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中小経営のニッチから国際化へ(第7回)

by staff on 2014/4/10, 木曜日

デジタルハリウッド大学大学院/NVD株式会社 松本英博

1.新規事業のブート

 新規事業の立ち上げ(ブートアップ)については多くの企業で悩まれていると思います。ブートアップの課題の多くは、情報収集と分析の不足にあります。

 新規事業を行う場合、少なくとも ①顧客、②商品、③競合と代替、④規制 などを具体的に前もって調べておく必要があります。さらに、前回 解説した自社の製品・サービスのコア・コンピュタンスも評価しておかねばなりません。

 綿密な市場調査で自社のコア・コンピュタンスは強く、採算が取れるというなら、迷わず事業化に進むのでしょうが、そのような理想的な場合は少ないことでしょう。一方で、コア・コンピュタンスも不十分、市場性も見えないという中で、新規事業をブートアップすることも無謀なことです。そこで、考えるべきことは、評価が低い内容が自社にとって可制御(コントローラブル)であるかが1つの目安になり、ブートするかどうかの判断要素にもなります。

顧客のニーズが弱い

 自社が、顧客のニーズを上げることができるか。これは、大手でも非常に稀にしか起こり得ない事項です。ですから、ニーズを上げる、喚起するには、多くの顧客に対して、自社だけでは無勢である現状を冷静に判断する必要があります。多くの成功事例で市場創造の事例があるようですが、それ自体稀であることを知っておく必要があります。もっともニーズが弱いといった調査結果を見ただけで、あきらめよと言っているわけではありません。ニーズが弱い要因を探る必要があるのです。

 ソニーのウォークマンは市場創造をしたといわれます。音楽を携帯し、いつでも、どこでも聞けることを創造したといわれ、生活スタイルを変えたとさえいわれます。しかし、ウォークマンを新規事業の商品として投入すると考えた時、果たして当時の市場調査では、圧倒的なニーズがあったでしょうか。

 当時のデータを持ち合わせていないので、正確でないかもしれませんが、ウォークマンは当初、一部のマニアに興味をもたれ、そこから次第に広がったと思われます。つまり、市場調査のようなマクロ的な数字だけでは読みられないものを見落としていた可能性があると言いたいのです。それは当時、潜在的なニーズだったでしょう。

 しかし、一部のマニアを良く観測するとそこに既に将来のニーズを垣間見ることが出来たはずです。ウォークマンを買った一部のマニアは、レコードコレクターや短波リスナー、オープンリールのテープレコーダに非常に興味をもった人たちで、いずれも、演奏家ではなく、良きリスナーであり、コレクターであり、音楽ファンであったはずです。彼らの共通性は、自宅で音楽を楽しむ人たちであり、自分で音楽を集め楽しむ人でした。つまり、ここで考えることは、発想の転換です。自宅でなく、ラジオのように、自分の好きな音楽を通勤通学で聞けたらといった、それまで常識とされた音楽を楽しむ場所や時間、個人の好みを追求すれば、「携帯型テープレコーダ」の発想に到達するには時間はかからないでしょう。持ち歩ける音楽の友へのニーズが、当時の顧客も気付いていない潜在ニーズであったのです。(これを見抜いた井深大氏には敬服します。)

 ニーズが弱いのはなぜか、そこには潜在ニーズはないのかといった問いが重要となります。それが見極められれば、後は市場投入の仕方であってマーケティング戦略の領域になります。

コア・コンピュタンスが弱い

 ニーズは旺盛でこれに応えれば、ニーズを満たし、売れると見られる場合があります。しかし、ニーズに応える自社のコア・コンピュタンスが弱く、訴求力がないとあきらめる場合もあるでしょう。

 顧客のニーズは動的で気まぐれです。これに一喜一憂するのではなく、ニーズのどこまでを自社が対応できるかを考える発想の転換が必要です。例えば、携帯電話です。今でも覚えている方がいるかもしれませんが、携帯電話は、車載が主流であってポケットに入るなど夢のまた夢と思われた時代もありました。当時の電電公社(現在のNTT)の最先端技術を投入しても、ハンディ(つまり肩掛けレベル)の移動機でした。しかし、このような大きさであっても、手に入れたい顧客はいました。社用車でハンディの移動機を利用して、市場の動きを見たり、顧客との折衝に時間勝負の金融関係の営業職の方たちです。もっと言えば、例え、大きくても固定電話を持って歩くわけにはいかず、ビジネスを進める上でも競合に勝つにも必要なアイテムが、大きな携帯電話であったのです。

 Nice to have(あればよいもの)ではなく、Need to have(なければこまるもの)である顧客を見出すことで、たとえ、ニッチであってもニーズがあり、必ず売れることになります。また、市場も国内だけでなく、海外までも目を拡げることも重要です。

2.3つの目線での事業計画

 事業計画書や目論見書、企画書をみてきた筆者の経験で言わせていただくと、多くの事業計画が一本調子であるときが多いのです。一本調子とは、予想シナリオが1つしか提示されず、前提条件が手前味噌といったものです。

 『○○はこれくらいのニーズがあるので、市場調査の結果××の市場規模、それを○○はシェア△%を獲得し、事業の基盤を作ります。』
といった表現で、言葉や規模は違っていますが、市場規模の何パーセントかを手に入れるといったものである。売り上げる根拠はどうなのでしょうか。おそらくは、新規の事業や企画を認めてもらいたいとの期待で、前提条件を甘くはしていないでしょうか。ブートアップしてから失敗することを避けるなら、予想シナリオにもっと現実性を持たさなければなりません。苦労するのは実行してからでは遅いのです。

 このようなことを避けるために次の3つの視点を筆者は提案します:

  1. ニーズが売上源泉であるため、ニーズが極端に①小さい場合、②想定通り、③予想以上の場合の3つの数字を設定してその前提条件を確認する
  2. シーズは時間関数であることが多いため、開発や提供時期、発売が、①大幅に遅れた場合、②計画通り、③計画よりも前倒しの場合の3つの数字を設定して、その可能性を確認する
  3. 強力な競合や代替手段が①予想よりも早く出てきた場合、②計画通り、③自社が先行する場合の3つの数字を設定して、その確率を確認する

といった視点で、①は、最悪計画(worst case)、最尤計画(favor plan)、最善計画(best case)の3つの予想シナリオを用意して検討してみてください。

※これまでの「創造方程式」による発想のトレーニングがしたいというなら、参考に拙著「ヒット商品を生み出すネタ出し練習帳」をどうぞ。

次回の予告

中堅企業の海外展開について考えていきます。

松本英博 プロフィール

 

松本 英博(まつもと ひでひろ)

デジタルハリウッド大学大学院 専任教授/NVD株式会社 代表取締役

 京都府出身。18年にわたりNECに勤務。同社のパーソナルメディア開発本部で、MPEG1でのマルチメディア技術の開発と国際標準化と日本工業規格 (JIS)化を行い、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで画像圧縮技術を習得のため留学。帰国後、ネットワークス開発研究所ではWAPや i-モードなどの無線インターネットアクセス技術の応用製品の開発と国際標準化を技術マネジャーとして指揮。

 NEC退社後、ベンチャー投資会社ネオテニーにおいて大企業の新規事業開発支援、社内ベンチャーの事業化支援を行い、2002年9月にネオテニーから分離独立し、NVD株式会社(旧ネオテニーベンチャー開発)を設立、代表取締役に就任。大手企業の新規事業開発・社内ベンチャー育成などのコンサルティング 実績を持つ。

 IEEE(米国電子工学学会)会員、MIT日本人会会員。神奈川県商工労働部新産業ベンチャー事業認定委員、デジタルハリウッド大学大学院 専任教授、現在に至る。

 

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