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中小経営のニッチから国際化へ(第10回 最終回)

by staff on 2014/7/10, 木曜日

デジタルハリウッド大学大学院/NVD株式会社 松本英博

1.国際化と海外進出は同じ?

 初回から前回まで中小経営と国際化について解説してきました。似たような言葉に海外進出という言葉があります。今回、これまでのまとめを、この2つの言葉の違いから始めたいと思います。

海外進出と国際化

 あくまでも海外進出は手段であり、国際化は目的です。したがって、国際化を読者の会社で進める場合、海外進出する必要はありません。たとえ日本国内であっても国際化はできます。ただ、目的である国際化に伴って、海外とのコンタクトやコミュニケーションに海外進出をすることが事業を推進する助けになればよいのです。前回に示したように、海外進出には担当者に相当の負担をかけ、リスクもとのなうことが多いことから注目されますが、海外進出以外にも落とし穴となるのが、国際化の得失を会社全体で共有していないことです。

国際化は国外から?

 黒船来航ではないですが、国際化の波は国外からくると錯覚することで、国際化の得失を考えることに思い込みが入り込む場合があります、実は、いつもの取引先やお客さまから国際化を余儀なくされる場合もあるのです。

 例えば、国内の仕入で製造するメーカーを考えてみましょう。確かに仕入部品の扱いは仕入先かもしれませんが、新興国の輸入品であるなど、海外の仕様や品質管理で行われることが少なくないでしょう。コストを下げるために安価な輸入品を使わざるを得ないとなれば、納入品の原産国や仕様、品質、歩留まりなどの情報を把握し、場合によっても補充すべき手段が必要でしょう。

 問題は、これまで国際化を意識しないで、この納品情報に頼っていると、サプライチェーンが災害や地勢的な要件(紛争やテロ、戦争など)で分断されたら、大きな被害にあうかもしれません。そうならないためにも仕入先を世界視野で現状の情報を即時に分析、判断できる能力が必要となります。

 更に顧客に対しても、国内の納入先とは限らなくなってきています。今や配送システムは、宛先が確定しておれば、ほぼ全世界に配送できます。逆に考えると、顧客が国内か国外かといったことではなく、需要の大きさだけで、どこに配送すればよいのかといった、国際的なマーケティング戦略に代わってくるのです。たとえば、日本国内の鉄道車両のメーカーは、需要が頭打ちになる国内市場に比べて需要が見込めるところとして、今やドバイの新都心の交通があります。

 また、輸入に限らず、輸出に関しても、法的に輸出できない国やモノ、サービスがあることも国際情勢によって変化するため情報を常に把握する必要が出てきています。

欧米化が国際化?

 さて、仕入先や顧客が国際化しているので、自社も欧米化する必要があるかといった質問を受けることがあります。答えは、一般的にイエスですが、そうでない場合もあります。国際化がそのまま欧米化であるとは限らないからです。欧米も新興国と取引を行っているわけで、その背景には欧米企業の利潤追求があります。欧米の方式自体が、自国に優位になる方法であることから、そのまま、日本の商慣習や法制、税制に合致することはないでしょう。そこで、国際ルールや基準、標準の論議が出てくるわけです。これらの国際的な基準が国際化で追従すべきことになります。

 日本の産業界は、これまで国際標準に対して、欧米の主張を追認することで、自国の商品やサービスを輸出してきました。しかし、今や市場が国際化すれば、市場は欧米に限らず、全世界的に通用する標準で考えることに変わってきています。そこで問題となるのは、誰がイニシアティブをとって標準の内容を自社あるいは自国に優位にするかといった規格競争が起こる時代となりました。

 標準には、2つの大義があります。1つは、標準を設けることで、利用者や顧客が混乱なく流通し、商品やサービスを享受できることです。もう1つは、標準を設けることで、売り手である企業は、市場のシェアを確保でき、売上を安定させることができるというものです。このように標準を設けることにイニシアティブをとることは企業にとっては事業展開の大きな条件になるのです。

 欧米は、産業革命以後、特許や意匠といった知的財産権が標準のイニシアティブを握ることを知っており、事業展開で必ず国際標準化戦略をしっかり作成し実践してきます。新規事業であればあるほど、前例がないため、知財に必要なイニシアティブは、標準化の方向付けを行う上で大きな力を持つことを経験上知っています。例えば、EV(電気自動車)の充電を行うプラグ形状や仕様も、安全性や利用条件、技術的な実現性を基本に、それらの分野に強い企業が標準を手掛けていこうとします。日本の国内企業も、これらの標準化でイニシアティブをとることが、市場での優位性を保つ上でも避けて通れないことになってきているのです。

2.中小経営での国際化の意義

 さて、もう読者はお気付きでしょう。インターネットや技術の向上で流通や情報交換の手軽さが浸透してきた現代では、各国内の事件が「世界規模」で非常に速く拡散する時代になっているということです。資本の規模によらず、一気に国際舞台に立たされることは必定となっているといっても過言ではないでしょう。

 国際化の時代では、正確に状況を把握し判断できる力の競争になることも意味しています。自社は国内企業でニッチ産業だからと、国際化の波に乗れないでいれば、既成の取引先や仕入先が相手にしてくれないといったことも意味しています。

 中小経営は、前回も申し上げたように、大手よりも身軽に動けるところを上手く利用しなければなりません。社内も、国際的な視点で情報を共有し、教育し、戦略を練ることも望まれる状況です。

 最初から国際標準を念頭に、ビジネス・プロトコルも身につけて、はるかに国内市場よりも大きい市場を相手にしていくことが、次世代の中小経営であると思います。

最終回によせて

十回にわたり、ニッチから国際化へ中小経営だからこそ挑戦できるポイントについて語ってきました。国際市場はまだまだ拡大しており、課題が山積する中で、せめてでも、このコラムが解決の一端となれば幸いです。 連載にお付き合い頂いた読者各位に感謝いたします。

※さて、別のビジネス・コラムの「創造方程式」による発想のトレーニングがしたいというなら、参考に拙著「ヒット商品を生み出すネタ出し練習帳」をどうぞ。

松本英博 プロフィール

 

松本 英博(まつもと ひでひろ)

デジタルハリウッド大学大学院 専任教授/NVD株式会社 代表取締役

 京都府出身。18年にわたりNECに勤務。同社のパーソナルメディア開発本部で、MPEG1でのマルチメディア技術の開発と国際標準化と日本工業規格 (JIS)化を行い、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで画像圧縮技術を習得のため留学。帰国後、ネットワークス開発研究所ではWAPや i-モードなどの無線インターネットアクセス技術の応用製品の開発と国際標準化を技術マネジャーとして指揮。

 NEC退社後、ベンチャー投資会社ネオテニーにおいて大企業の新規事業開発支援、社内ベンチャーの事業化支援を行い、2002年9月にネオテニーから分離独立し、NVD株式会社(旧ネオテニーベンチャー開発)を設立、代表取締役に就任。大手企業の新規事業開発・社内ベンチャー育成などのコンサルティング 実績を持つ。

 IEEE(米国電子工学学会)会員、MIT日本人会会員。神奈川県商工労働部新産業ベンチャー事業認定委員、デジタルハリウッド大学大学院 専任教授、現在に至る。

 

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