ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第67回)
大浦総合研究所 代表/大浦勇三
ビジネス梁塵秘抄「遊・献・学」(第67回)
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ
- 梁塵秘抄 -
先日、六本木の森美術館で “建築の日本展” を見る機会がありました。入り口には日本建築の肝である “木組み” が勢ぞろい。釘や金物などに依存せず、木自体に切り込み等を施し、木と木をがっしり組みあげる技術。頑丈な構造を追求する一方で、一部を入れ替えたり、建て替えができる工夫も。次いで、古代の出雲大社本殿や桂離宮から近代の巨大建築に至るまでの模型やビデオ。目玉の一つは、千利休が豊臣秀吉のために建てた2畳の茶室・待庵(たいあん:国宝)。それを東京の街を借景に53階に原寸大で再現。にじり口から中へ入ると、2畳の広大な宇宙空間。まさにリアルとバーチャルの融合。21世紀の世界を先取りの感。リアルの巨大さを追求した秀吉には利休のセンスが理解できず、それも切腹へ追い込んだ遠因の一つかも。今後は画像検索による建築データをもとに、AIの“ディープラーニング”で建築物を生み出すことも。そこに日本的多義性を加味するのが人間の仕事。梁塵秘抄では“盃と鵜の食う魚と女子は 法無きものぞ いざ二人寝ん”とあります。今の時代では許されない無法さ・率直さ。 “叱る場合には直す方法を示さなければならない” とアーティスティック(シンクロ)井村雅代コーチ。
“遊びをせんとや生れけん” 「遊」
バリバリ働いてもすぐ結果は期待できない 仕事は一段と高度・複雑に
仕事一直線より、回り道の方が得策 音楽ホールや美術館にも顔を出す
芸術は人生の本質を教える 刻苦・享楽と併せ、寛恕の世界にも触れる
デザイン・コンサルティングのIDEO(サンフランシスコ)は、これからのクリエーティブな仕事に欠かせない振舞いをいくつか挙げています。 “お互いに助け合う” “楽観的に生きる” “オーナーシップを持つ” “答えのない状況を受け入れる” “失敗から学ぶ” などです。ひたすら一本道を突き進むのでなく時には回り道も。最近は平日の美術館にもビジネスパーソンの姿がちらほら。芸術は本物とは何かを導いてくれる最高の教材。本来、資本主義はゼロ・サムによるパイの奪い合いでなく、パイを拡大させる価値創造活動。建設的破壊の原点はサイエンス。絶対矛盾の刻苦・享楽・寛恕を自己同一化する時代。 “人が緑色の太陽を描いても僕は非なりとは言わない” と詩人&彫刻家・高村光太郎。
“仕事をせんとや生れけん” 「献」
二者択一でなく多面的視点 支援を求める市場には、直接手を出さない
市場を攻撃する相手側の本拠地・生命線を 集中的に攻撃するのが兵法
真正面からの突破だけに拘らない 色んなノイズに対する眼力を鍛える
世界景気は順調そうにみえますが、多種の爆弾を抱えています。 “銅価格は景気にリンクし、金価格はリスクにリンクする” と云われますが、その定石さえ見直しや洗い直しが必要かも。相反する課題をこなすAND(両取り)の才覚に出番。 “低コストと高品質” “長期投資と目先の利益” “株主配分と成長投資” 。150年前に描かれたニューヨークの未来図の結論は消滅。人口が急増し、交通手段として600万頭の馬糞を処理することは不可能との見立て。真正面からの突破だけでなく、色んなノイズへの眼力も鍛える必要性を示唆。 “仕事は人が探してくれるものでなく自分で見つけるべきもの。それが、その人の本当の仕事。その心掛けさえあれば仕事は無限にある” とトヨタ創業者・豊田佐吉。
“学びをせんとや生れけん” 「学」
統合技術/スキル、ソリューション技術/スキルで、統合的な価値を創出する
グローバル社会、どの国も同様の人材が不可欠 海・山・川はすべて学びの場
理想を掲げて現実に対峙するは人間的合理性 内なる闘争は天敵から守る鍛錬
約50年前、社会にコンピュータが入ってきた時、時代は鈍行列車から急行列車へ。それだけでも人間には大きな脅威とプレッシャー。現在は新幹線の時代からリニアモーターカーの時代への移行期。 “データのデジタル化と高速処理” “コミュニケーションの高度化” “認識・判断の深化” “目・鼻・耳などのセンサー拡張”の世界。ビジネススキルも要素技術だけでなく統合技術、更にはソリューション技術を総動員した価値創造・問題解決の領域へ。直観的で非言語的な空間の中で生きることを覚悟する時代。一方で、経験&知恵は着実に積み重なり、思考や視点の幅も拡大。 “究極の抽象に遊ぶ。仕事をこなすだけでは不十分。自分だけに対峙する孤独の時間を持つ” と作曲家・池辺晋一郎。
「遊びは仕事、仕事は遊び」
「仕事は学び、学びは仕事」
「学びは遊び、遊びは学び」
今回とりあげた「遊・献・学」それぞれの4行文は、拙書「ビジネス梁塵秘抄(一)~(十)」(全10巻)及び「続・ビジネス梁塵秘抄(一)~(七)」(全10巻)から抽出したものです。次回以降も「遊・献・学」から各々4行文を一つずつ抽出してご紹介していきたいと思います。
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(第67回了)
大浦勇三(おおうら ゆうぞう) プロフィール
大浦総合研究所 代表 (http://www.ne.jp/asahi/oura/ohura-research-institute/) 石川県七尾市出身。 筑波大学大学院講師、城西国際大学客員教授、名城大学講師、産業能率大学講師、中小企業大学校講師などを歴任。 主な著作物:
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