映画になったヨコハマ(第3回) 巨匠が描く格差社会で起きた誘拐劇
天国と地獄
制作 1963年 東宝 |
横浜には、天国もあれば、地獄もあったようだ。高台にある裕福な大企業の重役の邸宅、それを毎日、羨望の眼差しで見上げる庶民。いつしか、言われなき憎悪を増幅させた末、凶悪な犯罪に走る。
「横浜x映画」と聞いて、本作を最初に浮べる人も多いかもしれない。1963年公開の巨匠・黒澤明監督の歴史に残る名画で、エド・マクベインの一級ミステリー『キングの身代金』を原作に、オリジナルな脚色を加え、 “格差社会” を問う重厚な社会派にして、娯楽色もたっぷりだ。
黒澤作品の常連である三船俊郎が演じるのは、ナショナル・シューズの常務、権藤金吾だ。16歳から靴職人として働き重役にまで上りつめた権藤は、職人気質で良い物を作ることにこだわり、安価な製品で市場を広げたい他の取締役陣とは一線を画す。工面した5000万円で会社の株を過半数買い占め、経営の実験を握ろうと画策中だ。まさに株の売買が成立しようという矢先、息子の純(江木俊夫)を誘拐し、3000万円という法外な身代金を要求する電話が入る。
ところが、誘拐犯が連れ去ったのは、実は権藤の運転手の息子だった。自らの野望と倫理観とのせめぎ合いの末、権藤は身代金を払う決意をする。指定された受け渡し方法どおり、「特急こだま」(新幹線開業は公開翌年)の洗面所から、札束を詰め込んだカバンを投下するのだ。横浜市を見下ろせる権藤邸は西区浅間台あたり、そして、犯人の住まいは浅間町あたりとされる。横浜の暗部だった黄金町の麻薬街もきっちり描かれている。また、刑事たちが権藤邸に駆けつける際は、「横浜高島屋」のトラックで擬装している。
圧倒的な存在感を誇る三船だが、後半は、卑劣な犯人逮捕に燃えるエリート警部、戸倉(仲代達矢)が指揮する緻密な捜査が見所だ。敵対する犯人も相当な知恵者と伺えるが、着々と核心に迫っていく。狂気あふれる犯人・竹内銀次郎は、若き山崎努が熱演している。
その後、筋書きが実際の誘拐事件に模倣されたり、いろいろと社会問題となったが、50年を経ても輝きを失わない作品。モノクロ作品だが、ピンポイントで要所にだけ着色する演出にもこだわりがある。「金吾」と「銀次郎」の命名も秀逸で、対決は、「金」に軍配ありか。
横浜度(横浜の露出度、横浜を味わえる度) 50%
筆者紹介
塚崎朝子(つかさき あさこ) ジャーナリスト。世田谷生まれの世田谷育ち。読売新聞記者を経て、医学・医療、科学・技術分野の執筆が多いが、趣味の映画紹介も10年以上書き続けている。年に数時間だけ、横浜市内のキャンパスで教壇に立たせていただいている。 著書に、『新薬に挑んだ日本人科学者たち』『いつか罹る病気に備える本』(いずれも講談社)、『iPS細胞はいつ患者に届くのか』(岩波書店)など。「日経Gooday」で「その異常値、戻しましょう-STOP・メタボの12ステップ」連載中。 |
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