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書評「魔法のことば」 文春文庫 星野道夫 著

by staff on 2018/2/10, 土曜日
 
タイトル 魔法のことば
文庫 304ページ
出版社 文藝春秋 (2010/12/3)
ISBN-10 4167515040
ISBN-13 978-4167515041
発売日 2010/12/3
購入 魔法のことば (文春文庫)

星野さんは1996年カムチャッカにて逝去されているのである。

「これは星野道夫が語ったところを本にまとめたものである。彼の声の響きを正しく耳に蘇らせるには、ちょっと工夫がいる。まずゆっくり読むこと。」「なんといってもこれは効率がすべてを損なってしまう前の社会の智慧を書いた本なのだから。」

そう序文で池澤夏樹さんが書いておられる。そしてこの本を手に取った私は2017年の12月に体調不良で入院していた。病院の売店にいって本棚をみていたら、この本だけがしきりに私にシグナルを発しているように思えたのだった。なんの予備知識もなく冒険家としての星野道夫の書いたものとして読みはじめたのだった。

この本は星野さんが講演を頼まれた時の記録を書き出したものだ。「山が好きだったものですから、高校時代から山に登り始めて、その頃からやっぱり動物に少しずつ興味をもちだしていたのですが、ある時期、ヒグマが北海道に生きているということがすごく不思議だったのですね。考えてみれば当たり前のことなんですが、自分が東京で暮らしているのとまったく同じ時間に、北海道でクマが呼吸して生きているということがすごく新鮮というか不思議だったんです。」「北海道への憧れがさらに北のアラスカに移ってしまったわけです」「漠然と自分のなかでアラスカにいってみたいなと思うようになった」たまたま見つけたアラスカの本の中で出会った村に手紙を出したことが自分の中ですごく大きなきっかけになったのだという。

「その本は写真がたくさん載っている英語の本だったんですが、最初にその村の写真を本で見たときに、まず写真に魅かれたんですね。本当に小さな集落が、なにもない荒涼とした世界にポツンとある。それを飛行機から撮った空撮の写真で、ちょうど北極海に夕陽が落ちるところを撮った、ものすごく印象的な写真だったのです。」

「もうそれから十三年たつんですけれども、最初は五年間アラスカにいて、その五年間でやった仕事をまとめて“アラスカ”という写真集を作ろうと、本当に漠然と考えていたんです。でも、撮っていく中でそれがどんどん変わって行って、五年という時間はなんて短いんだろうとおもいましたね。」「どうして自分がアラスカにみせられていったのかと思うと、アラスカという土地が持っている自然の壮大さはもちろんあるのですが、やっぱりそこに人がいたということが大きな理由だったと思います。」

「人の暮らしがそこにあるというのはとても興味深くて、もちろんアラスカだけではなくて、日本にだっていろんな人の暮らしがあるけれども、アラスカは凄くストレートに見せてくれたんですね。皆が本当にそれぞれの生き方で生きていて、人の暮らしが持っている多様性というか、それが原野で生活している白人であれ、エスキモーであれインディアンであれ、やっぱりそれぞれに問題を持っていて、そういう人の暮らしがアラスカに魅かれていった大きなきっかけだったような気がします。」

「最初にオーロラを撮影に行ったとき、厳寒地でキャンプするのは初めてだったし、マイナス四〇度近く下がっていたので、その時はあまり行動できなくて、暗くて寒いせかいでした。1カ月間ずっとオーロラを待つだけのキャンプだったんです。その時はオーロラを撮りたいという気持ちがあったので、一カ月という時間の感覚を、あまり自分の中では現実的に想像していなかったのです。ブッシュパイロットという小型飛行機であるのですが、一カ月したら迎えに来てくださいとお願いします。」「冬の場合は、一カ月という時間がものすごく長いいんです。孤独感というほど大袈裟なものではないんですけれども、やっぱり寂しい。一日一日日記を付けて、カレンダーを消していくことがすごくうれしいんです。そして、一カ月経って、オーロラの撮影ができて、セスナで帰るという時に、もう二度とこんなことやるまいと思いました。どうしてこんなことを一カ月もやっていたんだろうと。ところが一年二年経つとそういうことは忘れてしまって、もう一度行こうかなとおもったりするんですね。」

著者は時々日本へ帰って講演をしている。そのうちの十回分ほどの記録を「魔法のことば」で本にしている。だから池澤夏樹氏は「星野道夫が優れた話し手であったことは、その講演を文字で読んでいるだけでもわかる。彼の話はただの情報ではない。彼が二十年以上をかけて得た知恵を語るものであり、その背後にはアラスカの自然と先住民の暮らしという叡智の体系があった。」と語る。

最後の方に出てくることを少し書き留めておきたい。「いろんな友人と再会することがありました。その中にウィリーという男がいました。とても気の合う友人で、とてもおかしくて目がきれいで。彼はベトナム帰還兵なんですね。きっと皆さんの中では、ベトナム戦争とアラスカのネイティヴというのはなかなか結びつかないんじゃないかと思うのですが、実は多くのエスキモーやインディアンたちがベトナム戦争に行っています。ウイリーもその一人なんですが、彼によればベトナム戦争でだいたい五万人のアメリカ兵が死んだ。でも戦後その三倍の15万人ぐらいの帰還兵が自殺しているそうなんですね。ウイリーもまた帰還後、精神的におかしくなってしまって自殺を図った一人です。ただその時に、つまり彼が首を吊ったときに、当時七歳だった息子さんがずっと自分の父親の体を下から支えていた。それで彼はたすかるんです。自分の息子が自分の命の恩人になる、そのことを機に彼の人生は随分変わってゆき、それまでの荒れた生活から少しずつ自分のアイデンティティを見つめ直すようになる。その結果、自分がクリンギットインディアンであるということに自らの血の中で目覚めてゆくんです。」

星野さんは語る。「つまり祈るとか、ひとたびまったく違う世界に足を踏み込んでみると、自分だけではなく皆が旅をしている。皆がそれぞれの闇のようなものを自分の中に持っていて、それを乗り越えようとしている。」

(文:横須賀 健治)

 

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