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しあわせの「コツ」(第17回) 「師」はどこに?

by staff on 2018/5/10, 木曜日

第17回 「師」はどこに?

唐の実質的開祖太宗 「貞観の治」の名君で知られる

古代中国の帝王学では、君主には、師、幕賓(ばくひん)、争臣という3種類の人材が必要だと考えられていました。師は、君主に道を示し、導く者、今でいえばメンターのような存在でしょうか。幕賓とは、朝廷の外にいて、異なった見地から忌憚なく意見を言えるアドバイザーや友人、争臣は、正しいと思うことを君主と争ってでも諫言する家臣のことです。

人の上に立つ者に「師」が必要なのは古今東西変わらぬ真実ですが、ゼロから、時としてマイナスから始めなければいけない経営の場合、人間以外の「師」から学ぶこともあるようです。人間以外の「師」? 人間を超えた「師」とでも言いましょうか。人に応じて、その人の分かるレベルで世の理を示し、そこにヒントや法則をちりばめて「自ら学ばせる師」。

その「師」とは「自然」にほかなりません。
それもただ眺めているだけの自然ではなく、農業のように自分がその中に分け入り、自分がその一部となって真剣に関わりあう時の自然です。そんな自然は、苦しい時、切羽詰まった時に、必要な教訓やヒントを与えてくれる有難い「師」なのです。

キリンホールディングス株式会社社長の磯崎功典氏は、「コストカッター」の異名を取る辣腕経営者ですが、振り返れば経営に必要なことは、ミカン畑で自然と言う「師」から教わったと語っています。

ミカン畑に立つ磯崎氏

神奈川県小田原市で生まれた磯崎さんは、中三のとき兼業農家だった父が脳梗塞で倒れ、ミカン畑を継ぐことになりました。幼いころから手伝いはしていましたが、自分でやるとなると勝手が違います。周りの農家に一から畑仕事を習い、学業そっちのけでうちこみました。収穫時にはミカンの重さで20キロを超す箱を担いで段々畑を何度も上り下りすることもあったそうです。辛い畑仕事が続き、進学を諦めかけていたところ、父親が軽い後遺症だけで復帰したので、高3の秋から必死に勉強して進学しました。

磯崎さんは言います。
「畑仕事には想像力が欠かせません。経営がまさにそう。見据えるのは今ではない、将来です。」

磯崎さんが経営者になって分かったことがありました。畑仕事と経営は良く似ているということ。例えば、「剪定」は枝が将来どんな風に広がるかを考えないとうまくいきません。
また、収穫時にどんな風に実が生るのかが見通せなければ「摘果(てきか)」などできません。「摘果」は、熟す前に不適切な一部の実を摘み取るのですから、収穫時をイメージできていなければ、大変なことになります。

 
剪定する枝の種類   摘果

では、磯崎さんはどんな時に「師」の教えを実践したのでしょうか?

かつてキリンビールは、尼崎市の要請を断りきれず、ビール工場の跡地にホテルを建てることになりました。磯崎さんはその経営を任されましたが、その時率先して行ったのは、客室だけでなくバックヤードもピカピカになるほどの徹底した館内修繕でした。なぜ磯崎さんは修繕にこだわったのでしょうか?それは、まさにミカン畑で学んだ「摘果」の考えによるものだったのです。

キリンビールにとって本業ではないホテル事業はいずれ売却されるだろう、だからその時にそなえよう、と思ったのでした。実っていても、その実り方が収穫に寄与しない状態にあれば、あえて摘み取る「摘果」という作業を知らなかったら、「多少でもまだ儲かっているのだから」とずるずる事業を引きづって、最終的には会社本体に大きな痛手を与えていたことでしょう。

磯崎氏が「摘果」の考えで売却を決めた尼崎のホテル

悪くなっている部分や余計な部分が全体に広がる前に切ってしまう「剪定」の考えも、磯崎氏の経営手法に取り入れられています。

2011年にキリンビールが3000億円を投じて買収したブラジルのビールメーカーは苦戦が続き、15年度には減損損失を出して、キリンHDは上場以来初の最終赤字に陥りました。危機感を抱いた磯崎氏は、この会社を17年にハイネケンに740億円で売却を決断します。高い授業料ではありましたが、結果的に会社を揺るがせた問題は解決し、その年の純益は何と過去最高を更新したのです。

キリンビールがハイネケンに売却したブラジルビールDEVESSA

父親が病に倒れたことで、自分が担当する羽目になったミカン畑。辛いこともあったでしょうが、磯崎氏はミカン畑を「師」として、立派な経営者になったのです。

また、映画にもなった有名な「奇跡のりんご」の栽培者木村秋則さんも自然を「師」とされた方です。

木村秋則さん 奇跡のりんごを作った人

もう有名な話なのでかいつまんで言うと、農薬を使わないリンゴ栽培をめざし、何年も大変な苦労を重ねた木村さんは、ある日絶望のあまり自殺しようと、山に入ります。首を吊っても折れない太い木を探しているうちに森の奥に迷い込んでしまいました。するとそこに1本のリンゴの木があるではありませんか。可憐な白い花を咲かせたそのリンゴの木の周りの土は柔らかく、いい匂いが漂っています。

木村さんは農薬が無くてもこんな山の中でリンゴができることに衝撃を受けます。そして、無農薬栽培には「土作り」が大事なのだ!と、悟るのでした。さっそく周囲の土を持って帰り、土壌の研究を通して無農薬のリンゴ作りに一層のめり込むようになり、現在はめったに手に入らない高級リンゴを作るまでになりました。

 
木村さんのリンゴ畑   半年後も木村さんのリンゴは腐らない

木村さんが凄いのは、山の中で無農薬のリンゴの木を発見するまでの11年間、極貧の生活の中で、「リンゴ栽培に役立つかも」と言う気持ちで、他の果物・野菜・穀物などの何種類もの無農薬栽培を成功させていることです。
今は「名士」となった木村さんは、リンゴ栽培の忙しい合間を縫って、奇跡のリンゴに出会うまでの体験やご自身の神秘体験などを織り交ぜた講演会を全国で行っています。

ところで、人間を「師」とすることと、自然を「師」とすることには、どのような違いがあるのでしょうか?

劉備玄徳が軍師を探すのに大変苦労したように、本当に良い「師」を見つけることは至難の業です。しかし、いったん「我が師」になれば、ある時は厳しく、ある時は優しく、こちらが上達するまで教えてくれるでしょう。

諸葛孔明 劉備玄徳の軍師 三顧の礼を持って迎えられた

一方、自然は見つけるまでもなく、至る所にあふれています。それどころか、私たちは自然の中で生かされています。ですが、余りにも身近過ぎて当たり前の存在から何かを学ぼう、とすることは、案外難しいことなのです。

自然を「師」とするほとんどの方は、何らかの目的意識か解決したい課題を抱えています。「どうしたらいいのだろう・・・」と日々悩む中で、ふと目にした自然の姿に解決のヒントを見つけます。自然は手取り足取り教えてはくれません。その人の意識が求めたとき、雲の切れ目から太陽が一瞬覗くように、解決のヒントをきらりと光らせてくれるのです。

雲間から漏れる陽光―「天使の階段」と呼ばれる

ということは、こちらが求めなければ自然は「師」になってくれない、という事なのでしょうか?宇宙の法則が例外なく行き渡り、営まれている大自然はいわばそれ自体が人間すべてにとって「師」であるはずなのですが、同じ自然でもそこから学べる人と学べない人がいるようです。

自然がえこひいきをしている(笑)? いえいえ、エゴに曇った目では、自然が惜しげもなく開陳しているヒントや答えが見えないのではないでしょうか?

昔話でも、正直者のおじいさんと意地悪なおじいさんとでは同じようなことをしても結果が違っていますね。自然に対する向かう姿勢の違いが、正反対の結果を生むことを、教訓として教えているのでしょう。

 
     
昔話に出てくる正直なおじいさんと欲深なおじいさん

自然は、機械のようにボタンを押したら望むものを出してくれるのではありません。あたかも鏡のように、私たちの心の在り方を一分一厘の狂いなく映しだしているのです。そう考えると、自然から学び、事業を成功させている人は、どこか素直で、心の鏡に自然の理が曇りなく映し出されているのでしょう。

人は「自然から学んだ」と言います。いえいえ、それはもともとあなたの中のあったものなのです。なぜって、あなたも「自然の一部」なのですから。自然対人間のような二元的な対立を捨てて、「自分も自然の一部である」と深く認識し始めた時、私たちは見るもの聞くものすべてに大自然の叡智が宿っていることに気づくことでしょう。

そう、自然は惜しみなく「答え」をあなたの目の前に見せてくれているのです。何の見返りも求めずに・・・。

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・株式会社エランビタール代表取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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