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ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第22回)

by staff on 2015/1/10, 土曜日

大浦総合研究所 代表/大浦勇三

ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第22回)

遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ

- 梁塵秘抄 -

 イノベーションでは、技術の重要性もさることながら、仕組みや好奇心・野生など、包括的な概念の価値が意外と大きいことが指摘されています。中でも“知(経験の抽象化)のネットワーク化”と“変幻自在な自己変革”がキーワードになりそうです。シリコンバレーの強みの一つは“経験を抽象化する”文化風土が根付いていること。経験を生のまま伝える良さもありますが、抽象化することで急速な普及と広範囲の応用が可能になる利点もあります。“抽象化スキル”は今までの延長線上の発想を断つ業物(わざもの)の切れを秘めるもの。最近は、さまざまな発想が短期的スケールに終始しがちですが、本来は長期戦での本舞台こそが勝負を決する場。長期的スケールでみた決定的な武器こそ抽象化スキル。そこでは“まるごとの人間”に寄り添う視点と行動が求められるはずで、文系も理系もない空間の創出が不可欠。ピカソからアインシュタインまでを内包するのが21世紀の経営学。梁塵秘抄では“極楽浄土の宮殿は 瑠璃の瓦を青く葺き、真珠の垂木を造り並め 瑪瑙の扉を押し開き”とあります。浄土の宮殿は宝石でできた館。瑪瑙(メノウ)のドアをふたりで開けましょうとはあの世の夢想。非現実な夢はこの世が悲惨な証拠。多様な選択肢を吟味しつつ長期戦に備える覚悟あるのみ。“生き残れるのは組織も人も、自己変革に成功したものだけです” とは歴史作家・塩野七生さんの言。

“遊びをせんとや生れけん” 「遊」

西洋の踊りは宙に飛ぶ 日本の踊りは大地を踏む
至芸とは 無常や暗闇が身心に感じられるか否か
時間の概念が一方で短期化、もう一方では長期化
世界的視野とは模倣なく気宇壮大、と本田宗一郎

 クルマに命を賭けた本田宗一郎は人生の価値を、失敗しないことではなく“倒れるごとに起き上がる”ことにあると考えていたようです。宙に舞う翼をもち大地にも根を張る生き方、そして楽観性の裏にある一種の無常観。社長退任後、ホンダの社員・家族が集うファミリーディで、現役を含む歴代社長を前に“俺も歴代の社長も皆バカばっかり。ホンダはバカが社長になるのだから、社員の皆さんが頑張っていただかないと会社は大変なことになる”と社員・家族を激励、数万人の会場が爆笑と歓喜に包まれたとのこと。本田宗一郎以外の誰も簡単には真似できない愛嬌と人間愛。仕事と生活が文化・夢・哀歓の形でぴったり一致。人真似をするのは自由だが、それでは企業は転落と崩壊の道をたどるとの信念。一生懸命とは会社のためよりは自分のため。一生懸命が価値を持つためには正しい理論にもとづく必要があるとは、さすがに根っからのエンジニアですね。

“仕事をせんとや生れけん” 「献」

この世の全てに色がある 宇宙を研究することで初めて地球がわかる
我々の目は時々曇る しばしば反面しか観ない、見たいものだけ観る
敵に感情移入 相手の判断や行動の裏を知る、彼らの身になり考える
写実から象徴 一度昇った梯子を降りる勇気を持て、と画家速水御舟

 日本画家・速水御舟は写実・細密描写から象徴的・装飾的表現へと、挑戦と脱皮を繰返しました。代表作“名樹散椿(めいじゅちりつばき)”はキュビズムにも似た表現を取り入れながら、背景の金地は金砂子(金の細粉)を一面に撒き散らした世界水準の日本画。長い間、山種美術館のチケット表紙を飾っています。何度も梯子を高くまで昇りながら、平気でそこを下りて別の梯子の高みに挑戦する開拓者魂。もう一つの代表作“炎舞”では、毎晩焚き火をたき、そこに群がる蛾を写生し生きて飛ぶ姿を表現。しかも背景の闇は黒に朱を混ぜ、単なる黒ではない深い闇。御舟は“もう一度描けと言われても二度とは出せない色”と語ったといいます。生物に造詣の深い昭和天皇は、この画に“蛾の眼が生きているね”と語られたとか。梯子を平気で降りる勇気のど真ん中には“地球を知るためには宇宙のことをわかる必要がある”との確信が秘められていたのでしょうか。

“学びをせんとや生れけん” 「学」

知識資本主義の下での市場の発展 智を練磨した者だけが勝者になる
一方向に振れる世界 広い視野で市場をどう活用するかを冷静に判断
空洞化は怖れるものではなく新世界の始まり 観念を扱う人間の出番
荷物が重く感じる時は己の力量が不足 才能・個性を価値に変換する

 “うまくきれいに失敗することだけは厳禁”とはスタンフォード大学のイノベーション規範。地球環境汚染は、成長そのものではなく鉱物燃料・原材料を使った生産が根本原因。知的資源を活用した成長への大転換が必須で、日本は江戸時代に経験済の先頭ランナー。従来とは質の異なる成長であり、医療・農水産・教育・娯楽を含む広大な分野での文化的成長。人間の歴史を俯瞰すれば、精神的・文化的な面でのビッグバンが何度かあったことは考古学の教えるところ。地球は綺麗なものと汚いものを抱え込む魅力的な混沌世界。資本主義はこのままでは過剰に向かって突き進むシステム。世界も日本も、労働分配率以上に労働者間の格差の方に大きな課題。今こそ知本主義を前面展開する絶好の機会。空洞化でなく、今までにない価値を創造する新世界の始まり。“日本の将来は、サービス産業を知識産業として強くできるかどうかにかかっている”とビル・エモット。

「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」

 今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。

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(第22回了)

 

大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール

大浦勇三(おおうら ゆうぞう)  

大浦総合研究所 代表 (http://www.mmjp.or.jp/ooura/

石川県七尾市出身。
早稲田大学卒業、筑波大学大学院修了。
米国経営コンサルティング会社 アーサー・D・リトル 主席コンサルタントを経て現職。
主担当領域は、経営改革/企業再生、経営戦略/情報通信技術戦略策定、業務改革/組織改革、研究開発/商品開発マネジメント、マーケティングマネジメント、ナレッジマネジメント、イノベーションマネジメント、サプライチェーンマネジメント、人材マネジメント、コーチング/メンタリング、プロジェクト/プログラムマネジメント、ベンチャービジネス支援等のコンサルティング。

筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。

主な著作物:

  • 「ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」<全10巻>(大浦総合研究所:PDF版)
  • 「イノベーション・ノート」(PHP研究所)
  • 「ITプロジェクトマネジャーのためのコーチング入門」(ソフトリサーチセンター)
  • 「図解 日本版LLP/LLCまるわかり」(PHP研究所)
  • 「IT技術者キャリアアップのためのメンタリング技法」(ソフトリサーチセンター)
  • 「よいコンサルタントの見分け方、かかり方」(清話会)
  • 「日本のモノづくり - 52の論点」<共著>(日本メンテナンス協会)
  • 「現場主導型の組織運営とスピード戦略」(日本監督士協会)
  • 「eコミュニティがビジネスを変える」<訳>(東洋経済新報社)
  • 「ナレッジマネジメントが見る見るわかる」(サンマーク出版)
  • 「図解 ナレッジ・カンパニー」(東洋経済新報社)
  • 「ナレッジマネジメント革命」(東洋経済新報社 )
  • 「図解 グローバル・スタンダード革命」(東洋経済新報社)
  • 「業務改革成功への情報技術活用」(東洋経済新報社)
  • 「情報化戦略と投資評価・システム運用管理の実際」<編著>(企業研究会)
  • 「会社改革実務辞典」<共著>(産業調査会)
  • 「プロジェクトマネジャー(PM)の育成・スキルアップのためのメンタリングの進め方と実践法」 (ソフトリサーチセンター:CD-ROM版)   など

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