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中小経営のニッチから国際化へ(第3回)

by staff on 2013/11/10, 日曜日

デジタルハリウッド大学大学院/NVD株式会社 松本英博

1.ニッチを深めるには

 前回まで見たように、ニッチ(niche)分野は、確かに現状のままでは見えてこない、潜在したものです。しかし、顕在化すると、大きなブルーオーシャン(未踏領域)として市場が見込めます。

 今回は、その発見を促す方法とニッチ分野を深める方法について説明しましょう。

ニッチ分野の探索

 多くのビジネスがそうであるように、お客様の要望や希望がビジネスの源泉であることは変わっていません。変わっていくのは、要望や希望であって、まるで捉えどころがないようにも思えます。更に厄介なことにお客様も要望や希望の認識がないということも良くあることです。

 となると、よく言われる「顧客の声」を聴くこともかなり辛抱のいる話です。まるで、「当たり」が来るかどうかわからないのにくじを引き続ける気分です。せめて、何度目に「当たり」が来るかもしれないとか、この分野にある可能性があるといった皮算用が欲しいと思うのは私だけではないでしょう。

 ニッチ分野の探索は、実はそれほど「くじ引き」のようなものではないのです。ただ、お客様も売り手の我々も常識、あるいは前提条件と思っていることに隠れている場合が多いといえます。事例を見てみましょう。

キッコーマンの鍋つゆ

 秋から冬にかけての家庭料理で人気の鍋料理。鍋料理を手軽に家族や友人と楽しむために市販の「鍋つゆ」を使う人も多いでしょう。確かに、調味料や食品メーカーであるキッコーマンにとって主力商品である点から、その需要は固定的にあるように思えます。

 業界情報によると、昨年は、トマト鍋やカレー鍋といった「変わり鍋」に人気があったとありますが、売り上げを見ると、寄せ鍋やちゃんこ鍋といった定番のオーソドックスな鍋に需要は回帰しはじめてるといわれています。キッコーマンはこう言った業界では断トツで強いと言った位置付けではなく、むしろ定番の鍋つゆで勝負したいところです。

 そこで同社の開発スタッフの発想が出てきます。これまでの自分たちの商品に対する疑問です。本当にお客様は自分たちの商品、さらに言えば競合他社の同製品に対してもお客様は満足しているのかという疑問です。 開発チームが、幾多のアイデアを出して、チーム以外の社員にアンケートを取り、消費者へのインタビューも実施しました。

 入念な調査でわかったことは、味そのものの要望や希望ではなく、「途中で味を変えたい」という食べ方に関するものでした。これは開発チームにとっても大きな気付きでした。それまでの真っ向からの味の勝負ばかりに議論が集中していたからです。

 そこで、アイデアとして 1回に2種類の味が楽しめるという鍋つゆを考えることにしました。 これに基づいて商品を試作し、モニター調査を行いました。ここでも、開発チームがそれまで気付かなかった内容がでてきたのです。鍋の味を変えるといった前提にしたことで、鍋を囲んで家族や 友人たちの間にコミュニケーションが生まれ、それから口コミが増えていったからです。

 その後、試作を繰り返し、種類は「ちゃんこ・白湯」、「鶏がら塩・坦々」の2つで商品化しました。既に同社によると販売計画の1.5倍のペースで売れているとのことです。

 同社のプロダクト・マネージャー室の山本裕哉氏によると、
『味種だけでのバリエーションで新市場を開拓するのではなく、消費者のニーズを深く掘り下げることに重点を置いた』

さらに、
『固定観念にとらわれなければ、市場に出ていない新しい商品は開発できる』

とも語っています。この言葉にあるように、ニッチだからといって必ずしも目新しいところにその種があるのではなく、売り手では常識と思って顧みないところにその種があったのです。

2.ニッチ分野の探索に共通すること

 さて、今回のキッコーマンの成功の要因はどこにあるのでしょうか。どうやら、効率的に探索を行うためには、既存事業の前提条件や業界の常識を再度見直す必要がありそうです。

前提条件や顧客のニーズは、商品投入のときと変化していないか

 何年も同じ商品を供給するといっても、多少なりでも、品質や性能、あるいは荷姿(パッケージなども)が変化するはずです。これは、お客様の要望に応じて変えてきた結果です。また、商品のラインアップを並べていくだけでも、お客様のどんな要望(ニーズ)に応えて変わっていったことが解ります。

 となると、この変化をみると「これは少数意見だから」といって取り上げてこなかったことはないでしょうか。最初は確かに少数意見ですが、それに自社が応じることで売上が拡大した事実も見つかるはずです。

販売の現場で常識になっていることに顧客は100%満足しているか

 営業や販売の現場で、お客様に納品、販売する際に、無意識にお客様が困っていることを無視してはいないでしょうか。これをチェックするときのヒントとして、他の業界での販売方法を見たり、比較することが役立つ場合があります。

 例えば、部品の納入を行う際に、お客様の購買部門に納品するとします。購買部門は、お客様の他の部門にそれを渡し、現場の声を聞いている筈です。「いつもの納品だけど、どうだい?」「あそこの部品は性能は良いんだけど、納期にムラあがるなあ。」といった声です。

 この声が、納品した自社の営業が拾わなければならない情報です。どうして納期にムラがあるのか。

 納期に厳しい生鮮食料品を扱う業界では、このようなことは許されません。この部品と食料品を同じに考えるのは非常識ですが、食料品がどうしてそのようなことがおこらないのかに疑問を持てば、納期に対しての気付きが出てきます。さらに言えば、ムラの多いところから、一律でもっと速く納品出来ることができるかもしれません。

アフターマーケットをフォローしているか

 この話は、販売を一過性のことと考えなければアフターマーケットとしてとらえることで、もっとニッチ分野を効率的に探し出せます。

変化をアイデアに活かしているか

 折角、聴いたお客様の声を少数の意見として活かさないのは機会損失です。何もすべての意見を取り入れよ、というわけではありません。少数の意見と思われている中に、自社の商品の弱点や強み、可能性を語っているものもあるからです。この気付きをアイデアとして社内で取り上げられる活動も重要になります。

3.ニッチ事業の展開

 良く聞くお話に「いや、良くその話は聞きますが、実際どれくらい売れるかわからないので手が出せませんよ。」といった内容です。さらに、「確実に買ってくれるお客様がいればばつですけどね。」とも。

 さて、いかがでしょうか。もっと言えば、売れるのは解らないことは競合他社も同じだから、当社は手を出さないとは思っていませんか。

 このような状態ではいつまでもニッチ分野を開拓することは出来ません。どれくらい売れるのが解らないなら、そのニーズの強さを調査しましたか。確実に買ってくれない要因をさぐりましたか。さらに、競合他社で出てこないのは本当にその理由だけでしょうか。

 すべて、一歩でて調査したり、試験的に挑戦してみたりした結果であればニッチ領域がないと言えますが、多くの場合、売り手側の勝手な思いで「売っていない、作っていない」だけかもしれません。

 ニッチ分野で事業にすることは確かに大変なことですが、上述のような『引き蘢り』の態度や見方を改めない限り、先ずはその一歩も出せないことを知っておきましょう。

※これまでの「創造方程式」による発想のトレーニングがしたいというなら、参考に拙著「ヒット商品を生み出すネタ出し練習帳」をどうぞ。

次回の予告

今回の話を受けてニッチ事業の展開、さらに国際市場への挑戦について考えてみましょう。

松本英博 プロフィール

 

松本 英博(まつもと ひでひろ)

デジタルハリウッド大学大学院 専任教授/NVD株式会社 代表取締役

 京都府出身。18年にわたりNECに勤務。同社のパーソナルメディア開発本部で、MPEG1でのマルチメディア技術の開発と国際標準化と日本工業規格 (JIS)化を行い、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで画像圧縮技術を習得のため留学。帰国後、ネットワークス開発研究所ではWAPや i-モードなどの無線インターネットアクセス技術の応用製品の開発と国際標準化を技術マネジャーとして指揮。

 NEC退社後、ベンチャー投資会社ネオテニーにおいて大企業の新規事業開発支援、社内ベンチャーの事業化支援を行い、2002年9月にネオテニーから分離独立し、NVD株式会社(旧ネオテニーベンチャー開発)を設立、代表取締役に就任。大手企業の新規事業開発・社内ベンチャー育成などのコンサルティング 実績を持つ。

 IEEE(米国電子工学学会)会員、MIT日本人会会員。神奈川県商工労働部新産業ベンチャー事業認定委員、デジタルハリウッド大学大学院 専任教授、現在に至る。

 

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