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書評 「古都」 新潮文庫 川端康成 著

by staff on 2015/11/10, 火曜日
 
タイトル 古都
単行本 278ページ
出版社 新潮社; 改版 (1968/8/27)
ISBN-10 4101001219
ISBN-13 978-4101001210
発売日 1968/8/27
購入 Amazonで購入

川端康成の文の美しさに触れたくなって手に取ったのが「古都」でした。カラオケで私が「千年の古都」をもち歌にしているからだけではなく、この時期ノーベル文学賞が日本人の誰の手になるのか話題になっているからでした。

「もみじの古木の幹に、すみれの花がひらいたのを、千重子はみつけた。」この書き出しが美しい。古木の幹にどのようにすみれが咲いているのか?それを見つめる、気づいている千重子はどのようなひとなのだろうか?きっと着物の似合う方なのだろうと思いがめぐった。

千重子親子三人は中庭にのぞむ、奥の座敷で夕食に向かう。べんがら格子のような表の織物問屋で、千重子は育つ。「それでええのやないか。北山杉みたいな子は、そらもう可愛いけど、いやしまへんし、いたとしたら、なにかの時に、えらい目にあわされるのとちがうやろか。木かて、まちがっても、くねっても、大きくなったらええと、お父さんは思うけど・・・。こない狭い庭の、あのもみじの老木を見てみ。」父の言葉に応える。「そのもみじみたいな強さ、千重子には・・・。もみじの幹のくぼみに生えている、すみれくらいのもんどすやろ。あ、すみれの花が、いつのまにや、なくなってしもた。」と声にかなしみがふくまれて返事がされる。

祇園祭での描写がある。「御池通りを上へ渡って、麩屋町の湯葉半へ行くのだが、叡山から北山の空へかけて、燃え上がる炎のような空を眺めて、御池通りでしばらくたたずんだ。夏の日永だから、夕映えには早い時間だし、さびしげな空の色ではない。ほんとうに盛んな炎が、空にひろがっている。“こないなこともあるのやな。はじめてやわ。”千重子は小さい鏡を出して、その強い雲の色のなかに、自分を写してみた。」

一通り祇園祭の鉾を見終わった後の「御旅所」で蝋燭をもとめ、火をともすところから物語は急展開する。その御所所で七度まいりをしているらしい娘を見つけた千重子は、その娘に、見おぼえがある気がした。誘われるように、自分もその七度まいりをはじめた。

「娘はくいいるように、千重子を見つめた。“なに、お祈りやしたの?”と、千津子はたずねた。“見といやしたか。”と娘は声をふるわせた。“姉の行方を知りとうて・・・。あんた、姉さんや。神さまのお引き合わせどす。”と、娘の目に涙があふれた。たしかに、あの北山杉の娘であった。」名は苗子といった。さいならを三度も苗子は言ったが、千重子はあたたかい親しみが、こみあげて来るようだった。

「千重子は苗子に、聞き落したことが三つあった。千重子を捨てに来たのは、赤んぼのころだったが、なぜ苗子でなくて、千重子をすてたのか。父が杉から落ちたのは、いつだったのだろうか。また、杉の村よりも、もっと山奥の、母のさとで生まれたらしい、と、苗子は言った。そこはなんというところなのだろうか。」

背表紙に書かれている。捨て子ではあったが京の商家の一人娘として美しく成長した千重子は、祇園祭の夜、自分に瓜二つの村娘苗子に出逢い、胸が騒いだ。二人はふたごだった。お互いにひかれあい、懐かしみあいながらも永すぎた環境の違いから一緒には過ごすことが出来ない。そして次のような場面もあるのであった。

「気軽う受け取っておくれやす。わたしのお約束どしたけど、千重子さんからのお頼みの帯どす。わたしは、ただの、織工やとお思いやしとくれやす。心をこめて、織らしてもらいましたけどな。」「千津子さんは、小さいときから、きものを見なれといやすさかい、苗子さんにお送りやした、きものと帯も、きっと合います。」「杉の幹が、細工物みたいに、そろって立っているのは、そうやろ思てましたがけど、上の方の枝の葉も、地味な花みたいどすな。」

「秀男さん、千重子さんのありかが知れたら、もう、あたしは、おつきあいせんようにしとおすね。きものと帯は、いちどだけ、身にしみていただきますけど・・・。おわかりやしとくれやすやろ。」「時代祭には、来とくれやすな。帯は、苗子さんがおしめやしところを、見てももらいとおすけど、千重子さんは、誘わしまへん。お祭りの行列は、御所から出まっさかい、西の蛤御門のとこで、お待ちしてもろてます。そいで、よろしおすな。」

川端文学のなかでというと、おかしいかもしれないが「きもの」「いのち」「よろこぶ」をひらがなで書き留めているところがあった。ことばの流れをだいじにしているからだろうと思った。ひらがなの方がやわらかで、流れるようでいて、なにかはかない。喜びもまたはかないものではないだろうか。

「古都」のなかの表現でつぎのような部分がでてくる。「花は生きている。短い命だが。明らかに生きる。来る年には、つぼみをつけて開く。――この自然がいきているように。・・・」そして最終章に入っていく。「”これはあたしがあげるの。また、来とくれやすんんんな“苗子は首を振った。千重子はべんがら格子戸につかまって長いこと見送った。」

(文:横須賀 健治)

 

 

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