佐々木彬文の「四季・色・贅・食」 第23話 茶懐石
世界遺産に日本料理が登録される事になりました。 今までお料理で登録されているのは、フランス料理だけです。 やっと、日本の料理が登録された訳で、料理人さんたちは誇りに思っております。 日本のお料理の技もすごい物があります。 今回は茶懐石の流れの中で料理人さん達が見せる技の お・は・な・し・お話!
(包丁の説明をする:佐々木彬文)
白御飯
茶懐石の一番初めのお料理が、白御飯(これはちょっと緩く炊きます)と汁とお向う(向附)です。 決して華やかでは有りません。初めての方は凄く期待に胸ふくらませて、そして、現実を見てがっかりかもしれません。 華やかにお料理がいっぱいお膳の上に乗っているのは、酒の席を目的とした「会席料理」です。茶懐石は禅宗さんから始まった修業のための食事なのです。
お話が横道にそれましたが、ここに一番目の技が隠されています。 御飯を炊くのは昔ながらのUFOみたいなお釜です。 決して電気釜とかIH釜とかでは有りません。 最新鋭の科学の知恵がぎっしり詰まったお釜では出来ない技です。 と申しますのは、最初の御飯は少し緩く炊いていますが、これは、料理人さんが付きっきりでお釜の圧力を少し抜きながら炊く技なのです。 それで釜の真ん中に少し緩い炊き上がりの御飯、周りは仏の艶々した御飯、そして釜の縁にうっすらとお焦げを、一度に炊いてしまうのです。 それで最初のお椀には、裏千家では一文字に、表千家では丸くした御飯の一口分が盛り付けてあります。各御流儀で決まっております。とても大切な盛り付けなのです。
椀物
その季節の椀です。 見た目に美しく、もちろん美味で有り、椀の蓋を開けた時のお客様の笑顔が、ほころび喜んで下さる姿が一番の御褒めの言葉になります。ですから力が入っています。
葩餅(はなびらもち)「えっ!お菓子では?」っておっしゃる方は中々の通ですが、椀盛にも御料理の葩餅があります。 蓮根を摩り下ろして卵白と一緒に鍋の中で練ってゆきますと餅が出来上がります。 それに吸い地をそっと掛けて召し上がって頂きます。「蓮根から餅を作る」知っていて下さい。
(料理と絵:佐々木彬文)
煮物
「牛蒡(ごぼう)の一番美味しい所はどこでしょう?」「クイズ?」答えられる方は中々の食通です。 答えは「外側」です。 芯のところはちょっと硬いですが、周りは柔らかくて香り良く美味です。
そこで牛蒡の芯を抜いたお料理を御紹介させて頂きます。 それは、あく抜きなど下ごしらえした牛蒡約4寸ていどをまな板の端で先の尖った串の様なもので最初ガリガリ→こちょこちょ→ごろごろすると「スポン!」と芯が抜けます。 牛蒡のパイプの出来上がり! 輪っかのように使っても良し、中に詰め物をしても良し、お客様が召し上がる時に「え、えっ?!」って驚かれます。
箸洗い
いろいろとお料理を頂きますと「一休み」ですよと”箸洗い”が出されます。 「箸洗い」とは背が高く小ぶりの椀で、私はよくお弟子さんに”世界一うすいスープ”だと言ってます。 具に工夫をするのが料理人さん達の楽しみです。私が好んで作る具に「鱧の浮き袋」があります。
八寸
お料理でよく使われる言葉が「八寸(はっすん)」ですね。 何か分からなくても”八寸”と言う言葉はよく耳になさると思います。 裏千家では右上に「真」を盛り左下に「草」を添えます。表千家様は「天」と「地」で盛られます。
この八寸質素なお料理ですが、季節の物で工夫をして料理人がとても力を入れるお料理です。 そして、お客様にお出しした時の八寸の美しさは、皆様感激なさる事と思います。 華美で無い盛り付けに、懐石の真髄を見出せます。「真」に「織部椎茸」など、ちょうど今の季節にピッタリです。 が、ちょっとこだわって添え物の「草」のお料理を「房大根」という料理はいかがですか? これは酢の物で、輪切りの鷹の爪に白髭割干大根(無ければ干し大根で結構です)を通し、流水で一晩浸けて真っ白なリボンの様になれば、甘酢に漬けて味を付け八寸に添えます。美しいお料理です。 どの様にして鷹の爪に通したのか? どのようにして作るのか? 先ず判らない料理です(笑)
小鉢(進肴)
今の季節にしか出来ないお料理が「柿煎餅」です。 柿を1.5mm位に薄くスライスし、鯛等の白身魚も三枚におろし、塩で〆て、加減醤油で和えて柿と合わせ、大和芋などを摩り下ろして、御出汁と合わせ餡かけにします。あっさりとして優しい味で、口直しにもってこいです。
摩り下ろした芋を小鉢に盛る時、技を使います。 御箸を一本ずつ両手で持ち、粘りの有る芋を適量お箸に絡ませくるくると廻して小鉢に移します。この技で無いと上手く盛れません。
懐石料理
未だ未だ、技はありますが今回はこの辺で、皆さんお料理を楽しんで下さい。 お料理の指導もしております。懐石限定ですけど(笑)
文・絵:佐々木彬文(日本画家・裏千家茶道講師)/写真・編集:高野慈子
佐々木彬文プロフィール
● 日本画家(彬文会主宰)
● 茶道講師(裏千家 佐々木宗秀)
● クラッシックギター演奏者
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