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中小経営のニッチから国際化へ(第1回)

by staff on 2013/9/10, 火曜日

デジタルハリウッド大学大学院/NVD株式会社 松本英博

1.狭いことは弱点なのか

 これまで「ビジネスの創造方程式で勝ち抜こう」、「ビジネスのフレームワーク入門」などを担当し連載してきました。これらはビジネスを生み出す手法であったり、整理したりすることであって、ビジネスの中身(コンテンツ)を論議したものではありませんでした。

 そこで今回の連載では、中小経営で、決して大手が手を出せない領域を考えることで、弱点と思われがちなニッチ(niche)を強みに変えるヒントを手に入れていただければ幸いです。

際産業

 ニッチ産業、すなわち際(きわ)産業はある意味でこれまで、本業に対して弱点、あるいは際どい事業と言ったネガティブな印象が先行してきた感があります。

 しかし、私が調査した限り、成功の事例には、弱点どころかコアビジネスとして国際競争力を付けるまで至ったものもあります。さらに日本の中小経営がニッチ産業で力を付け大手企業に成長してきているともいえます。ベンチャー企業も多くがニッチ産業から始まっています。

 例えば、京セラです。今や世界的な企業であり、創業者の盛田和夫氏が、一度は倒産した日本航空を再建したように非常に優れた経営陣で事業展開しています。

 京セラは、京都清水焼の陶器技術を電気絶縁材料として使い、碍子(がいし)を開発、販売してきたことが起源です。碍子と言ってもほとんどの方はご存じないでしょう。山岳にある高圧鉄塔の電線に注目してください。そこに線と線が接触しないように絶縁している、白い円盤がいくつも重なったようなものです。

 産業の成長に伴ってより高圧の電力が必要となりますが、風雨に耐え、さらにコストに見合った碍子や電気部品を作れるのは、当時でもほんの一握りの企業だけでした。その中で、碍子の高度な成形と品質管理を通して、ファインセラミックスの雄として産業をリードしました。ニッチ産業からやがて、情報・通信機器、半導体及び環境製品までニッチな技術からビジネス・コアを今や経営戦略(稲盛和夫氏の戦略)にシフトして大きく発展してきたことも事実です。

2.成功要因は何か

 ニッチ産業を生み、拡げてきた多くの企業は成功要因を何でしょうか?

誰にも売れない、誰でもできない、誰にも儲けられない

① 誰にも売れない:ニッチチャンネルの独占

 ニッチ産業で、お客様から見て、先ずはニーズにあった商品はそこにしかないというのは第一条件です。京セラの場合は他を凌駕するファインセラミックスの製造技術がありました。

② 誰にもできない:ニッチ・コアの確立

 ①では、他社のその商品を売れる販路を開拓する可能性があります。しかし、第二条件は、他にまねできない技術・ノウハウといったコアを確立することです。こうなれば、他社よりも先行優位で収益性が非常に高くなります。京セラの場合は、電力会社の供給するような強電だけでなく、マイクロエレクトロニクスである弱電に進出し、半導体では心臓部にあたる絶縁材料や水晶振動子で他を凌駕しました。

③ 誰にも儲けられない:ニッチ・障壁の高度化

 第三条件は、ニッチで優位性を保つだけの参入障壁を設けることです。つまり、新規参入しても、儲けが出ない、先行できないといった障壁を設けることです。参入障壁はニッチ産業にある商品やサービスを組み合わせて、他社が参入するよりもはるかに低コストで高品質な商品やサービスで障壁をつくることになります。京セラは情報機器だけでなく、携帯電話サービスまでも手掛け、インフラストラクチャーまでも手に入れ、他の参入を抑えることに成功したのです。

 しかし、このような事実が分かっていても、あるいは理論的には理解できても、実際の事業となれば、経営として手が出ないのが現状です。このコラムでは、事例を紹介しながら、読者にもう一歩踏み出るヒントを得ていただくことが目的としていきたいと思います。

 さて、ここまで読んで、ちょっとニッチ産業に興味アリと思った方、次回から事例を紹介しながらビジネスに役立てる方法を解説していきます。乞うご期待!

※発想や創造に関する「創造方程式」による発想のトレーニングがしたいというなら、参考に拙著「ヒット商品を生み出すネタ出し練習帳」をどうぞ。

次回の予告

「ブルーオーシャン(未踏領域)を求めて」を軸にニッチ産業、ニッチ領域の探索について考えていきます。

松本英博 プロフィール

 

松本 英博(まつもと ひでひろ)

デジタルハリウッド大学大学院 専任教授/NVD株式会社 代表取締役

 京都府出身。18年にわたりNECに勤務。同社のパーソナルメディア開発本部で、MPEG1でのマルチメディア技術の開発と国際標準化と日本工業規格 (JIS)化を行い、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで画像圧縮技術を習得のため留学。帰国後、ネットワークス開発研究所ではWAPや i-モードなどの無線インターネットアクセス技術の応用製品の開発と国際標準化を技術マネジャーとして指揮。

 NEC退社後、ベンチャー投資会社ネオテニーにおいて大企業の新規事業開発支援、社内ベンチャーの事業化支援を行い、2002年9月にネオテニーから分離独立し、NVD株式会社(旧ネオテニーベンチャー開発)を設立、代表取締役に就任。大手企業の新規事業開発・社内ベンチャー育成などのコンサルティング 実績を持つ。

 IEEE(米国電子工学学会)会員、MIT日本人会会員。神奈川県商工労働部新産業ベンチャー事業認定委員、デジタルハリウッド大学大学院 専任教授、現在に至る。

 

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