横浜スケッチ(第19回) 一人旅の「孤独感と非孤独感」
ペンネーム 成見 淳
一人旅の良さは「非日常の世界」「孤独感」、孤独だからこそ得られる「自己との対話」、そしてその対極としての「旅先での交流」つまり「非孤独感」にあると思っている。言葉は喋れた方が良いに決まっているが、言葉以外に心を通わせる手段はいくらでもある。
「アムステルダムの運河3」水彩F4 2016年
旅の初日。12時間のフライトの後、市内を歩き回って出会った風景。
この頃はスケッチポイントを探すのに必死で孤独感はなかったが・・・。
歩き疲れて宿に帰る途中、
この夕暮れの光景を目にした時、
急に孤独感が襲ってきた。
一人旅は準備に時間と手間がかかり、行く前も、行ってからも決して気ままではないのだが、その分期待と想像がどんどん膨らむ。
一方、帰国してからは『もう一週間か。今頃は…。』『あれあれ。一か月たってしまった…。』と、秋の日没と相まって過ぎ行くスピードに驚かされる。
9月19日に帰国して、原稿を書いて、記憶の確かなうちに描き残したスケッチを仕上げてという毎日に追われ、『そろそろ原稿を書かなければ・・・』という頃になって一枚も横浜の絵を描いていないことに気が付き愕然とした。
さて、何を描こうかと考えながら、同じヨコハマNOW執筆者である梅澤勉さんのイタリアでの五円玉と折り紙のエピソード(10月号)を思い出した。
『そうだ! 旅先で出会った人との、必ずしも言葉だけでない交流。このテーマなら書ける。しかも前回の締め切りに間に合わなかったスケッチも陽の目を見る!』
一瞬のうちに折り紙とスケッチが頭の中で重なった。
今回に限らないが、海外でスケッチをしていると色々な人から話しかけられる。日本では描いている後ろに無言で寄って来て背後霊のように立ち、いつの間にか無言で去って行くことが多い。邪魔をしないようにとの心遣いであろうが、何か背中のあたりが寒くなってぞくぞくしてしまう。
振り返ってみると、私の場合なぜか少年少女、それもやや不良っぽい子供たちに話しかけられることが多い。
エディンバラ城の広場前を下った所をクロッキー帳に走り書きしたものが見つかった。1993年9月
1998年、エディンバラの南東10Kmほどのマッセルバラ・ゴルフ・コース、モンクトンホールのメンバー達と別れて無人駅に着くと少女3人少年2人の12~14才の不良っぽい子供達がいた。 タバコは吸う、やたら唾は吐く。どう見ても不良。1時間40分の列車待ちの間にスケッチをしていたら、全員集私の所に集まって来て質問攻め。お前は柔道が出来るか、カンフーが出来るか。日本ではタバコは何歳から吸えるか。持参のポストカードをあげると、サインしろ、住所を書け、自分たちの名前を漢字でどう書くか教えろ。
そんなことがあって帰国して一か月後に、リーダー格のWilliamから手紙が来た。短い手紙の中に、スコットランドの国旗と日本の国旗がクロスして描かれていた。
その1年後に彼から手紙が来て、何度かメールのやり取りがあって、何年だったか忘れたが初めて会って3年後位にEdinburghのWaverley駅で会った時は少年らしさがすっかり無くなってどこか神経質そうな青年になっていたばかりでなく、娘が出来たと言っていたので驚いてしまった。せいぜい二十歳、いや未成年に見えるのに。
その後、何回かパソコンが壊れ、アドレスも分からなくなり連絡が途絶えてしまった。エディンバラの街ですれ違ったとしても分からないだろうなあ。
あれから16年。
「エディンバラ城」水彩F4 2016年
スコットランドはどんよりした天気が多いが、たまには快晴の日もある。
(「北海道には梅雨がない。」とは言っても雨は降るように。)
同じ1998年9月21、22日とスノードン山のあまりの雄大さに、当初予定していたプリモスなどのイギリス南西部は急遽翌年に回すことにして、カナーヴォンに延泊した。(この頃は予約なしでもB&B―日本の民宿のようなもの―に簡単に泊まれたが、今年はB&Bに限らずどこも混んでいておまけに高い。)
21日夕食後、ライトアップされたお城を川のほとりから描き始めると、城の階段に座っていた女の子5人が道路の反対側から大きな声で話し掛けて来た。
「そこで何しているの。」「見てのとおりスケッチしているよ。」
好奇心旺盛な彼女達はすぐに寄って来た。年の頃15~16歳。一般にイギリスの女の子は(子供に限らず)垢抜けしない子が多いのだが、ウェールズの彼女らは5人とも美人。でも、『夜の8時ごろ人気のない所でたむろしているのはどうなのかな?』と思いながらも、次から次へと質問に答える形で1時間位話した頃、口笛が鳴って少年たちが車で迎えに来て、一緒に走り去って行った。『どこにもあるような光景だなあ』
22日、時速5Kmの登山鉄道でスノードン山頂に登り、あまりの雄大さ、素晴らしさ(360度+上下の大パノラマ)に魅了され、30分間の停車時間の間に景色を見て、トイレに行って、素早くスケッチをした。
鉛筆とペン、山頂で。 | 水彩色鉛筆、帰りの機中で。 |
「Mt. Snowdon」油彩15号
スノードン山から帰って夕食後お城の前を歩いていると、口笛が鳴って昨晩あった彼女達がその晩もたむろしていた。お互いに手を振りながら孤独な一人旅が決して孤独ではないような気がした。
何年かは思い出せないがエディンバラから列車で1時間のグラスゴー駅前で蒸気機関を発明改良したジェームズ・ワットの銅像のある広場を描いていた。
(ちなみに日本に例えると前者は京都、後者に大阪似ている。)
例によって大都市には少年達がたむろしているがグラスゴーも例外ではない。
普通に仲間たちと話をしているのとどこが違うかというと、体を揺らしながら話すあの落ち着きのなさ、虚勢を示すような態度。
『嫌だなあ。』と思っていたら寄って来た。そして質問責め。
でも、やっぱりあどけなさが残っていて、話をしていると楽しい。『これは不良じゃあない。自分の偏見だった。』と反省。
褒めてくれるが「上手く描けなくてね。でもメモみたいなものだから良いのさ。」と言うと「目に焼き付けて置くと良いよ。」などと嬉しいことを言う。
描き終わり別れて、振り返るとまだ手を振っていた。
この「孤独感」と、「人間どこへ行っても決して孤独ではない感」。
これを味わえるのも一人旅の良さなのだろう。
さて、次はどこへ行こうか。
<参考資料>
- 私のホームページ 「Life is an Expression」
「UK遍」⇒「Caernarfonで出会った少年少女」
「スノードン山頂」
「スコットランドからの手紙」
「Gallery」⇒「如水会報扉絵」
筆者紹介
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