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しあわせの「コツ」(第31回) 「ありのまま」は強い!

by staff on 2019/7/10, 水曜日

第31回 「ありのまま」は強い!

最近のSNSの普及が、私たちのコミュニケーションのスタイルを大きく変えたことに異論を唱える人はいないでしょう。変わったのはコミュニケーションのあり方だけではありません。物事の評価の基準も変わりました。
フェイスブックの「いいね!」やツイッターのフォロワーの数の多さが評価につながることから分かるように、内容がどうあれ、「他者に承認されること」が重要な価値を持つ時代になったのです。しかもその評価は「インスタ映え」という言葉があるように、「見栄え」や「キャラ」という外面的な要素による場合が多いのです。

私は、とりわけ「キャラ」という人格の編集の仕方に今日的なものを感じます。「いじられキャラ」や「おバカキャラ」などを売りにしている芸人もテレビでよく見かけます。
「キャラ」は架空の人格である「ペルソナ」(ラテン語で『仮面』という意味)とは違います。性格など自分の特徴のどこかを分かりやすく造形し、「私はこういう人間でございます」と、それを「通行手形」として集団内で行動するのです。「キャラ」はその人物の内面を表しているのではなく、「他者がどう見ているか」「他者からどう見られたいか」が基準となっています。どちらかというと演劇の「配役」に近いのではないでしょうか?

例えば「キレキャラ」を売りにする芸人は、「すぐキレる」役を演じているわけです。実際のご本人は穏やかな面もあるでしょう。でも、テレビではそれを封印し、何にでも「キレて」見せるのです。たまに地が出ると、「キャラに合わない!」と炎上されるのですから、たまったものではありませんね(笑)。

フェイスブックでもインスタグラムでも、沢山の「いいね!」を集めるために、写真を修整したり、被写体に手を加えたりするのはもう常識となっています。なかには最初から「インスタ映え」を狙った商品まで売られています。

明らかに「インスタ映え」を狙った写真

名前の割には「インスタ映え」していないお弁当

一体どうしてこれほど人々は他人の評価を気にするようになったのでしょうか?

それは、唐突かもしれませんが、「変化への恐れ」があるような気がします。

誰もが感じているように、今世界情勢も先行きがほとんど読めない状態です。スピリチュアル系の本やブログを覗いても、異口同音に「地球が進化の時を迎えている」と書かれています。近い将来3次元から5次元に地球が次元上昇するというのです。
 人は、本能的に安定を求め、変化を嫌います。けれども流動する世界の中でも生きていかなければなりません。そこで変化する世界に目をつむり、「こうあってほしい」と思う状態に編集した虚構の自分、虚構の世界にフォーカスするのです。「インスタ映え」がこだわる「見た目」とはまさに作られたイメージとしての自分や世界に他なりません。それを重要視することで、刻々変わる世界やありのままの自分を無意識のうちに拒否しているのです。

そうすると、どうなるのでしょう?
自分の内面が置き去りにされ、本来の自分と「見た目」の自分とのギャップがどんどん広がっていくのです。それは苦しい事です。他者目線の「見た目」を世間にさらせばさらすほど、本当の自分は陰に隠れ、孤独が深まっていきます。「インスタ映え」で興じる若い女性の間で「アナと雪の女王」の主題歌が大ヒットしたのは、歌詞が彼女たちの隠れた心の闇を代弁していたからではないでしょうか。

「アナと雪の女王」主題歌 Let it go - ありのままで -
 
降り始めた雪は
足跡消して
 
まっ白な世界に
ひとりのわたし
 
風が心にささやくの
このままじゃ
ダメなんだと
 
とまどい傷つき
誰にも打ち明けずに
 
悩んでた
それももうやめよう
 
ありのままの
姿見せるのよ
 
ありのままの
自分になるの
 
何も怖くない 風よ吹け
少しも寒くないわ

特に「ありのままの 姿見せるのよ ありのままの 自分になるの」の下りに来ると、カラオケなどで涙を浮かべながら歌う女性が大勢いたそうです。

「アナと雪の女王」のエルサ

「インスタ映え」に代表される「見た目」へのこだわりは、自分の内面や変化する世界に向き合うことなく、簡単に自己肯定感を得られる方法ですが、その代償はあまりにも大きかったということでしょう。なにしろ「ありのままの自分」を生きることができなくなってしまうのですから。

「アナと雪の女王」のエルサは、自分の個性を受け入れ、隠さず生きることで自信にあふれた強い女性に生まれ変わりました。さらに自分の個性を発揮するなかで失敗も経験しながらそれを制御する方法も体得したのです(映画の中では「真実の愛」がエルサの魔法を解くことができる、と分かる)。“Let it go”の大ヒットは、「見た目」という他人軸で生きることの生き苦しさを何とかしたい、という若い女性の暗黙の願望が後押ししたのではないでしょうか?

封印された自分の能力を受け入れることで自信を取り戻したエルサ

「見た目重視」とは他人軸で生きることに他なりません。それは本当の自分を封印して生きていくことです。
本当の自分?  ― それは生まれてこの方経てきた体験の総体です。
楽しく有頂天になるような体験ばかりではありません。悲しい事、辛い事、とても人には言えないみじめで無様な体験等々。それらを通して出来上がった性格や物の考え方、学んだ事、交流した人々…。それら全てをひっくるめたものが「ありのままの自分」なのです。
それをエルサのように隠さずに受け入れ、他人軸でない「自分軸」で生きることを選ぶことによって「生き苦しさ」や「自信のなさ」から解放されることでしょう。

「自分軸」で生きるとは、これまで経てきた体験の総体の頂点に今の自分がいるという認識を持つことです。宇宙広しといえども、この自分以外誰も経験していない唯一無二の「自分史」というストーリー。視点を広げれば先祖や人類の歴史までもが射程に入る、このオンリーワンの壮大な歴史ドラマの主人公が自分であると心の底から思う時、人は「見た目重視」の薄っぺらな評価など、全く気にならなくなることでしょう。

「ありのまま」でいることは強いのです。

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・株式会社エランビタール代表取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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