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しあわせの「コツ」(第27回) ああ、気づかなかった「木の叡智」

by staff on 2019/3/10, 日曜日

第27回 ああ、気づかなかった「木の叡智」

クラウン・シャイネス

この写真、何に見えますか?
東南アジアの熱帯雨林に自生するフタバガキの巨木に見られる、「クラウン・シャイネス」(恥ずかしがり屋の樹冠)と呼ばれる現象です。同時期に育った隣り合う木々が50m以上に成長したときのみ現れる現象だそうです。木々がお互いに譲り合いながら枝を伸ばして日光を分かち合っているのです。

まるで空が割れているような、不思議な光景ですね。

なぜこのような現象が現れるのでしょうか? ―? それは木々がコミュニケーションを取り合って、枝の張り具合をお互いに調整しているからです。これはおとぎ話でもスピリチュアルな仮説でもありません。カナダのブリティッシュコロンビア大学の森林科学教授のスザンヌ・シマード氏の30年に渡る森の研究から分かったことで、彼女はそれを2016年に発表しています。

スザンヌ・シマード教授

彼女の実験結果によると、木々は土の中に菌のネットワークを張り巡らし、その菌を光ファイバーのように利用して情報を交換しあい、助け合っています。その密度は驚くべきもので、ティースプーン1杯分の面積に数マイルものネットワークが作られているほどだそうです。このネットワークを介して、昆虫の襲来や干ばつなどの危険を仲間に知らせるのです。また、ある苗木が炭素不足の時、その情報を発信すると、別の木が自分の炭素を送って補ってあげたりもします。

驚くべきことに、木にも家族意識があります。
一つの森のエリアには、必ず1本の「マザーツリー」があり、何百もの木々とつながっています。「マザーツリー」は、若い低木の成長のために、菌糸ネットワークを広げてたくさんの炭素を送り、同時にその木も根が伸ばせるようにスペースを作ってあげるのです。まさに「母性愛」ですね。

白神山地のマザーツリー

母木の近くにいる苗木の生存率は4倍に上がることが証明されています。また、ある実験で母木のそばに苗木を植えると、ちゃんと自分の子供と認識することも確認されています。

カナダ・マクマスター大学の植物進化生態学者スーザン・ディドリー氏の研究によれば、木々には兄弟を識別する能力もあるというのです。同じ種類の植物を同じ場所にたくさん植えると、それぞれの植物は根を伸ばし、貴重な水分と栄養分を少しでも多く取ろうとしますが、同じ親から成長した植物の場合、互いの根に十分な成長空間ができるように、争うことなく平和的に譲り合うそうです。
中には緊密に根を絡め合い、夫婦のように一緒に死んでいく木もあります。病気の仲間がいれば、回復するまで栄養を送り続けることもあります。

スーザン・ディドリー教授

光合成ができなくなった切り株でさえ、周囲の木々が根を絡めてつながり、栄養を送り続ける場合もあります。よく切り株のわきから「ひこばえ」が生えていることがありますが、それはこの涙ぐましい仲間意識のなせる技なのです。

ひこばえ

けれども、どの切り株もそうなるわけではありません。大多数は腐敗して土にかえります。一体何が切り株の「生死」を分けるのでしょうか?それは、その切り株が1本の木だった時、周囲の木々とどういうコミュニケーションをしていたか、というそれまでの親密さの度合いによって、仲間の木が「生かしてあげよう」と思ったごく少数の切り株だけが生き続けるのです。まるで人間社会のようですね。

「マザーツリー」が傷付き、死にかける時も感動的です。自分の菌糸ネットワークを最大限に駆使して子供の木に炭素や防御信号などを送るのですが、それは単なる生命維持のためだけでなく、「マザーツリー」としての知恵を次世代を担う子供たちに伝えているのだそうです。

こうしてみると、森は単なる木の密集地ではなく、「木々の社会」であるということが分かります。そこには家族があり、コミュニティがあり、木々同士が会話を交わしながら情報交換をして互いに生き延びようとしている姿がうかがえます。親子・家族・共同体の絆が、人間をはじめとする哺乳類だけなく、移動することができない植物の世界にも存在していることに、神秘的な驚きすら感じませんか。

前述のスザンヌ氏は言います。

「森は、マザーツリーの存在とともに木々がお互いに交流しながら共同体ができています。それを知らずにマザーツリーが人間の手で伐採されると、森は元に戻れなくなります。」

岩手県八幡平市の安比高原のマザーツリーとブナの森

改めて「木は社会的生命体」である思わざるをえません。人間社会でも中心を失った組織が自壊していくように、森の中心「マザーツリー」の伐採が森全体を死に追いやってしまうのです。

「生命のいとなみ」という視点から見ると、動物であれ植物であれ、生命あるものは同じ原理を共有していることが分かります。子育て、兄弟愛、共同体内の同胞意識と情報共有 ―それを実践することが有機生命体が生きていくうえでの法則であり、叡智なのです。だとしたら、 日本における最近の児童虐待・育児放棄、陰湿ないじめは、同じ生命体として何と恥ずかしい行いでしょうか。

面白い事に、現代社会特有の陰湿ないじめや残酷な虐待が、木によって改善される可能性を窺わせるデータがあります。

「木」による改善?
それはどういうものでしょうか? 木造住宅産業のパンフレットに必ずと言っていいほど載っている、有名な研究結果があります。

それは、静岡大学農学部が行った「巣箱の材質によるマウスの生存率の差」という論文です。コンクリート、金属、木(杉)の箱にネズミを入れてその生存率を計測したものです。

この実験を紹介している高岡恭平氏(森林浴生活株式会社)のコラム( https://mbp-japan.com/hyogo/forestreform/column/ )によると、マウスの生存率は

1 木の箱 85.1%
2 金属の箱 41.0%
3 コンクリートの箱 6.9%

となっています。
木の箱の方がダントツに長生きしていますね。

さらに、木の巣箱ではすべてのマウスが巣作りをしましたが、コンクリートと金属の巣箱では、巣作りを行わないマウスが見られました。また、コンクリートと金属の巣箱では、母マウスがストレスから育児放棄をしたり、弱った子マウスを食い殺しましたが、木の巣箱では普通に子育てをしていました。子マウスにも違いが出ています。体重測定の際、木箱で育った子マウスはおとなしく測定させましたが、金属やコンクリートの巣箱で育った子マウスは暴れてなかなか体重測定ができませんでした。

自分のしっぽをやたらと噛み切るストレス行動(10日間)については、

① 木の箱 80回
② 金属の箱 230回
③ コンクリートの箱 290回

という結果が出ています。

ネズミと人間は違いますが、私はこれらのデータを見た時、昨今の育児放棄、虐待、すぐ切れる子供、といった現代の社会現象も、鉄筋コンクリートの住環境が増えたこととあながち無関係とはいえないのではないか、と考えてしまいました。

木は生きています。
前述の高岡氏によると、木は樹齢の2倍の期間調湿効果が衰えないそうです。コンクリートは持って70年、年々劣化していきますが、生きている木は建材となっても200年300年と年を経て強度が増していくのです。法隆寺の宮大工、西岡常一氏は「樹齢1000年の木で建てた建物は1000年持つ」と言っています。

右 西岡常一氏

45度Cの低温で芯までじっくり乾燥させた木は、粘度を損なわないのでしなやかなのに強度があり、防虫性もあります。以前拙コラムで、古民家に移り住んだ夫婦の仲が良くなった話をしましたが、生きている木が持つバイブレーションが、住む人に好影響を与えることは想像に難くありません。

昔の学校はほとんどが木造校舎でした。時代の風潮もあったかもしれませんが、今のように友人を自殺に追い込むほど陰湿で悪意に満ちた「いじめ」はなかったように思います。鉄筋コンクリートの躯体にケミカルな素材の壁材、塗装合板など、「生きている木」ではない材料で建てられた現代の校舎の増加と「いじめ」の増加。決して無関係とはいえないのではないでしょうか?

茨城県大子町 旧上岡小学校

木造小学校の内部 昔はどこもこんな感じでした



現代の校舎:上 中学校、下 小学校

そう考えると、住環境の中に少しでも木を取り入れることで、人々の気持ちにも変化が出てくるのではないでしょうか?

最近、毎日のように分譲高級マンションのチラシが新聞に挟まれています。もちろん躯体は鉄骨とコンクリートで、ハイテクな機器の装備が売り物のようです。私が住むとしたら、そういう「高級マンション」より、調湿機能がある木をふんだんに使った「呼吸マンション」がいいですね(笑)。
まあ、現代では無理でしょうけど。

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・株式会社エランビタール代表取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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