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しあわせの「コツ」(第2回) 分かっているのに、分けられない

by staff on 2017/2/10, 金曜日

第2回 分かっているのに、分けられない

(国宝 久隅守景筆 夕顔棚納涼図)

学生の頃の話。言語学の大家であった恩師いわく
「『親子』というのは英語に訳せないんですよ」

八か国語を操り、古代ギリシア語で寝言を言う(本当です。証人あり)ほどの先生がそういうのです。
「え?  parent and childじゃないんですか?」
(何をバカなことを、と内心思いつつ)答える浅はかな私。

先生   「それは『親』と『子』でしょ。『親子』に『と』はないんだよ。」
私   「???」

先生がおっしゃるには、1枚の紙でさえ、表が出来てから裏ができるのではなく、「紙」とはそもそも表と裏が一体となったもので、分けることはできない、
親子もそれと同じだというのです。
そういう視点で見ると、上下、左右、前後、陰陽、男女、夫婦というのも「親子」と同じ関係にあることが分かります。

私たちは対になっているものを、紙の裏表のように「同じものの二つの側面」と考えますが、表「と」裏のように二つを分けて考える文化もあります。そう、西洋的な思考では分けて考えますね。それを頭の中で合成するのでしょう。心「と」身体、自分「と」他人のように、本来別々のものが「と」によって関係づけられる、と考えるのです。

先生   「西洋は物事を空間的に考えるからこうなるのです。
まあ数学的というかな。『時間』が抜け落ちているんですね。
だから『アキレスと亀』のような詭弁が生まれるのでしょう。」

そう言われてみれば、日本人は時間の移ろいにとても敏感な民族ですね。
「諸行無常」とか、鴨長明の「ゆく川の流れは絶えずして~」とか、時の流れを受け入れ、いとおしむ感性があるように思います。

「時」に焦点を合わせて物事を見ると、色々なものが同時に生成していることが分かります。私たちには生成する事象を分析せずに、ダイナミックにとらえる感覚が備わっているのかもしれません。だから「親子」のような分かちがたい存在を、丸ごと受け入れることができるのでしょう。

最近、おもしろいことが分かってきました。「Nature Neuroscience」誌(2016.12.19発行)に、バルセロナ自治大学のオスカー・ヴィリャローヤ率いる研究チームの、妊娠した女性の脳の構造についての臨床研究論文が掲載されていました。

それによると、女性は妊娠すると、赤ちゃんにより共感できるように脳がカスタマイズされるというのです。

具体的には、前頭皮質中央と後部皮質の灰白質、および前頭前皮質と側頭皮質の一部が小さくなります。これは、脳が委縮したのではなく、「シナプスの剪定」のようなもので、不要なシナプスが刈り込まれ、必要なシナプスが強められる現象です。この変化はMRIではっきりと確認できるほど顕著なものだそうです。

妊娠と同時に始まる母親の脳の変化。
私たちが分かちがたいものと認識している「親子」という存在が、やはり最初から「一体のもの」であることが臨床的にも証明されたのです!

興味深いことに、「親子」のような関係にある存在に、「対生成」とか「共依存」という概念で、西洋の学問がぎこちなくアプローチし始めたのは、なんと20世紀に入ってからでした。

あとがき
冒頭の絵は、有名な久隅守景の「夕顔棚納涼図」です。
この、なんともユルい感じがいいですね。
「あ~今日も暑かったなぁ」「そうだったねぇ、お前さん。でも、いい風・・・」
「ちゃん、お腹すいてきた!」そんな親子の会話が聞こえてくるようではありませんか。この絵を「国宝」に指定する感性はさすが日本!

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・株式会社エランビタール代表取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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