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ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第19回)

by staff on 2014/10/10, 金曜日

大浦総合研究所 代表/大浦勇三

ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第19回)

遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ

- 梁塵秘抄 -

 “日本企業は今なお社会的組織であって単なる利潤追求マシンではない” と見立て、いたずらに米国企業のマネをするな、日本企業の強みを生かして勝負しろと言い続けたのはジェームス・アベグレンです。本来の専門は人類学と臨床心理学で、関心は民族や組織の特質。イノベーションに国境はないが固有の文化・価値観を生かしたイノベーションはありうること、イノベーションの推進で文化風土の尊重は最優先課題であることを言い続けました。科学分野での論文不正が大きな問題になっていますが、米ハーバード大学の研究責任者は “研究開発では組織風土がすべて” と言い切ったのが印象的です。というのは、以前米国IBMのCTO(最高技術責任者)の講演で、最初から最後まで “イノベーションは組織風土が命” との言葉が繰り返されたからです。 “ポストイット” を生んだ米3Mはイノベーション企業として先頭集団。ただ、この製品は組織の産物というよりは個人の産物。しかし、その後の対応に組織のイノベーション感応度の地力が発揮されました。梁塵秘抄では “山城茄子は老ひにけり、採らで久しくなりにけり、あこかみたり、さりとてそれをば捨つべきか、措いたれ措いたれ種採らむ” とあります。熟した茄子も過ぎたるは及ばざるが如し。捨てるか、種だけ残すか、弱みも活かしようで強み。悪声を独特のせりふ回しで名人芸に高めた六代目尾上菊五郎を思い出しますね。

“遊びをせんとや生れけん” 「遊」

近代化とは風景が殺風景になること 抒情は心の中に育む
これでもういいかなと思う時はまだ目一杯やっていない時
整理・整頓の地味な作業を大事にしている組織が一番強い
下手な師匠に十年より上手な師匠に一年習う、と吾妻徳穂

 吾妻流家元・宗家の吾妻徳穂さんは、稽古一筋で躍動三昧の舞踊家といわれました。少し前まで使われた “三度のメシより好き” “前後をかえりみない” という褒め言葉がぴったり。その芸の達人が、習う・学ぶことの真髄を “良い師匠について夢中で正しい稽古をやることに尽きる” と語っているのは核心的なこと。女子ゴルフのトッププロが “練習は大切、ただし正しい練習” と繰り返すのと通じるものがあります。もういいかなと思う時はまだ正しいことを目一杯やっていない時だということですね。 “創造的な仕事をするためには働くことを楽しむことが必要” と語るのは名車ポルシェを生んだ創業者。楽しみ・遊ぶことからのみ生まれた車といえるポルシェは今でも他メーカー用の設計開発の仕事が売上げのかなりの部分を占めるとか。遊んで楽しんで、役に立たないこと・余計なことをいろいろやらなければ、何が役に立つかもわからないということですかね。

“仕事をせんとや生れけん” 「献」

一トンの塩を一緒に舐めなければ、その人間を理解できないともいう
社長には大きな責任 MBAは、繰り返し使える道具を習得する場所
世界は未知の領域 既知の道具だけでは新世界の秩序を生き抜けない
零落の反対側に踏ん張る意欲が感じられない寂寥、と詩人の金子光晴

 金子光晴は無頼で反骨の詩人といわれました。反骨という精神の復活が今こそ求められているのかもしれません。一方で恐るべき自己客観性と露悪趣味で人生を歩んだ怪物とも称されます。その金子光晴は以下を生きる指針としました。①書きたいことを書く ②身近な人間の生きざまを露出させる ③気にいらないことははっきり指摘する ④自分の情けない恥ずべき人生を隠さない ⑤自らを通して日本人と絶望の関係をはっきりさせる、というものです。その根底には、日本人に絶望しているというよりは “絶望を避けてあえて問題にしない日本人そのもの” を問題にしたかったようです。どんな領域であれ、限られた時間の中で自分が納得できる価値を生むには、絶望と対峙しながら好きなことをやるしかないということ。 “新製品開発の原動力は技術やカネではなく人間の想像力” との米HP創業者デビッド・パッカードの言葉には絶望と対決した気迫を感じますよね。

“学びをせんとや生れけん” 「学」

文字の書きぶりは、書き手や国家の振舞いをも浮き彫りにするという
粛々とした時間の流れ、薄紙の積み重ね 言葉のパワーと抽象化の力
他人の生き方を栄養にしながら、狭い範疇内で安易に学んでいく怖さ
勉強する時間と世間の理不尽な壁との間の緊張感、と作家多和田葉子

 多和田葉子さんはドイツの大学院を修了したドイツ在住の作家。知的創造力を鍛えながら世間の理不尽を批判するだけでなく、それと正面から向き合い、勉強する時間と世間の理不尽な壁との間の緊張感を大事にしました。 “言葉なしでものを感じ・考え・決心するようになった” との言に深い思索の跡が感じられます。これまで “抽象化” という言葉は多くは否定的に捉えられてきました。しかし、これだけ変化が激しい時代では、個別事象を表層だけ追いかけ回すだけでは大ケガをするだけ。米スタンフォード大学のデザインスクールはそれを先取りしている感があります。抽象力とは、どうデザインするかでなく何をデザインするか。 “状況が急激に変化すれば、現状を判断するための情報だけでは足りない。瞬時に判断せざるを得ない場合には、直感的で理想主義的な、当事者の倫理的な価値観を導きの糸として結論に向かうほかない” とは知の巨人・加藤周一。

「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」

 今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(九)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。

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(第19回了)

 

大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール

大浦勇三(おおうら ゆうぞう)  

大浦総合研究所 代表 (http://www.mmjp.or.jp/ooura/

石川県七尾市出身。
早稲田大学卒業、筑波大学大学院修了。
米国経営コンサルティング会社 アーサー・D・リトル 主席コンサルタントを経て現職。
主担当領域は、経営改革/企業再生、経営戦略/情報通信技術戦略策定、業務改革/組織改革、研究開発/商品開発マネジメント、マーケティングマネジメント、ナレッジマネジメント、イノベーションマネジメント、サプライチェーンマネジメント、人材マネジメント、コーチング/メンタリング、プロジェクト/プログラムマネジメント、ベンチャービジネス支援等のコンサルティング。

筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。

主な著作物:

  • 「ビジネス梁塵秘抄(一)~(九)」<全10巻>(大浦総合研究所:PDF版)
  • 「イノベーション・ノート」(PHP研究所)
  • 「ITプロジェクトマネジャーのためのコーチング入門」(ソフトリサーチセンター)
  • 「図解 日本版LLP/LLCまるわかり」(PHP研究所)
  • 「IT技術者キャリアアップのためのメンタリング技法」(ソフトリサーチセンター)
  • 「よいコンサルタントの見分け方、かかり方」(清話会)
  • 「日本のモノづくり - 52の論点」<共著>(日本メンテナンス協会)
  • 「現場主導型の組織運営とスピード戦略」(日本監督士協会)
  • 「eコミュニティがビジネスを変える」<訳>(東洋経済新報社)
  • 「ナレッジマネジメントが見る見るわかる」(サンマーク出版)
  • 「図解 ナレッジ・カンパニー」(東洋経済新報社)
  • 「ナレッジマネジメント革命」(東洋経済新報社 )
  • 「図解 グローバル・スタンダード革命」(東洋経済新報社)
  • 「業務改革成功への情報技術活用」(東洋経済新報社)
  • 「情報化戦略と投資評価・システム運用管理の実際」<編著>(企業研究会)
  • 「会社改革実務辞典」<共著>(産業調査会)
  • 「プロジェクトマネジャー(PM)の育成・スキルアップのためのメンタリングの進め方と実践法」 (ソフトリサーチセンター:CD-ROM版)   など

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