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書評「曇り、ときどき輝く」 集英社 鎌田 實(著)

by staff on 2018/8/10, 金曜日
 
タイトル 曇り、ときどき輝く
単行本 272ページ
出版社 集英社(2018/5/25)
ISBN-10 4087816575
ISBN-13 978-4087816570
発売日 2014/9/17
購入 曇り、ときどき輝く

「自ら光を発し、まわりにも、輝きと喜びの輪を、広げている人たちがいる。」という最初のページになぜか釘付けになってしまった。それは先月鎌田さんの「1%の輝き」の書評を発表した後に書店で見つけた本であった。

福島の子どもたちにもすてきな夏休みを上げたいと思ったそうだ。「草の上に寝転んだり、川で泳いだり・・・。放射能の心配なんかせず、のびのびと楽しめる時間をプレゼントしたい。」そして旧ユーゴスラビアを中心に活躍している指揮者の柳澤寿男さんに、一面識もないのに声をかけたのだった。「福島の子どもたちのために、あなたの時間をください。あなたの指揮で歌えたら、一生の思い出になる。最高の夏休みをペレゼントしてほしい。いま、この世界は分厚い雲に覆われている。でも、へこんでなんかいられない。どんなにひどい雨でも雪でも台風でも、また必ず太陽は昇る。こんな曇天の時代だからこそ、不条理の中で生きぬく福島の子どもたちに一条の光を見せてあげたい。」幸いこの時はOKすぐにもらえたということです。

東北大震災の時の津波を思い出すことがある。この次々に襲ってくる大波と引き潮の中を舟で乗り越えた菅原さんの話が出てくる。鎌田さんが医療支援のため東北の被災地を回り続けていた時に出会っていた。そして約六年後約束どうり鎌田さんは菅原さんに会いに行くのであった。「菅原さんの家から、さだまさしさんに電話した。彼も大島で復興支援コンサートをしたとき、ひまわりに乗ったと聞いていたから。いま大島にいるんだ、というと、間髪入れず、 “お、菅原進さんのところ?” 。 “次は二人で大島にボランティアに来よう” と盛り上がった。」

さまざまなハンデを抱えた人たちの注文に応え、千着以上の服を仕立ててきた鶴丸さんのお話がある。「自分の体と個性に合った “着る喜び” を感じる服は、精神面でのカンフル剤になるだけじゃありません。痛み止めの量が減った方もたくさんいらっしゃいます。服は着る薬。衣料は医療に通じる」鶴丸さんは、多忙な中で時間を捻出し、厚生労働省や文部科学省にかよっているそうだ。障がい者の衣服をつくる技術を国家資格にし、その資格をもつ技術師が製作する服に介護保険を適用してほしいと訴えておられる。

この世の中で本当に大切なものは何か、と問いかけるところがある。日本には、仕事地獄や介護地獄を造りやすい体質があると言われる。そんな社会を変えるヒントをもらおうと、二〇一六年の介護の日に、愛知県長久手市の市長、吉田一平さんをゲストに招いた話が出てくる。「一平さんは高校卒業後、商社に入社。猛烈サラリーマンとして十五年間、時間に追われる日々を過ごした。でも、過労から椎間板ヘルニアになり退職。長い療養中に “この世の中で本当に大切なものは何か” 考えたという。」元気になると、約一万坪の雑木林の中に幼稚園や託児所、老人ホームやデイサービスセンターなどを次々に作っていったそうだ。介護師や介護福祉士を養成する専門学校も作ったのだ。「目指しているのは、わずらわしい街、だという。わずらわしいのは嫌なことだと思っている。でも “わずらわしいことをやめようとしてきたから日本は住みにくい国になってしまったんじゃないか” というのが彼の考え。」「スピードや効率にこだわれば、行政は画一的で単年度予算になる。その地域に適した長期的な施策が取れなくなってしまう。みんなが面倒なことを人任せにし、便利さや安全、目先の快適さばかり追求していたら、人と人との関係はますます疎遠になる。」 「だから一平さんは、地域にわずらわしさを積極的に持ち込んだ。なにか問題が起きても、すぐに解決策を打ち出したりしない。住民たちを議論に巻き込み、時にケンカしながら、時間をかけて一緒に落としどころを見つけていく。」わずらわしい街を目指したら、日本一快適な市になったのだという。

二〇一一年三月一一日、宮城県石巻市にある楽器店「サルコヤ」にも一メートル七十センチの高さまで津波が押し寄せた。店の中も外も瓦礫の山。道路に横倒しになったピアノの上に車が乗りあげている。ピアノ三十台のほか、エレクトーン、管楽器、弦楽器、オモチャ、備品などなど、被害総額は五千万円を超えた。井上さんは当初、店をたたむことを考えた。でも気がつけば心に火がついていたという。店を閉めた方が楽だけど「泥に負けて終わる人生はイヤだ。ここで終わってたまるか。」という気持ちが強かったのだという。「二〇一一年六月、歌手のクミコさんがサルコヤを来訪した。震災発生時、コンサートのために石巻にいた彼女も、押し寄せる津波から必至で逃げた一人だった。その後、無力感にさいなまれ、歌えなくなっていたけれど、井上さんの奮闘を目の当たりにし、心揺さぶられる。思わず、 “ピアノが直ったらチャリテイーコンサートを開く” と約束していたという。」これまでに井上さんは、グランドピアノ五台を生き返らせてきたという。

あとがきにかえてから。
「うつうつとした曇天の時代に、どうしたら輝くことができるのかーーーそんな本を書こうと決めた。魅力的な人を見つけると会いに行った。だから、さらに旅が増え、家でのんびりできなくなった。でも、楽しい旅の連続だった。NPOや被災地での支援活動を通して知り合った人、コメンテイターをしているテレビの情報番組で取材させてもらったひと、僕の講演を聞きに来てくれた人、旅先で声をかけてくれた人、等、たくさんの素敵な人たちとの出会いが僕を突き動かす。」

(文:横須賀 健治)

 

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