ヨコハマ・ディスコグラフィティー　第44回　第６章　社会人編　16

１年間の通院後、先生のリハビリの甲斐もあって、順調に声もコントロールできるようになり、ハスキーだった声もハリと伸びが出てきました。
先生から、そろそろ後は自分でリハビリを続けなさい、ということで治療は終了しました。
しかし武器にしていた裏声は以前の様には出ません。。。

この一年間は正に試練の日々でした。失ったものに対して苦しみ、もがき、何度も諦めかけて転職を考えたこともありました。しかし、ある時私は考えました。これは私に神が与えた試練なんだと。。。裏声が出なければ歌い手としてやっていけないのか？　ハスキーボイスでは人を感動させる歌は歌えないのか？

そうではない、裏声を使わない偉大な歌手は沢山いるし、ハスキーボイスは味わいがあって個性も際立たせる。今ある現実を受け入れよう、今ある私の身の回りの全ての物に感謝しよう、そう考えたら気持ちが楽になりました。

表声だけだって人より十分な音域があるじゃないか、自分なりですが十分魅力的な声じゃないか、と冷静に考えたらそう思えるようになりました。裏声なんかに頼るな！　今ある声で努力して人を感動させる歌を歌ってみろ！　そう自分自身の中にいる神様に言われているんだと思いました。

若い頃、バンドの先輩たちがよく言っていました。　「声なんか一度や二度潰さなきゃいい声は出ないんだ。俺の知ってるボーカルなんか毎日海に行って潮風に大声出してわざと潰してたぜ」とか、「とある演歌歌手なんかレッスンの先生にピアノの横で暑いのにストーブたいて大汗かきながらもっと声をからせろ、もっとだ！　とか言われて、あのしゃがれ声を手に入れた」とか、よく聞かされました。

一節には、あのハスキーボイスで有名な人たちの中には、元々良性のポリープが出来た時そのまま無理やり歌い続けることによって、逆にポリープを餅のように固くしてしまい、上手に転がす事で喉をコントロールできるようになったと。。。本当か嘘か分かりませんが、こんな話も聞いたことがありました。

あながちデタラメではないかも知れないと思います。知り合いの先輩歌手でハスキーボイスが売りの人がいて、「俺なんかしょっちゅう声が出なくなるよ、でも医者には行かねえんだ、すぐ手術しろって言うからな、俺は手術が嫌いなんだ。」

私は小さい時から黒人のボーカルが大好きで、特にオーテスレディングの声が好きでしたが、彼は何度も声帯ポリープを患っていて、ドックオブベイの録音の時は正にその時だったと聞いています。なんて物哀しいステキな響きなんでしょう。

耳鼻咽喉科のお医者さんの中にはすぐ手術したほうが良いという人もいれば、こんなもんほっといても平気だよという人も最近はいるようです。

私はもう声帯ポリープが出来ても二度と手術はしません。悪性の場合は別ですが、綺麗な声で歌いたいと思えばポリープを取れば良い訳です。（余談ですが１５年ほど前一度調子が悪くなり、とある街の小さい耳鼻咽喉科へ行ったら、また「小さいポリープができてます」と言われました。もちろんほっておきました。数年後、違う耳鼻咽喉科へ行ったら、「ポリープなんてありませんよ。きれいなもんですと言われました。。。」　これは一体何？　私には良くわかりませんが、あれから２０年以上たち、今は裏声もかなり出るようになりました。全盛期には遠く及びませんが不自由はありません。

第41回号で特集したチェスレコードで大人気を博したマディ・ウオーターズは、ブルースを広く人々に知らしめましたが、それは黒人たちの間での事で、当時のアメリカの白人には受け入れられませんでしたが、ここで大異変が起こります。１９５５年映画「暴力教室」に使われた「ロック・アラウンド・ザ・クロック（ビルヘイリー）」が売れて、エルビスプレスリーも登場！　世にロックンロール旋風なるものが吹き荒れていたこの年、マディと同じチェスレコードから出たチャック・ベリーが「メイベリン」で大ヒットを飛ばし世に出ます。彼が凄いのは、自分で作詞作曲をしている事。その歌詞がユニークで分かりやすく、ティーンネイジャーの身近にあることを題材にしているため、白人の若者にも広く受け入れられました。

やがてテレビにも登場するようになると、ギターを弾きながらあひるの様に歩くダックウォークや、足の間でギターを弾いたりするパフォーマンスも受けて、一躍人気者になります。又、特筆すべきは、独創的なそのギターテクニックで、ブギウギピアノからインスピレーションを受けたとされるロックロールリフは、余りにも有名で、ギタリストなら一度は弾いたことがあるはずです。他に「ジョニーBグッド」や「ロールオーバーベートーベン」のイントロに代表されるFのコードフォームを分解したようなソロ。キースルチャーズやエリッククラプトンなどロックの歴史を作ったギタリストの殆どが、ギターを覚え始めにチャックのギターを一生懸命コピーしています。それらが今でもロックミュージックの基礎となり、現在のロックに受け継がれているのは驚きであり、チャックの独創性の輝かしい実績でしょう。

個性的な性格的ゆえ中々問題があるようで、何度か刑務所暮しをしたようです。又、初期の頃は著作権の問題など知らないがゆえ正当な利益を得ることが出来ず、晩年はお金には相当執着があったようです。どこの国でもギター１本抱え、バンドは現地調達でギャラは独り占め、日本でも伝説ですが、バックを務めた日本のバンドがリハーサルで楽譜は？　と聞くと「そんなもんあるわけないだろう」何の曲をやりますか？　キーは？　「俺の曲に決まってるだろう、ついてこい」といって、全て勝手に始めるのだそうです。とは言っても相手はロックロールキングですからね、大変だった様です。

チャックベリーがロックロールギターボーカルの元祖なら、リトルリチャードはロックンロールピアノボーカルの元祖であると言えるでしょう。ピアノを速射砲の様に叩いて弾いたり、足で弾いたり、あげくその上に乗っかって飛んだり跳ねたり、こんなことしたのはこの人が初めてでしょう。ユニークで分かりやすい、そしてキャッチーなコピータイトルを生み出して若者たちを夢中にさせています。「トゥッティフルッティ」、「グッドゴーリーミスモーリー」、「ジェニジェニ」など、タイトルを聴いているだけでリズムが浮かんできそうです。特筆すべきは高音で絶叫し続けるそのボーカルスタイルで、これに魅了されコピーし自分のモノにしたのがビートルズのポールマッカートニーです。CCRのジョンフォガティや同郷の後輩オーティスレディングなども多大な影響を受けています。

公然のゲイで、破天荒な性格。ステージに上がる前は鏡を見続けて「私はやっぱり美しい！」と絶叫して、テンションを上げステージに向かうそうです。彼は牧師さんの家に生まれたのにオカマちゃんだった為、親に見放されています。その為か、１９５５年から２年間大ヒットを連発しロックンロール旋風の先陣を切っていたのに２年後に突然引退。大学に入学して神道をおさめ牧師になってゴスペルを歌いました。しかし、ロックは悪魔の音楽と言っていたのに、１９６２年にロックの世界に復帰。この時イギリスツアーの前座を務めていたのが売れる前のビートルズで、しかもバックでギターを弾いていたのがジミヘンドリックスだったというのも興味深いお話です。その後もゴスペルとロックの世界を行ったり来たり、現在は体を悪くし歌手引退を宣言しました。

今回紹介の二人は、共にロック誕生の年と言われる１９５５年デビューで、エルビスと共に彼らのおかげでロックは誕生したと言えるでしょう。この二人は、当時のアメリカで黒人でありながら白人の若者をも熱狂させました。エルビスはもちろん偉大でしたが、この二人は強烈な個性に加え、楽器を演奏出来て歌も歌い作曲も出来たという所が、後のロッカー達の目指すところとなりました。特にビートルズに与えた影響は大きいです。ジョンはチャックベリー、ポールはリトルリチャードと、それぞれ全く違う個性のロックロールスタイルを追求して、それがひとつになった時、ビートルズと言う新しいロックが誕生したのです。