ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第7回)
大浦総合研究所 代表/大浦勇三
ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第7回)
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ
- 梁塵秘抄 -
上方落語を代表する桂米朝(人間国宝)は、親戚から叱責を受けながらも安定した職を捨てて落語界で精進する覚悟を固めました。師匠になる桂米団治からは”一生食べていけませんよ”と諭されたといいます。ダントツの一流人は小利口や小細工とは無縁で、何かを成そうとするなら“バカになるしかない”ということですかね。ある時期落語にのめり込んだ私は色んな名人会に足を運びました。贔屓の古今亭志ん生は休演中でしたが、桂文楽、三遊亭円生、林家彦六(先代正蔵)、柳家小さん等の名人が勢揃いし、立川談志や古今亭志ん朝は次代の大看板という位置付け。国立劇場小劇場では渥美清さんが最前列で目立たぬ様に聴き入っていた姿が印象的でした。梁塵秘抄では”烏は見る世に色黒し、鷺は年は経れども猶白し、鴨の首をば短しとて継ぐものか、鶴の足をば長しとて切るものか”とあります。烏の黒と鷺の白、鴨の首の短さと鶴の足の長さを対比、”持って生まれた特質を大事に強みにせよ”ということでしょうか。楽屋は前座の人間にとり無駄口を叩かず、じっくり人間観察する場。最後は人の見てないところで何をどこまでやるかが力量のすべて。ただ、噺家は前座のプロになるのが目的ではないはずで、完璧な前座は二ツ目以降不思議と伸びないとか。売れる人・うまくなる人は余力をすべて稽古に当てる、稽古をいっぱいやった人が最後は頂点に立つ。どの世界も同じですね。
“遊びをせんとや生れけん” 「遊」
欧米人は、挑戦に喜び勇む 日本人は、安全確認の後、初めて挑戦する
安心・安全が、与えられることはありえない 自力で獲得するしかない
わからないことは恥を怖れず教えを乞う 同じことは繰り返し聞かない
俳句、短歌、小説、評論、随筆など多方面で活躍した正岡子規は病床六尺の世界で、ひたすら美を追求しながら35歳の人生を終えました。死を覚悟し死を考え続ける中、ある朝、庭の花がごく自然に咲いていることで開眼、平然と生きる大切さを悟ったといわれます。植物、特に雑草は、他の植物とタイミングをずらすことで、ライバルを気にせず目標に邁進するといいます。種が10粒あれば、発芽の時期を変えたり、タイミングを計るために時には発芽を1年前後ずらすこともあるとのこと。雑草にとって、予測不可能な逆境も承知の上の大前提。雑草というと、ひたすら耐える”根性論”の象徴に使われますが、今後は”戦略論”にも学ぶ必要がありそうです。音楽の世界もCDが売れなくなったといわれますが、メディアができるまでの音楽はすべてライブ。歌手マドンナの戦略は雑草と重なるところがあります。”絵を見る時は音を聴け”といったのは狩野派を代表する画人・狩野永徳です。
“仕事をせんとや生れけん” 「献」
自分でオマンマを食べていく 北前船を世界に拡大、地球全体につなげる
板子一枚下は地獄、の覚悟 それで十分生きていけるし、遊んで楽しめる
正解が一つとは限らない世の中 底光りをめざす、草を刈るには根を絶つ
北前船は江戸から明治にかけて、日本海沿岸・瀬戸内海・大坂までの航路を一航海270日、7人で運航されました。運送業ではなくモノと文化の移動型市場。酒田・本間家の客間は武家を迎えるために総檜づくりですが、居間は松を使う徹底した倹約ぶり。殿様よりすごいと庶民から尊敬を集めた徳望は、底光りする廊下がそのすべてを物語っています。2013年のシリコンバレートレンド予測では、“Right Now(今すぐ)社会の出現” “機械学習による生活の激変” “スキルを持つ個人が自立できる社会の到来” “オンライン教育修了証の価値急上昇” “貧富の格差拡大”などが指摘されています。これからはサッカーでいうとブラジル流の大人のサッカー。“点差や展開に応じて抑揚をつける” “型通りの攻め・守りに拘らない” “刻々と変わる流れを感じとり柔軟に試合を進める”という世界。“これじゃできないという発想はない。足場がびしょびしょならリフティングすればいいだけ”とはブラジル・サッカーを知り尽くした三浦知良選手の言葉です。
“学びをせんとや生れけん” 「学」
双葉山、初代若乃花、鉄腕稲尾 だからこそ、彼らはあんなにしぶとく強かった
身体を労わること これが、身体活動の、効率化と強靭さと粘りをつくりあげる
仕事はアウトプットが命 食うための肉体労働は、アウトプットが鮮明に見える
我々はスポーツジムで身体をいじめて一時的な充実感に浸りますが、一流の運動選手の鍛錬は量だけでなく質的にも大きな違いがありそうです。肉体をいじめることと労わることの大きなギャップ。土俵の鬼・初代横綱若乃花の土俵際のしぶとさは舟板の上での労役によるところが大きいといわれます。また、漁師の父親の手伝いで幼い頃から艪を仕込まれ、抜群のバランス感覚と強靭な下半身を身につけた鉄腕稲尾。肉体の底知れぬ可能性や肉体労働が生む強靭さを実感し、二十世紀の日本人は心から感動したのです。生きるため、食べるために身体を酷使しつつ労わることで、心身が鉄壁なまでに鍛えられることを教えられたのです。その一方、鉄腕稲尾を記録で上回った楽天・田中投手の二十一世紀型“緩急・配球”体得プロセスにも、あらためて注目していく必要がありそうです。“空を飛べないなら走れ。走れないなら歩け。歩けないなら這っていけ。どんな格好であっても前進しなさい”と鼓舞したのは黒人解放の指導者キング牧師です。
「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」
今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(六)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。
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(第7回了)
大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール
大浦総合研究所 代表 (http://www.mmjp.or.jp/ooura/) 石川県七尾市出身。 筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。 主な著作物:
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ランニングが大好きで、月に150kmほど走っているというヨコハマNOW編集長の辰巳隆昭が、お気に入りの新横浜公園のランニングコースを紹介します。 |
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