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書評 「守り抜いた医の灯」~公立相馬総合病院の奇跡~ 河北新報社 福永久典 著

by staff on 2017/9/10, 日曜日
 
タイトル 守り抜いた医の灯 公立相馬総合病院の奇跡
単行本 176ページ
出版社 河北新報社; A5版(2017/6/30)
ISBN-10 487341363X
ISBN-13 978-4873413631
発売日 2017/6/30
購入 守り抜いた医の灯 公立相馬総合病院の奇跡

8月のある日、ヨコハマNOWの編集部に1冊の本が送られてきました。
同封の手紙には下記の内容が書かれていました。
(長いですが差出人の許可を得て全文掲載いたします。)

ヨコハマNOW編集部 御中

英国クイーンズ大学ベルファストの福永と申します。福島原発事故被災地で臨床に従事したことがきっかけとなり、東北大学病院を経て、現在、英国で放射線医学の研究を行っております。

私はもともと神奈川で生まれ育ちましたが、横浜市立大学医学部在学中に東日本大震災および福島原発事故があり、それから被災地医療にずっと携わってきました。
医学部卒業後に被災地・福島県相双地域にある公立相馬総合病院の「はじめての研修医」として臨床に従事しました。あまり知られていませんが、公立相馬総合病院は原発事故直後の混乱期において、爆発した原発を擁する同地域で、唯一診療を継続しえた地域中核病院です。
私は被災地では色々な方々にお世話になりながら、自身の臨床研修を行うだけでなく、被災地医療のデータをまとめて国際医学誌で論文発表したり、原発事故による放射線被ばく影響の研究を行ってきました。また、母校である横浜市立大学医学部と被災地病院の人的交流の橋渡しを図り、実際、横浜市立大学附属病院、横浜市立大学附属市民総合医療センターと公立相馬総合病院との間で臨床研修協定が締結されました。それらの活動を通じて、恥ずかしながら「横浜からの黒船」などと、一部の医療従事者から呼ばれてまいりました。

このたび、当時の個人的な体験と、震災直後からの公立相馬総合病院の奮闘と挑戦、そして被災地医療の諸課題などをまとめた拙著『守り抜いた医の灯 公立相馬総合病院の奇跡』を河北新報出版センターから6月30日に出版しました。本書を通じて、相双地域でお世話になった人たちへの恩返しも兼ねて、いまだに医療従事者不足に困窮する被災地医療にすこしでも貢献出来ればと願っております。 拙い文章ではございますが、ぜひ神奈川の方々にも読んで頂ければと考えております。
私を含めて横浜市立大学医学部からはこれまでに3人の研修医が公立相馬総合病院で臨床研修を行っており、来年度も1名入職の予定があると伺っております。横浜と原発被災地の間にそのような絆が結ばれていることは広く知ってもらえたなら、関係者一同たいへん嬉しく思います。

震災から6年以上が経ちましたが、原発事故の影響は未だに収束せず、現地では引き続き支援を要する状況です。もし可能であれば、ヨコハマNOWの横浜ブックス書評にて拙著を採り上げては頂けませんでしょうか?
もし宜しければ貴編集部に拙著を献本させて頂きたく思っております。何卒ご検討のほど宜しくお願い申し上げます。

クイーンズ大学ベルファスト
福永久典 拝

福永さんの熱い文章を拝見して、私は「守り抜いて医の灯」を読み始めました。

「ヨコハマNOW」では、これまで宮城県山元町等に東日本大震災の復興支援活動を行ってきました。相馬市は福島県北部にあり、山元町とも隣接しています。

著者の福永さんは、神奈川県出身で横浜市立大学医学部卒業ということで横浜にご縁がある方です。また東北大学加齢医学研究所で研究された経験もあるということにも「つながり」を感じました。

私は秋田県出身ですが、父母は宮城県出身で父は東北大学医学部出身です。父は60年以上前に地縁・血縁の全くない秋田に「無医村をなくしたい」という想いで診療所を開きました。

東日本大震災が起きたとき、私は真っ先に「父が生きていたら何をしただろう。」
という思いがよぎりました。彼は医者として高齢を顧みず現場に駆け付けたに違いない。そして私には何ができるのだろうと気持ちが、「ヨコハマNOW」で全国に支援物資を送ってくださいと呼びかけるメッセージにつながったのだと思います。

大震災後、福島原発から近い地域で唯一の公立病院として医療活動を続けていた、公立相馬総合病院に初めての研修医として単身乗り込んだ福永さんに父の姿が重なりました。

地縁・血縁のない言葉も通じない(東北の方言は難しいです)、そして被災地で原発問題も抱える病院に行くなんて、横浜で震災とは無縁の生活を送っている福永さんにとってはとてつもない決断だったと思います。

第三章の被災地で学んだこと に下記の文章がありました。

-- 一人だけの研修医室にいた時、ふとした瞬間に泣きそうになったことなんて、正直、数え切れなかった。--

-- 楽しかったことも、つらかったこともあったけれど、公立相馬総合病院で臨床研修ができて本当に良かったと、「はじめての研修医」として、今、心からそう思う。相馬の人たちは私を三度泣かせただけではなく、私に医師として医学者として「為すべきこと」を与えてくれたのである。--

つらく厳しい2年間の研修期間の間にどれだけ辛かったのか・・・。それでも困難な状況に立ち向かって一致団結して頑張っている病院のスタッフの方たちに支えられて、福永さんは医師として成長していったのです。

そしてこのような病院が日本にあったこと、現在も存続していることを多くの人たちに知ってほしいという想いでこの本を書いたのです。

私も震災後のドキュメンタリー番組で医療従事者の苦難を拝見したことはありましたが「公立相馬総合病院」の存在は存じ上げませんでした。自らも被災者であるにも関わらず患者さんたちに寄り添った医療活動を続られたこの病院のスタッフの記録を日本全国に広めていきたいという福永さんの熱い想いに共感して、私は読みながら涙を流さずにはいられませんでした。

福永さんは、研修医として診療を行いながら、災害医療と放射線被ばく影響に関する研究をされていました。そして現在は最先端の放射線生物学を修めるために、イギリスのクィーンズ大学ベルファスト大学院医学博士課程に在学中です。

彼は公立相馬総合病院に研修医として赴任したときに、「ヨコハマからの黒船」と呼ばれたそうです。江戸時代の「黒船」によって鎖国の日本が開国したように、公立相馬総合病院にとって良い刺激になったのでしょう。

福永さんのこれからの活躍を期待するとともに、多くの方に「守り抜いた医の灯」を読んでいただきたいと強く願っております。

福永さん・・・
「守り抜いた医の灯」をヨコハマNOWに送って下さってありがとうございました。
この本に出会えたことに感謝いたします。

(文:渡邊 桃伯子)

 

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