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中小経営のニッチから国際化へ(第2回)

by staff on 2013/10/10, 木曜日

デジタルハリウッド大学大学院/NVD株式会社 松本英博

1.ニッチの強みはどこから

 幾つかのニッチ(niche)分野での成功事例や失敗事例をみると、面白い共通性があることに気付きます。そこで、一見、際(きわ)にありながら、実は大きな強みを持つ要因を探ってみることにしましょう。

ヘビーユーザーがニッチ・メーカーに

 ベンチャー企業や成功している中堅企業の創業者に、創業時のお話しを聴くことが多いのでニッチの強みを大いに活用している事例を1つ紹介してみましょう。

 A社は神奈川県に本社を持つ電気設備の設置、保守を行う中堅企業でした。大手の電力会社や企業から設計をもらい、それに従って機械設備を製造します。納入した電気設備を顧客の依頼に応じて設置し、保守点検を行うことが主たる事業です。いわゆる大手の1次あるいは2次関係会社で下請事業です。

 A社は、請負元の需要が伸びると自然に成長し、逆に需要が落ちると、大きく業績に響く体質でした。電力の需要は伸びますが、関係会社も多く、競合がひしめき、入札などでの談合問題などの社会的責任を負いつつ、「薄利多売」をせざるを得ない状況です。A社もリーマンショックなどの経済の急降下で、売上の多くを失い、非常に厳しい財務状況に陥りました。

 A社の厳しい状況に甘んじたわけではなりません。多くのコストを削り、要求された価格を維持することも努力しました。また、新規の事業として、保守点検の幅を広げる試みも行っていました。しかし、この努力も吹き飛ばすような需要の低下が、A社を襲いました。さらにこの経営状況で、社長の健康をも損ない、2代目社長にその重責がかかってきました。

 危機を脱するには、徹底したコストカットの中で、需要を掘り起こすか、新規の事業を見出すかと言った極めて厳しい状況です。

 このとき2代目社長は、先代の創業者にない視点で自らの事業を見直すことで活路を見出そうとします。それは、

  • ① なぜ、顧客はわれわれに仕事を依頼してきたのか?
  • ② なぜ、顧客はわれわれに仕事を依頼できなくなったのか?

という視点です。 ①は、競合ひしめく中でなぜ自分たちが選ばれてきたのかという要因探しです。言い換えれば、他社に対する強みの洗い出しです。 ②は、顧客は自分たちを不要としている要因は何かです。顧客である電力会社はこの時点でも電力の供給というサービスを停止しているわけではないので、②について言えば、自分たちの仕事を誰かがやっているか、あるいは不要とする技術などが出現したのかもしれません。何れにしても、顧客の要望が、需要低下の中でどう変わったかを徹底分析することにしました。

 営業活動を通じて顧客の要望が、依然と大きく変わってきたのは、顧客も大きなコストカットを燃料高騰や安価な購入価格をエンドユーザから要求されていることで、業者の選定に、これまでの業績よりもこれから以降の顧客への貢献を重視していることが浮かび上がってきました。つまり、顧客は、購入する設備や保守をコストだけでなく、儲けの源泉として提案するような業者を望んでいたのです。新規や保守する設備ならコストになるのではなく、儲けを生むシステムにせよといった要望です。

 A社は幸いなことに顧客にとっても大口顧客でもありました。工場での電力が大きかった為です。そこで、2代目社長は、ヘビーユーザーならではの視点で、電力会社への要望事項を挙げてみることにしました。多くの要望がある中で、これまで自社が気付いていない「電力の需要と供給との平準化」というものがありました。(昼間の工場操業時には多くの電力を使用しますが、夜間の保守時などはあまり電力を必要としません。このばらつきをなくすことを平準化といいます。)そこで、A社の技術陣はこれに目を付け、これまで単に顧客の設計指針だけで開発し製造してきた電気設備を、平準化を念頭に置いた省エネ設備にすることに成功します。夜間と昼間電力をA社独自のキャパシタ(蓄電設備)で融通しあえるようにしたのです。さらに、こうすることで、A社にとっては、電気設備を1つのシステムとしての納入できることが出来るようになり、エンドユーザの要望に応じて、設備構成を柔軟に変えることもできるようになったのです。多くの顧客も、将来の省エネに関する需要を取り込めるとして、A社のシステムに注目するようになり、更に再生可能エネルギーの重要性が益々高まる中で、A社のシステムは脚光をあびるようになりました。もちろん、厳しい財務状況も徐々に解消し、更なる独自システムの改善に努力しています。

2.成功要因は何か

 さて、A社の今回の成功の要因はどこにあるのでしょうか。前回 示した、4つのポイント:

① 誰にも売れない、誰でもできない、誰にも儲けられない
② 誰にも売れない:ニッチチャンネルの独占
③ 誰にもできない:ニッチ・コアの確立
④ 誰にも儲けられない:ニッチ・障壁の高度化

のなかで、①をつかんだにすぎません。実際は、A社のシステムを売れるのは自社だけとし、コアである電力平準化のみならず省エネ化のコア技術を高度化しなければなりません。

 一過性の強みではなく、継続的に強くあり続けるには、ニッチを深く掘り下げることが重要となってくるのです。目新しいものや流行しているサービスを追いかけても、このような強みを自社が持つことはできません。なぜなら、ニッチ市場を最もよく知っているのはヘビーユーザーでもある自社であるからです。

3.ブルーオーシャン(未踏領域)を求めて

 A社のニッチ領域は、自社の手掛けている分野の中に埋もれていました。同様に多くのニッチ領域は、従来の方法にない新規の視点で探索しなければなりません。A社の場合は、いわば「灯台もと暗し」で、自らの強みを自認していなかったということになります。

 多くの企業は、ニーズが無限で多くの顧客のいる領域を日夜探索しています。しかし、このような、ブルーオーシャン(未踏領域)は、意外にも、

  • ニーズが特殊
  • 少ない顧客

といったフィルターで、アイデアにも企画にも、待ったがかかることが多いのです。例えば、ニーズが特殊であるというのは、顧客が特殊なニーズをもつ理由をさぐると、そこには更に顧客が必要とする根本的なニーズが隠れている場合があります。A社の例では、平滑化だけでは特殊なニーズかもしれませんが、一日あるいは1週間、半年、一年を通して考えると省エネでコストダウンを効果的に行いたいという根本的なニーズがそこにあることがわかります。また、少ない顧客は、今後の潜在顧客という視点で考えてみましょう。今は少ないが、もし、自社がこれに対して解決法を提示できたら、潜在顧客はいないのでろうか、ということです。このように前提としてニッチ分野を特殊で一部の顧客のものとだけ見ていては、自らの事業展開を阻むばかりか、顧客獲得の機会損失を招きかねないということです。

 事業の規模を、顧客×商品・サービスの寿命と考えると、今は顧客が少なくても、商品・サービスの寿命を支えるニーズの強さが将来にわたって見込めるなら、それを突破口と見ることもできるでしょう。今ばかりを見ていては、未踏領域(ブルーオーシャン)を見出すことは困難ですが、商品・サービスの寿命まで考えると、大海は広がっているかもしれません。

※これまでの「創造方程式」による発想のトレーニングがしたいというなら、参考に拙著「ヒット商品を生み出すネタ出し練習帳」をどうぞ。

次回の予告

「ニッチを深めるには」を語り、ニッチ事業の発展について考えてみましょう。

松本英博 プロフィール

 

松本 英博(まつもと ひでひろ)

デジタルハリウッド大学大学院 専任教授/NVD株式会社 代表取締役

 京都府出身。18年にわたりNECに勤務。同社のパーソナルメディア開発本部で、MPEG1でのマルチメディア技術の開発と国際標準化と日本工業規格 (JIS)化を行い、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで画像圧縮技術を習得のため留学。帰国後、ネットワークス開発研究所ではWAPや i-モードなどの無線インターネットアクセス技術の応用製品の開発と国際標準化を技術マネジャーとして指揮。

 NEC退社後、ベンチャー投資会社ネオテニーにおいて大企業の新規事業開発支援、社内ベンチャーの事業化支援を行い、2002年9月にネオテニーから分離独立し、NVD株式会社(旧ネオテニーベンチャー開発)を設立、代表取締役に就任。大手企業の新規事業開発・社内ベンチャー育成などのコンサルティング 実績を持つ。

 IEEE(米国電子工学学会)会員、MIT日本人会会員。神奈川県商工労働部新産業ベンチャー事業認定委員、デジタルハリウッド大学大学院 専任教授、現在に至る。

 

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