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しあわせの「コツ」(第29回) 日本人にとって「自然」とは?

by staff on 2019/5/10, 金曜日

第29回 日本人にとって「自然」とは?

フランス国費留学生の修士論文のチューターを務めていた時のこと、日本のあらゆることに興味津々の彼女から、思いがけない意見や感想を聞くことがよくありました。

ある時、彼女が少し怒ったような顔でこう言いました。
「日本人は自然を愛すると聞いたけど、嘘ですね。自然を侮辱しているじゃないですか!」
何のことかと思ったら、彼女は寿司の「バラン」に怒っていたのです。

「なぜ、本物の葉を使わないの? お寿司までみすぼらしく見える!」というのです。本物の葉は高いし、手に入りにくいから、とか、「バラン」を擁護する話をしたら、偽物を平気で使う神経が分からない、と言い、さらに、商店街の「桜祭り」で、店舗がみなプラスティックでできた「偽物の桜」を飾るのはおかしいとまでいうのです。日本人の言う「自然」は本物の自然ではなく、「自然まがいの偽物」だ、とそれは厳しいお言葉(笑)。

確かに、商店街はどこも春は桜、秋は紅葉のプラスティックのオーナメントで飾り立てています。それを今まで「おかしい」と思ったこともなかった私は、留学生から改めて日本人にとっての「自然とは何か」という問題を突きつけられたような気がしました。

日本人は「自然」が好きだ、と大部分の日本人自身は何の疑いもなく思っていることでしょう。でも、本当にそうでしょうか。

建築家で辛口のエッセイストであったバーナード・ルドフスキーは、2年間の日本滞在で見聞したことを「キモノマインド」という本にまとめましたが、その中で彼は民家やアパートの玄関先に所狭しと鉢植が置かれている様子について、こう書いています。

「日本人には巨大な本物の自然というのはあわないのだろう」

バーナード・ルドフスキー



玄関先に並ぶ植木鉢。ルドフスキーが愛した日本の「自然」。
かつての下町にはこんな光景が当たり前に見られた。

確かに日本人が「自然はいいなぁ」という時にイメージする自然は、里山のように適度に人間の手が入り、生命を脅かすこともなく、鉢植えや盆栽のように愛玩できる「小さな自然」かもしれません。ルドフスキーがいう「巨大な本物の自然」は、厳しい冬の寒さを「冬将軍」、大雪を「白魔」と表現するように、何か恐ろしい物として遠ざけているようです。

日本人が好んで愛でる自然として「花鳥風月」という言葉がありますが、これも優しい自然ですね。日本人にとって自然とは、「愛でる」という言葉が表しているように、身近にあって戯れることができる規模の「小さな自然」なのです。思えば、日本人は万葉の昔から「花を摘む」「花を見る」という形で自然に親しんできましたが、決して登山のように、猛々しい自然に挑むようなことはしませんでした。

万葉集の雄略天皇のお歌を描いた大亦観風の絵。
「菜を摘む乙女」が野に遊ぶ様。のどかでおおらかな自然が描かれている。

カナダに留学したことのある人が言っていました。雪でバスが大幅に遅れ、約束の場所に行けなかったのでお詫びをしたところ、先方が「マザーネイチャーだから(仕方ありませんよ)」と答えたというのです。なかなか来ないバスを待つ人々も、「マザーネイチャーだから」と、焦ったり、イラ立つこともなく、穏やかな表情だったそうです。「マザーネイチャー」の厳しさを受け入れて生活しているのです。これが今の日本だったらどうでしょう(笑)。自然を愛するはずの日本人が、雪という自然現象をを受け入れるより、あちこちでパニックになっていますね。

「小さな自然」を愛する日本人は、大きな「マザーネイチャー」の中で暮らすより、「扱いやすい大きさの自然」を生活に引き込んで快適に暮らすことを選んだのでしょう。ですから「手ごろな大きさの自然」がない時は、それを作りました。はじめは盆栽のようなものだったかもしれません。しかし、ひとたび人間の手が入れば、あとは様々な工夫がなされるようになるのは時間の問題です。それも、あたかも「自然」であるかのような顔をして。

例えば、生け花を見てみましょう。生け花をする人は、きっと自然を愛する人だろうと思われています。でも、生け花は決して自然ではありません。誰も自然界の花があのような状態で咲いているとは思わないでしょう。技術と練り上げられた感性の極みで、自然界ではありえない花のたたずまいが立ち現れた時、人々は「美しい」と感じるのです。いわば「観念化された自然」、それが生け花であり、日本人が愛する「自然」なのです。

自然界では絶対にこんな風に生えていません。自然からかけ離れているのに、
私たちはこれを「美しい」と感じるのです。

「自然」が観念化されるとは、「自然」から具体的な要素、例えば花びらの形や色などが抜け落ち、コンセプトやイメージの集合体となることに他なりません。

例えば、小野小町の和歌「花の色は移りにけりないたずらに わが身世にふるながめせしまに」の「花」、世阿弥の「秘すれば花」の「花」は、梅でも桜でもありません。
それは、つぼみをつけ、花が咲き、やがて枯れてゆくという花の一連のプロセスや、華やかさ、美しさという花の属性が、自分の語りたいことを表すための操作概念として使われているのです。

「花鳥風月」にしても同じことです。どれも少しも具体的ではありません。いわばイメージ存在なのです。そのイメージを具体的に表現する段になると、今度は「らしさ」が必要になります。面白いことに、この「らしさ」を表現するためにはかえって自然から離れた方がいい場合があるのです。

たとえば、冒頭の「バラン」でも、自然界のものは色や形がまちまちです。入手も大変です。いつも同じ品質の「これぞバラン!」というものを提供したいなら、人工的に作るしかないのです。だから「イメージとして完璧なもの」を作ることにおいて、人工物を使用することに私たちは抵抗がありません。桜祭りだからだと言って、「祭り」にふさわしい満開で枝ぶりも良い桜が、そう至る所にある訳ではありません。「だったら、理想的な桜を作ろう」という流れになるのはごく自然なことなのです。

上毛電鉄の「桜列車」。花は満開なのに葉が出ている枝の飾り。
自然界では葉桜になる頃、花は盛りが過ぎている。

問題はそれが本物の桜かどうかではなく、「どれほど桜のイメージを完璧に体現しているか」が重要なのです。日本人にとって、イメージは時として現物よりも大切なものなのです。

自然を愛でる日本人。それは「自然のイメージを愛でる」日本人という事にほかなりません。私たちは思いのほか観念的な民族なのです。

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・株式会社エランビタール代表取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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