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中小経営のニッチから国際化へ(第8回)

by staff on 2014/5/10, 土曜日

デジタルハリウッド大学大学院/NVD株式会社 松本英博

1.海外展開に入る前に

 ニッチ事業であっても海外展開に入る前に十分なフィージビリティー・スタディー(事業性検証)を行っておく必要があります。

 海外展開では従来の欧米だけでなく、アジアの新興国を相手に考えている企業もあることでしょう。特に中国は、人口や成長、さらに話題性などでクローズアップされます。

 しかし、表1にあるように、意外に中国は、タイやインドネシアなどを下回っています。その背景には、中国進出を最初に行った第一出陣企業が熾烈な競争で利益をすでに出す余裕がないことを示しています。

表 1 中小企業のアジアにおける製造業現地法人の財務状況(2009年度)

  売上高経常利益率(%) 日本側出資者向け支払額(百万円)
アジア全体 2.1 1.0
中国(香港を含む) 1.6 0.0
タイ 2.7 12.5
インドネシア 3.6 10.0
マレーシア 2.5 3.0
ベトナム 0.6 0.0

(注)2012年版中小企業白書から一部抜粋。売上高経常利益率は中央値。

 さらに、中国の関係者や訪問先の市政府、開発区の描くバラ色の収益予想に心奪われて、肝心な客観的な事業性の検証を怠っている例が少なくないといいます。

2.進出には冷静な判断を

 前回のこのコラム では、事業計画書は、最悪計画(worst case)、最尤計画(favor plan)、最善計画(best case)の3つの予想シナリオを用意して検討するようにお願いしました。これこそが、進出での判断に最も必要な情報です。

 まずは、これらの事業計画書によるフィージビリティー・スタディーを自社内の事業検証に使うことはもちろん、現地当局に提出し現地法人設立の認可をもらう必要があります。

 中国では、フィージビリティー・スタディーを簡素化することが多くなり、最近はそれを良いことに財務試算や事業計画に対する戦略の検討を怠ってしまう例が少なくないと、大手金融系経営コンサルタントがぼやいていたことがあります。

 さらに、経済成長率が10%を超えていたのは過去の出来事であって、2011年以降、周知のように鈍化傾向にあります。もっとも、恐れるのは、現地法人を設立した後10年近くたっても創業赤字を解消できず、清算も当局の認可が下りないといった最悪の状態です。

 『もうからなくても勉強のつもりです』とか、『こんなはずはなかった』といった事態だけは避けたいものです。そのためにも、何度も強調しますが、事業計画書によるフィージビリティー・スタディーを形式的なものではなく自社の将来性のためと思って取り組むことです。何れしても、貴重な経営資源を無駄にせず、『絵に描いた餅』になることは避けましょう。

※これまでの「創造方程式」による発想のトレーニングがしたいというなら、参考に拙著「ヒット商品を生み出すネタ出し練習帳」をどうぞ。

次回の予告

海外展開の第一歩である海外視察について考えていきます。

松本英博 プロフィール

 

松本 英博(まつもと ひでひろ)

デジタルハリウッド大学大学院 専任教授/NVD株式会社 代表取締役

 京都府出身。18年にわたりNECに勤務。同社のパーソナルメディア開発本部で、MPEG1でのマルチメディア技術の開発と国際標準化と日本工業規格 (JIS)化を行い、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで画像圧縮技術を習得のため留学。帰国後、ネットワークス開発研究所ではWAPや i-モードなどの無線インターネットアクセス技術の応用製品の開発と国際標準化を技術マネジャーとして指揮。

 NEC退社後、ベンチャー投資会社ネオテニーにおいて大企業の新規事業開発支援、社内ベンチャーの事業化支援を行い、2002年9月にネオテニーから分離独立し、NVD株式会社(旧ネオテニーベンチャー開発)を設立、代表取締役に就任。大手企業の新規事業開発・社内ベンチャー育成などのコンサルティング 実績を持つ。

 IEEE(米国電子工学学会)会員、MIT日本人会会員。神奈川県商工労働部新産業ベンチャー事業認定委員、デジタルハリウッド大学大学院 専任教授、現在に至る。

 

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