ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第13回)
大浦総合研究所 代表/大浦勇三
ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第13回)
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ
- 梁塵秘抄 -
“一灯を掲げて暗夜を行く。暗夜を憂うることなかれ、ただ一灯を恃(たの)め:言志四録” は江戸時代の儒学者・佐藤一斎の言葉です。この人物がいなければ日本の夜明けはなかったとの評価もあるほど。数年前、上野の国立博物館で佐藤一斎の7歳の書 “福寿” と74歳の書 “霊亀” を見る機会がありました。7歳での恐るべき老成と74歳における驚くほどの覇気に圧倒されたことを覚えています。幕末に活躍した佐久間象山・山田方谷・渡辺崋山・横井小楠などの師匠にあたります。勝海舟・吉田松陰・坂本龍馬にも大きな影響を与え、西郷隆盛に至っては終生の愛読書だったとのこと。人間を育てる、人間が育つことの素晴らしさや大切さを痛感しますね。梁塵秘抄では “幼き子どもはいとけなし、三つの車を乞ふなれば、長者は我が子の愛(かな)しさに、白牛の車ぞ興(あた)ふなる” とあります。子への愛しさ・うれしさから、三つの車(羊と鹿と牛の三車)より、もっともっと大きく立派な白い牛の曳く車を与えたとか。親の子への愛情はどの時代も変わりませんが、親がこの世からいなくならないと、そのありがたみがわからないという哀しさ。 “子供を育てる” “人を育てる” というのは時や場所を超えた一大事業。 “褒めること” “ハードルを設けること” “成功後の姿を示すこと” の重要性を説いたのは文豪・夏目漱石です。
“遊びをせんとや生れけん” 「遊」
何より絶対評価 計画の一日遅れは実行の百日遅れ、とは後藤新平
人気はフランスパン、普及はイギリス風 文化風土と多様性を遊ぶ
人生と生活にこれという正解はない いわんや、遊びにおいてをや
生きていく上での絶対の正解はなく、好奇心を駆り立てられるものへの躊躇だけが御法度(ごはっと)。計画を立てて速やかに実行に移すだけ。失敗を気にしていては革新も創造も生れそうにありません。野球で打率3割といえば強打者の勲章ですが、それでも10回の打席のうち7回は打ち損じる計算。日本プロ野球の歴史でも、3割・30本・30盗塁を達成したのは過去8人を数えるだけとのこと。 “3” という数字は人間世界にとって一つの “魔数” なのかもしれません。後藤新平は計画の壮大さから “大風呂敷” と言われましたが、都市計画家として関東大震災後に帝都復興院総裁として東京の復興計画を立案したことでも有名です。しかし、計画立案だけでなく、その中に具体的な手立てを織り込み、遅れに対する厳格な基準を持っていたことは今日でも参考になりそうです。グローバル化の世界とは文化風土を背負いながら多様性に遊ぶこと。ただ、そのための抽斗(ひきだし)を増やす熱意だけは欠かせそうにありません。
“仕事をせんとや生れけん” 「献」
ビジネス 直観が土壇場では成否を分ける、その背後には鍛え抜いた論理
論理の量が直観の質の深化を生む プロジェクトでは失敗が後を絶たない
論理レベルを乗り越え感性・直観を重視 プロジェクトは祭りと得心する
ピカソのキュビズムの背景には精密なデッサンが隠されています。バルセロナのピカソ美術館で見た15歳のデッサンは今でも脳裏に焼き付いています。アフリカ美術への傾倒や藤田嗣治が描く乳白色への探求など、必要とみた技術/スキルは手当たり次第に吸収する貪欲さ。これからのビジネスは “デジタル” と “アナログ” の総合芸術。論理と直観という視点から考えても、ビジネスが芸術から学ぶことは今後も山ほどありそうです。天敵がいるからこそ鳥も飛ぶしカエルも跳ねるというのが世の生き様。同じ場所に留まることこそ最大のリスク。そこに “遊び” という隠し味を忍び込ませる妙味。サッカーでは、新興勢力へのヤジはノーヒストリー(歴史なし)、古豪へのヤジはノーフューチャー(未来なし)。 “持続的競争優位” を構造的に築こうとすると墓穴を掘る、と米国クリステンセン教授。 “歴史も未来も” 両方を抱きしめながら、道なき道を歩むしかなさそうです。
“学びをせんとや生れけん” 「学」
厳しいから逃げる口実を必死に探す 人間は動物、ペットでなくあくまで野生
日本には古きよき価値観 グローバル社会で十分通用、徳俵で花を満開にする
道場での立会なら志ん生に勝てるが野仕合となったら斬られる、と三遊亭円生
日本では、慎重であることが美徳の一つとして大事にされ、それが一番安全という認識でした。リスクはマネジメントするというより凌ぐという感覚。しかし、激動期ではかえって危険に遭遇する機会を増やしてしまうという皮肉。ぎりぎりの徳俵で大勝負することも覚悟しなければならない時代になりました。かわいいペットを重宝して、野生であることの大切さを忘れて久しい感があります。 “圧倒的な量をめざす。量がすごいから巨匠だといわれたい” とは世界的彫刻家・流政之さん。ひたすらつくることで石の新たな力・彫刻の魅力を発見するためにも “つくり続けることに意味がある” との信念。芸術や研究開発でも “どれくらいやらないと世界で通用しないのか” という感覚の吸収が大切だという確信。正統派の三遊亭円生は落語界の王道を行った横綱ですが、真逆で八方破れの横綱・古今亭志ん生には一目も二目も置く度量の大きさと深さ。学ぶ価値がありそうですね。
「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」
今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(八)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。
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(第13回了)
大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール
大浦総合研究所 代表 (http://www.mmjp.or.jp/ooura/) 石川県七尾市出身。 筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。 主な著作物:
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