第1回 誰でも使えるプロジェクト・マネジメント
関 淑子、付加価値技術研究所代表、MBA
Project Management Specialist, カリフォルニア州建築総合請負業者
1980年代に私は米国の小さな建設会社で働いていました。私が事務を担当していた住宅建築プロジェクトに融資していた小さな銀行から毎月様々な資料の提出を要求されましたが、その資料を作成することにより、建築の素人である私でもプロジェクト全体の進行状態を理解でき、下請け会社や資材会社への連絡や支払いもスムーズに行うことができました。
私は建設業界だけでなく、IT業界など様々な業界の現場で働いたことがありますが、プロジェクト・マネジメントはどんな業界でも役立ちます。特にシンプルな手法ほど。しかし、1987年に米国のプロジェクト・マネジメント専門家団体PMIがPMBOK(プロジェクト・マネジメント知識体系)を発表して以来、プロジェクト・マネジメントはどんどん複雑になり、専門家以外には使い難くなってきました。
PMBOKは膨大な内容を含み、分かりにくい言葉で書いてあるため、現在、世界中の様々な組織や個人がもっとシンプルで使いやすいプロジェクト・マネジメント手法を作ろうと努力しています。私も20年ほど前から、専門知識が無くても理解できるプロジェクト・マネジメント手法の開発と普及を目指し、できるだけシンプルな内容にし、又、実際の業務に使える帳票のサンプルも載せました。
1. プロジェクトを開始する前に
実際にプロジェクトを開始する前に、様々なことを明確にしておく必要があります。
1) プロジェクトとは何か?
様々な定義がありますが、私は次の4条件を満足させればプロジェクトだと考えています。
プロジェクトの4条件
- 独自性があること(繰り返しではないこと)
- 期間が決まっている
- 完成品を作ることが目的である
- 予算が決まっている
2) プロジェクト・マネジメントとは何か?
一定の期間内に一定の予算で一定の質の完成品を作るプロセスを計画し、管理する方法です。
プロジェクト・マネジメントのプロセス
開始 (Start) → 計画 (Planning) → 実行 (Execution) → 完了 (Closing)
日常業務の管理方法として有名なのはPDCA、つまり計画(Plan)、行動(Do)、点検(Check)、改善対策(Action)に使われる管理方法です。日常業務と異なり、プロジェクトは毎回異なる条件で行われるため、「開始」部分が極めて重要になります。開始部分をきちんとやらないと良い計画を立てることができません。
又、毎回、条件が異なるために、もっと良い方法が見つかっても、次にその方法が使えるプロジェクトがあるかどうかは不明です。そのために、完了時に作成する「完了報告書」には「教訓」として、プロジェクトを行っている間に発見された様々な情報、特に似たようなプロジェクトが行われる時に配慮すべき「改善対策」について提案することになっています。
3) プロジェクトの構造を知る
プロジェクトは毎回異なる条件で行われますから、未知な部分が沢山あります。プロジェクトの構造を理解すると、次のような利点があります:
- プロジェクトの範囲を決めることができる
- 複雑な仕事をタスク(シンプルな作業)の集まりに分割できる
- タスクは計測できる
- プロジェクトに必要な責任と資源が分かる
プロジェクトの構造を知るために使われる図がPBSとWBSです。
(1) PBS (Product Breakdown Structure) 製品分解図
図1 PBSの例-コンピューター・システム(Wikipedia http://en.wikipedia.org/)
PCを部品に分解した図です。自動車や飛行機などハードウェアだけでなく、ゲームやウェブサイトなどソフトウェアや引っ越しサービス・宴会などのサービスも部品に分解できます。
図2 PBSの例 ウェブサイト
図3 PBSの例 宴会
(2) WBS (Work Breakdown Structure) 作業分解図
図4 WBS概略図の例
WBSは製品/サービスを作る作業をカテゴリーごとに分けて示したもので、作成者や用途により分け方が異なりますが、最初に全体を大きなカテゴリーに分割してから、各カテゴリーの中をより細かく分割し、階層的に構造化します。このWBS概略図はハードウェア、ソフトウェア、サービスのいずれにも使うことができ、プロジェクトの最初から最後までのプロセスを一見して理解できるように作りました。
(3) PBSとWBSの違い
PBSは製品やサービスの部品リストであり、WBSは製品やサービスを作るプロジェクトの作業リストです。プロジェクトは毎回条件が異なりますから、効率的に間違いなく作業を進めていくことが日常業務より遥かに重要なので、WBSという手法が発明されたのです。
4) 開始の作業
図4で示したWBS概略図の「1.開始」カテゴリーをさらに細かく分割してみましょう。
図5 開始作業の構造
関 淑子さん プロフィール
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