第46回 小屋偏愛(島のヴァナキュラー建築)
一級建築士事務所 水口建築デザイン室
水口 裕之
小屋偏愛(島のヴァナキュラー建築)
私は生まれが四国(香川県)なので今でも瀬戸内海の島々などの田舎を芸術祭などの折に訪れることが度々あります。島の風景と一体化した芸術作品ももちろん素晴らしいものが多いのですが、島のあちこちを歩いて巡る中で出会う、島での暮らしを物語るような古い建物の方に強く魅かれ気がつけば多く写真を撮ってしまっています。ほとんど設計者などが介在することもなく限られた材料とありふれた昔ながらの工法とで作られた小屋や民家などがなぜそれほど魅力的に映るのでしょうか。
それらに共通するのは極めて限定された材料だけでつくられているということで、外壁は板(焼杉や船板など)、トタン、土壁、モルタル、屋根は瓦、トタン、スレートを組み合わせているだけで、地方でも当たり前のサイディングやコロニアル瓦などが使用されることはまずありません。窓や建具もほとんどが木で簡単にあつらえたようなもので、少し新しめの建物になると一応アルミサッシが使用されています。規模が小さいほど工事も工務店が施工したというよりも施主自身やお知り合いの素人の手にて施工したと思われる部分も多く見受けられます。島ということで交通・流通事情も良くなく人手も限られているので、身の回りにある材料、簡単に手に入る材料(廃材など含む)で自給自足的に作られていったものと思われます。
納屋などの建物は窓もほとんどないような平屋で、構造的に極めてシンプルな架構に適当に出入口と開口部を素っ気なく設けただけのようにしか見えないのですが、建物全体の小ささとのバランスが絶妙に感じられたりして、建物や開口部のプロポーションをふだん熟考している身としては「これでよいのだ」と逆に勉強させられている気になります。
またどの島も人口減少により住まわれなくなって手入れが行き届かなかったり放置されてしまったような民家などがとても多く、田舎ののんびりと静かな風景の中で風雨にさらされながらゆっくりと朽ちてゆき、緑に取り囲まれて再び自然に戻ろうとしているような状態の建物も多く、そこまでいかなくとも決して意図したようなガーデニングではなく自然と緑と共存してしまっているような建物があったりしてそれはそれでとても美しく見えます。
現代ではもちろん法規により建築物の耐震性、防火性などの最低基準が定められており、また2020年以降の省エネ建築の義務化により、これらの建物と同じようなものを作るのはほとんど無理なのでしょうが、古い小屋を上手くリノベーションして活用している事例は増えています。それに伴い一部の島では若い人が転入してきて古い民家に住み始めるというケースも表れ、過疎化していた島の人口が増加しているとも聞きます。これらの古い小屋や民家を田舎にしかない資産としてこれからも有効に活用して頂けたらと思います。私も古い建物のリフォーム、リノベーションの設計もしてますが、新築の建物を設計する際にもその建物が現在の建て主だけでなくその次の世代、または建物の用途を変えて他の使用者にもずっと使用し続けてもらえるような使いやすい器となるよう、100年後の民家をつくろうというような視点を持つようになってきています。
山と田んぼを背景にポツンと建つ小屋。トタン葺の建物にスレート葺の建物を増築したのか微妙な2トーン仕立てがおしゃれです。窓のオレンジはコンクリート打放し用の型枠合板。耐水性がよいためかここらでは結構流行っているようです。
黒い焼杉といぶし瓦、トタンの玄関庇と赤い郵政省標準規格ポスト。完璧にレイアウトされたプロポーションに緑のツタが絡まる加減も最高です。
畑を見渡すような横に長い切妻の納屋。山を背景に、軒の低さと瓦屋根の大きさのバランスが素晴らしい。
個性的な色のスレートの建物。普通グレーのセメント色のままでよいはずですがどうして緑色に塗ったのでしょう。。その色むら具合が美しいです。
漁港が近いせいかオレンジ色でもなぜか風景にうまく溶け込んでいます。船に塗った塗料が余っていたのかもしれません。
板張の外壁の上に配管もろともモルタルを上塗りしているのでしょうか。。配管の青いビニールテープとモルタルのひび割れも込みでアート作品のように見えてしまいます。
建物はどのように朽ちていくのかを丁寧に教えてくれるようです。昔の建物は手をかけて作っているから朽ちていっても様になります。
アーティストによるアートワークが入った小屋。元の小屋だけ見ても色もプロポーションも美しいですが上手くその魅力を引き立ててくれています。それにしても外壁のトタンの赤と青のまだらは、青いトタンを赤く塗ったのか、赤いトタンを青く塗ったのか見分けがつきません。
一級建築士事務所 水口建築デザイン室 水口 裕之
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