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2013年11月 三ツ池だより 「より豊かに生きる道」

by staff on 2013/11/10, 日曜日
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 今からおよそ370年前の1643年の晩秋に、宮本武蔵は九州・肥後の金峰山の麓の霊厳洞という洞窟で五輪書を書いている。今でいうと薄給で熊本藩の細川家に草鞋をぬぐ。最晩年に何を思ったのだろうか。細川家に仕えるというより、しみじみ自分の歩んできた人生を振り返りながら、戦乱から落ち着いた時代のなかで、生きてきた充実感を味わいながら、未来における剣術のあり方、剣術者の生き方に思いを馳せたのではないか。

紅葉や宮本武蔵剣ぬかず
横須賀詢

 洞窟は足場の悪いところにあるが、寺の前は穀倉地帯である。おだやかな空気がただよっている。熊本城から徒歩では一日がかりの位置になるのだろうか。その日に着くという距離感がいい。途中には峠があって、茶屋がある。宮本武蔵の剣は堂々としているが、無駄な争いはしない。多勢には向かわない。勝負も命も大事にしてきたのである。やせ我慢はしないのである。必要な勝負をすると、あとは追っ手を欺いたり、逃げるのである。勝負の時に相手を焦らして遅れて現れたりする。生きてこそなのである。二刀流も場にあわせて使い分ける。勝負は野っぱらであるとは限らない。部屋の中であったり、路地であったりする。「武士道は死ぬこととみつけたり」とは覚悟しながら、生きてこその人生を歩むことだとしている。

黄金の穂ひとはしずかに去っていく
横須賀詢

 熊本から縁があってあるタクシーの運転者が案内してくれた。なかなか霊厳洞まで尋ねる人は少ないそうであった。そのせいか、駐車をどこにするか探しているうちに、岩見観音からどんどん細い道を下って行った。大丈夫なのとおもっていたら突然雲厳禅寺のところにでた。そして稲穂の垂れる田圃の少し上がったところにPマークが見えたのだった。

 Pがまた印象的なのだった。見知らぬところのPに車を突っ込んで、雲厳禅寺や霊厳洞にいくのも変だと思って、「カフェ&アンテークショップのココペリ熊本」の店に入った。英国装飾品特集していたこの店は少し奥まったところにあったが、広い庭の先に静かな佇まいのなかにあった。落ち着いた民家になっていた。私は薪ストーブの前の席に座った。稲穂があり、霊厳洞があり、アンティーク洋風装飾品があることが、まったく不自然ではないのであった。いつぞやどこかで、「その土地に根差す文化を大事にすることだ。新しい時代はその文化のなかから必ず出てくる」と聞いた。その店の前の田圃のところに新しく鴨の遊び場が作られているのも愉快だった。

 熊本から霊厳洞への途中に峠の茶屋があったが、夏目漱石の「草枕」に出てくる茶屋のモデルになったところだという。熊本に奉職していた夏目漱石が実際に歩いたところだ。「草枕変奏曲」のなかで横田庄一郎氏は次のように書いている。「草枕は山奥の温泉場を舞台としており、俗世間から逃れてきた画工の非人間の旅を一幅の絵のようにも見ることができるだろう。何よりも美しい自然がある。自然天然には人情がないのだから、見る人にも人情はない。ただ美しいと思うだけである。その自然の風景に心を開放していく画工を迎え入れるのは温泉である。」

 宮本武蔵がこの温泉に浸かったという話は聞かないが、足ぐらいは通りすがりに浸けたことがあるのではないか。なにか夏目漱石と宮本武蔵の足跡が、私には頭の中で交差するのである。宮本武蔵が晩年を熊本のこの地に過ごし、五輪書を遺書のように書きまとめたのもわかるような気がする。

 五輪書を読み下そうとしている時にお世話になった先輩の訃報が届いた。晩年もだが長い間教会に通っていて、お世話役もやられていたと聞く。書道や謡曲をやるのは聞いていた。「生きるとは孤独なものではない。他の人の命を削とって、また自分の命を削って、他の人の命につながっていく。」教会での祈りのなかでのお話しであった。先輩はいい人生を過ごされたのだと感じた。そして、その週末の座禅の法話は次のような内容であった。「地震で塔が倒れた事例はない。塔の中央には芯柱があって、それは地に接することなく浮いている。」芯柱さえ周りに支えられているとお話のなかで感じた。

銀杏の葉の寝床にも雲掛かる
横須賀詢

 「龍が表れるといいことが起こる」と私は聞いてこの二カ月探し続けてきた。熊本の空にも、横浜清水ヶ丘教会からの坂道のうえの空にも、同じ思いで眺めていた。草枕で那美さんは画工に次のように言うのである。「私が身を投げて浮いている所をー苦しんで浮いている所じゃないんですーやすやすと往生してういている所をーきれいに画いてください」より豊かに生きるとはどんな生き方なのだろうか。宮本武蔵が五輪書を書いたこと、書く場所を金峰山の麓であったこと、那美さんが画工にお願いしたこと、それは何を意味しているのだろうか。

呑龍の支那蕎麦は秋の味
横須賀詢

 かの運転手さんは30年来、いやもっと前からの行きつけで、とてもおいしいところがあるといって、呑龍という店を案内してくれた。龍を探していて、毎日空を眺めているので、見つけられないと思っている所に、龍の名のついたお店でワンタン麺を食した。

 五輪書の中の最後の章は「空」である。空はないのである。物事にあることを知るからないことがわかるのである。これすなわち空である。私たちがない物探しをしている。それでいてないものねだりをしている。自分のなかにあるものを見つけていくと新しい可能性が出てくる。

 より豊かに生きる道とは「ないこともあり、あることもある」そのなかで、自分を自由にしていく。自分のなかにあるものが、人のお役に立っていることを知ることこそなのだと、思う今日この頃である。11月は私の本業の計量強調月間であり、11月1日は計量記念日であることを付け加えておきたい。

 

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(文・写真:横須賀 健治)

横須賀 健治プロフィール

メジャーテックツルミ 代表取締役
はかることのプロとして50年です。
食品の放射能測定のアークメジャーを設立しました。
「計量から見える幸せ」をライフワークにしています。

 

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