を求める弟子たちに、平生の自分の生き様そのものが辞世だと言い放った覚悟と自信。冷凍設備もない時代、殺したら腐ってしまう鶏を半死状態でやりとりすることで営んできた人間の生。“死と生がないまぜの生命の根源の形”と画家の堀文子さんは観ています。

“仕事をせんとや生れけん” 「献」

トヨタ問題 産業界全体に大きな教訓 製造業のみならずサービス業にまで及ぶ
日頃は意識することのない組織上の暗黙のルールの存在 不文律を改めて見直す
統合フィージビリティスタディの必要性 組織知としてのリベラルアーツの重要性
未知・未踏の領域へ突入 想像力・抽象力、世界での勝負には突破すべき大問題

 モノづくり世界の頂点を極めたトヨタにも死角はあり、一時大きな問題に発展したことがありました。完璧とまで言われたカンバンシステムも、外国メーカーの一部には恐るるに足らずとの声もあがりました。カンバンシステムも組織文化風土の成果であり、組織文化風土こそ事業の最重要成功要因。その源泉である人間力を鍛え直す遠回りこそが実は一番の近道であることをトヨタは再認識したはずです。それができるのもまたトヨタの組織文化風土の強み。トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎は“自動車でなく自動車産業をつくれ”と繰り返しました。今後めざすべきビジネスモデルは、欧米・アジアを含めて世界のどこにも見当たらず、自力で探究していくしかありません。統合フィージビリティスタディを阻害する不文律は何か、未踏の領域へ踏込む想像力・抽象力を抑圧する不文律とは何なのか。米クリステンセン教授のいう“破壊的イノベーションは職を生み、効率的イノベーションは職を奪う”という命題をどう超えていくのか楽しみです。

“学びをせんとや生れけん” 「学」

歩けなくなっても挑戦する セザンヌは杖をつきながら描く意欲を持ち続けた
人が見ないものを、しっかり観察する 直観を大切にする、想像力を解き放つ
人に頼るだけでは限度がある 向上したい、学び続けたいという思いこそ第一
根性論だけの努力に依存せず 合理、不合理を併せ飲んだ総合的な知性を磨く

 セザンヌは近代絵画の父として不動の地位を築いていましたが、それでも最後まで新たな画境を追い求めました。自画像だけでも約30点の作品を残しています。自画像はモデルへの配慮もいらず絵画探求の絶好の時間であり、どれも“人が見ないものを観る” “直観を大切にする” “想像力を解き放つ” “学び続ける思いを大切にする”などの元手がかかったものです。日本を代表する映画監督の一人である溝口健二は”俳優の演技を100まで上げておいて80のところで撮るのがいい。ゼロから80まで上げて80で撮るのでなく、一度100まで上げて80で撮る。同じ80でも結果は大きく異なる”と語っています。”薫習(くんじゅう:手取り足取りでなく日常生活の中で自然に教わる)”の機会を得た新藤兼人監督の活躍はその影響力を裏付けます。教育は黒板のある教室だけに非ずで、英国イートン校では食堂を第二の教室と位置付けています。

「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」

 今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(六)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。

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(第6回了)

 

大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール

大浦勇三(おおうら ゆうぞう)  

大浦総合研究所 代表 (http://www.mmjp.or.jp/ooura/

石川県七尾市出身。
早稲田大学卒業、筑波大学大学院修了。
米国経営コンサルティング会社 アーサー・D・リトル 主席コンサルタントを経て現職。
主担当領域は、経営改革/企業再生、経営戦略/情報通信技術戦略策定、業務改革/組織改革、研究開発/商品開発マネジメント、マーケティングマネジメント、ナレッジマネジメント、イノベーションマネジメント、サプライチェーンマネジメント、人材マネジメント、コーチング/メンタリング、プロジェクト/プログラムマネジメント、ベンチャービジネス支援等のコンサルティング。

筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。

主な著作物:

  • 「ビジネス梁塵秘抄(一)~(六)」<全10巻>(大浦総合研究所:PDF版)
  • 「イノベーション・ノート」(PHP研究所)
  • 「ITプロジェクトマネジャーのためのコーチング入門」(ソフトリサーチセンター)
  • 「図解 日本版LLP/LLCまるわかり」(PHP研究所)
  • 「IT技術者キャリアアップのためのメンタリング技法」(ソフトリサーチセンター)
  • 「よいコンサルタントの見分け方、かかり方」(清話会)
  • 「日本のモノづくり - 52の論点」<共著>(日本メンテナンス協会)
  • 「現場主導型の組織運営とスピード戦略」(日本監督士協会)
  • 「eコミュニティがビジネスを変える」<訳>(東洋経済新報社)
  • 「ナレッジマネジメントが見る見るわかる」(サンマーク出版)
  • 「図解 ナレッジ・カンパニー」(東洋経済新報社)
  • 「ナレッジマネジメント革命」(東洋経済新報社 )
  • 「図解 グローバル・スタンダード革命」(東洋経済新報社)
  • 「業務改革成功への情報技術活用」(東洋経済新報社)
  • 「情報化戦略と投資評価・システム運用管理の実際」<編著>(企業研究会)
  • 「会社改革実務辞典」<共著>(産業調査会)
  • 「プロジェクトマネジャー(PM)の育成・スキルアップのためのメンタリングの進め方と実践法」 (ソフトリサーチセンター:CD-ROM版)   など

 

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