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しあわせの「コツ」(第26回) 「駅伝」人気、その真相の深層

by staff on 2019/2/10, 日曜日

第26回 「駅伝」人気、その真相の深層

お正月はテレビで「駅伝」を見るのが好きと言う人や、コースにあたる沿道で選手に声援を送るのが楽しみと言う人など、「駅伝」に熱狂する人は少なくありません。終われば終わったので、各区で繰り広げられた感動的な場面がメディアで拡散され、巷の話題になったりもします。初詣や年始廻りのように、「箱根駅伝」はもはや正月の「年中行事」となったと言っても過言ではありません。

ところで、日本人はなぜこうも「駅伝」に熱狂するのでしょう?

「駅伝」に興味を抱き、自分も実際に「駅伝」に参加して綿密に取材したイギリス人ジャーナリスト、アダーナン・フィン氏は「駅伝こそ日本人のDNAにあったスポーツである」と言っています。

「駅伝マン 日本を走ったイギリス人」アダーナン・フィン著 早川書房

フィン氏は、「駅伝」は日本人の「和」を尊ぶ思想にぴったりのスポーツだと言います。たしかに、参加者全員が「たすきをつなぐ」と言うただ一つの目的のために、時として怪我や体調不良を抱えながらも走る姿は、私たちの胸を打たないではいられません。

今年の「箱根駅伝」で念願の初優勝を達成した東海大学の選手のインタビュー記事が新聞に載っていましたが、そこにも「たすきをつなぐ」という共通の目的で結ばれた仲間同士の絆を感じます。

  • 4区 館沢選手「次の5区が後輩だったので、1秒でも詰めてつなぎたいと思っていた」
  • 5区 西田選手「チームに貢献できて良かった」
  • 6区 中島選手「往路でいい流れをつくってくれて、いけるなと思った」
  • 8区 小松選手「9、10区で楽に走ってもらいたいという気持ちがあったので、自分で決めようと前に出た」(最優秀選手)
  • 9区 湊谷選手「小松が区間新の走りで、結構差をもらったので、気持ちよく、楽しく走れた」

だれもが「前を走って貯金を作ってくれた人の走りを無駄にしないよう」「次に続く人が少しでも楽なように」と、他の人のために一生懸命走っているのです。そこに数々の名場面が生まれ、「区間優勝」のようなご褒美も転がり込んでくる、という訳です。

アダーナン・フィン氏曰く「和をもって駅伝となす」

まさに言い得て妙ですね。

「駅伝」は1917年(大正7年)、「東京奠都(てんと)記念東海道駅伝競走」として始まり、全23区516kmのコースで行われました。「駅伝」という名称は、伊勢神宮と関係のある皇學館館長の武田千代三郎氏が、日本書紀にも出てくる古式ゆかしい言葉から命名しました。

伊勢神宮?古事記?
何だか「駅伝」が急に古めかしく感じますね。それもそのはず、「駅伝」は単なるスポーツではなく、実は「神事」として考えられていたのです。

その動かぬ証拠(笑)を挙げてみましょう。

1940(昭和15)年、宮崎神宮(宮崎県)から橿原神宮(奈良県)までの約1000kmを10日間で疾走する大駅伝大会が催行されました。なぜ、こんな凄まじい長距離駅伝になったかというと、その年がちょうど紀元2600年だったからです。神武東征の出発地点である宮崎から、神武天皇が即位した橿原神宮までを走ることで奉祝しようという訳でした。(ちなみにこの記念すべき「駅伝」で優勝したのは、「朝鮮・台湾軍」でした)。

紀元2600年を祝う記念アーチ 昭和15年横浜伊勢佐木町

また、1942(昭和17)年、ミッドウェー海戦で日本が大敗を喫する2か月ほど前、「鉄脚を通じて銃後の士気を鼓舞せんとする」(1942年3月20日の読売新聞の見出し)ため、伊勢神宮から皇居の二重橋までの約600kmを3日間で走る駅伝が開催されました。全国から52名の選手が選ばれて行われたその「駅伝」の名前はズバリ、「米英撃滅祈願東西対抗縦走大会」。

1924年、パリ五輪大会での「駅伝」の父・金栗四三

これはもうスポーツと言うより、建国を祝ったり、敵の撃滅を神に祈ったりする「儀式」というべきでしょう。「駅伝」が単なるマラソンリレーではなく、私たち日本人の信仰や精神に根差した神行事であることが分かります。

「駅伝」が神行事だったことを知らなくても、アダーナン・フィン氏が言うように、日本人は「駅伝」に単なるスポーツ以上の何かを感じているのは事実です。すべての参加者が「自分の役割」をきちんと果たす、全員が一丸となってチームのために戦う、選手個人の記録より「たすきをつなぐ」ことを重視する等々。「駅伝」のには日本人の涙腺を緩ませる要素が一杯です。

思えば、現在スポーツと見なされている競技でも神事に由来しているものは幾つかありますね。例を挙げると、「相撲」や「綱引き」は神意を伺うための儀式であり、勝敗にこだわったり、勝者をヒーローとして持ち上げたりすることはなく、勝った方の考えや立場がより神意に叶ったと考えます。綱引きで言うと、右側が勝てば豊作、左側が勝てば不作、というように勝敗は神意の表れなのです。

神事としての綱引き 難波八坂神社

今では武術もスポーツ扱いですが、日本では武術は英語で言うところのマーシャルアーツ、すなわち単なる戦い方の技術ではありません。それは神道と結びつき「武道」となって、心身涵養の哲学的実践に昇華しています。

例えば剣道。
人は何のために相手を斬るのでしょうか? 「殺すため?」-いいえ。「相手と斬り結ぶ」ためです。「斬り結ぶ」とは、「相手と真正面から丁々発止と、堂々と、激しく刀を打ち合わせて斬り合う」ことです。いわば刀を使って相手とコミュニケーションしている、つまり「結び合っている」と考えるのです。その結果、勝っても負けてもお互いが「武道」を通して結び合い、絆が生まれるというのです。真剣勝負であるがゆえに、試合が終わった後は「敵ながらあっぱれ」と称え合い、敬意を表します。

異種武道大会 香川県琴平高校 2017年

「勝敗は兵家の常」とか「勝負は時の運」という言葉には、たまたま今の戦いで負けたとしても、その人の武勇が劣っているわけではない、という意味が込められているように思います。

面白いことに、「斬り結ぶ」の「結(むす)ぶ」は、同時に「産(む)す」あるいは「武(む)」を意味していました。今から900年前に書かれた日本最古の兵法書「闘戦経」のなかでも、「武(む)」は「産(む)」であると言っています。「産(む)す」とは、新しい生命や新しい秩序が生まれることです。

伊弉諾(いざなぎ)と伊弉冉(いざなみ)が混沌とした海から「天の沼矛(あめのぬぼこ)」という「武器」を使って国作りをしたように、「武」は乱れた世の中に秩序をもたらす(産み出す)清く正しい道である、と説いています。

「闘戦経」家村和幸著 大江匡房の「闘戦経」を解説した著作

「我が武なるものは天地の初めに在り、しかして一気に天地を両(わか)つ。
雛の卵を割るがごとし。故に我が道は万物の根元、百家の権與(けんよ)なり。」

大江匡房著「闘戦経」

これは「闘戦経」の冒頭ですが、意味は、
「我々日本人の『武』は天地開闢から存在し、一気に天と地を分けた。あたかも雛鳥が卵の殻を割るかのように。ゆえに、我々の『武』の道は万物の根元であり、諸々に説かれる道もすべてそこから始まる」となります。

何だかカッコいいですね(笑)。

このように、日本では「武」は混沌としている世界から新しい秩序を産み出すものとして肯定的に、どころか、きわめて神聖なものと考えられていたのです。

そう考えると「武術」が神事に取り入れられ、やがて「武道」となっていったのは自然な流れだったと言えましょう。今日、スポーツと見なされている競技に、私たちは無意識のうちにそうした「神事としての武」を見ているのではないでしょうか?

「駅伝」は「たすきをつなぐ」という言葉に凝縮されるように、選手同士が心を結び合わせ、山あり谷ありのコースを分担して走ります。一人で走っていても、頭の中は絶えず次の人へのバトンならぬ「たすき」の受け渡しがあります。厳しいコースはさながら修業そのもの。大会に出場するまでの各選手のドラマも感動的です。

最近は、イベント感覚で初詣に行く若い人が増えているようですが、お茶の間の炬燵でぬくぬくと駅伝中継を見ている人も、実は新年の「神行事」に参加しているといえるかもしれませんね。

そういえば、古代オリンピックもゼウスに捧げる神聖な祭典でした。洋の東西を問わず、スポーツの始まりが神聖な神行事であったというのは、興味深い事です。

オリンピックの聖火を採る巫女たち ギリシャ

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・株式会社エランビタール代表取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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