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田中健介の麺食力-それから- 第16回 「ジャーニーマン」

by staff on 2020/1/10, 金曜日

第16回 ジャーニーマン

2010年に出版した自著「麺食力-めんくいりょく-」。横浜の麺料理とその周辺の情景を描きながらほとんど売れなかった可哀想な本。著者自身も出来上がった本に向き合うことなく、二回目の東京オリンピックで沸くであろう2020年で出版丸10年となるのを機に、改めて当時の内容を振り返り、現在の移り変わりを綴っていく、ついでに啜っていく企画の今回が第十六回目でございます。

 

新年あけましておめでとうございます。
2020年、拙著「麺食力」刊行の2010年からいよいよ丸10年となります。
刊行日の3月24日で10年となりますが、その1日後となる3月25日(水)には10周年イベントを開催したいと思います。詳細は次号にてお知らせ致します。

 

さて新年一発目は「ジャーニーマン」というタイトルなのですが、これはプロスポーツでいくつものチームを渡り歩く選手のことを指すもので、飲食業界でもそんな渡り職人として様々な苦境と闘いながら今を生き抜く一人の男の物語をお送り致します。

中区本牧間門にあった「本牧食堂」店舗外観

中区本牧間門に小さな洋食店がありました。
その名も「本牧食堂」。昭和レトロとはまた一味違った味わいのポップな店づくり。
関内エリア・中区常磐町などに存在した「スタア食堂」から派生したこの店舗は2007年頃より横浜出身の大家尚史氏が買収し、経営を引き継ぎました。

和食の創作料理という料理の中でも繊細なジャンルからスタートし、長年飲食業界で活躍してきた大家氏にとって、昔ながらの日本式洋食での新たな勝負が始まりました。

「本牧食堂」の名物、スパゲッティグラタン

「麺食力」225ページに掲載した本牧食堂の「スパゲッティグラタン」はそんな大家氏が考案したもの。「某店からのパクリメニューでしたけどね」と大家氏は笑いますが、さらに聞けばホワイトソースやらミートソースは自家製という、真面目なメニューでした。

「出来合いのもの、既製品を使うことが嫌で。和食で料理人として鍛えられたから、プライドとか意地があって、全部自家製にしてやりました。」

すべてを自家製に、というのは客にとっては信頼できる響きかもしれません。しかし、たくさんのメニューを常にすぐ出せる状態にするための仕込み時間は途轍もなかったと大家氏は言います。

「とにかく空いた時間はひたすら仕込み時間でしたね。常に仕込み時間。頭がおかしくなってくるんですよ。一時期二毛作を、と考えて店の2階をダーツバーにしたんです。夜中の2時、3時くらいまで楽しそうにワイワイやっている2階の物音を聴きながら、1階で必要最小限の灯りだけ点けて仕込みを続けていた時は、さすがに何やってんだ俺は、と思いましたね。」

大家氏の苦労話はまだまだ続きます。

「デミグラスソースだってフォンドボー作りから始めて一週間くらいはかかるんです。大きな寸胴で作り始めて、出来上がるのは小鍋1杯強くらい。切ないですよ。そんな切なさを引きずっている中で家族連れ客の子供が『○○ー○(ファミレス)のほうがおいしい!』って言ってるのが聴こえてきちゃって。涙しか出ないですよ。」

そういう状況下にありながらも、「本牧食堂」を経営すること自体はとても楽しかったそうで。自らを辛い状況に追い込むことすら好きでやっていたと言います。
本当の大打撃は、2011年3月11日の東日本大震災でした。

「本牧エリアは震度6弱だったんですよ。店の壁が崩れてしまって。修理代も厳しいし、やめようかと。」

2011年に「本牧食堂」は閉店し、大家氏は新たな事業を模索しつつ東京の飲食店に勤務。そこで、新潟らーめんの「がんこ屋」大将に出会います。

「横浜に暖簾分けした店舗が閉店する。君横浜でしょ?引き継いでくれないか、って言われて。横浜で新潟らーめんってのも面白そうだと思って、新潟の本店で一週間『修行』しに行きました。」

中区伊勢佐木町五丁目にある「新潟らーめん がんこ屋」は2012年より大家氏が経営

がんこ屋伝統の煮干し醤油らーめんは新潟の本家では
現在やっていない横浜のみのメニューとなっている

その他鶏がらベースで多くのメニューがラインナップされている

そんな経緯から2012年より伊勢佐木町五丁目にある「新潟らーめん がんこ屋」を引き継ぐこととなった大家氏。

「暖簾分けと言ったらカッコよく聞こえるけど、『本牧食堂』のときと同じく買収しているんで私の経営で自由にやらせてもらっています。」

買収、という言葉の方がよっぽどセンセーショナルに聞こえますが……。

がんこらーめんの太麺をチョイス。
さっぱりしていながら濃厚なスープは煮干しの香りが心地よい

大家尚史氏の手によって供される麺は10年前の「スパゲッティグラタン」から、「がんこらーめん」に。この「振り幅」と「10年の時の流れの重み」をかみしめて啜ります。
煮干しの香りが口いっぱいに広がるスープは濃厚でありあっさり。すっかり冬になった横浜で、身体が温まります。沁みます。
いろんな文化を取り入れて発展した港町・横浜で本格派新潟ラーメンがいただけるって、貴重であり幸せなことなんじゃないかとさえ思います。

「それまでの人生でラーメンなんて興味がなかったんですけどね。でも実際にやってみたらそれはそれでこういう世界もあるんだ!って勉強にはなっていますね。」

何事もやってみないで外からああだこうだ文句垂れるのもダサいし、と大家氏は付け加えます。

大家尚史氏と拙著。
毒舌キャラだが「ババアまだ生きてるのか!」からの「長生きしろよ!」な
毒蝮三太夫タイプの「裏に愛情が見える毒」

「飲食の世界に足を踏み入れて30年。和食の創作料理から始まって、洋食もやって。今はラーメンだけど、ちょっと飽きてきたかな。和食の創作料理から始まって、洋食もやってきたから、やっぱり『料理』をやりたい、という気持ちが少し出てきた感じです。」

ジャーニーマン。大家氏のこれからが気になります!

筆者紹介

 
本 名 田中 健介(たなか けんすけ)
略 歴 1976年9月生まれ。横浜市出身。横浜市在住。
武相高校、神奈川大学卒業。
自称エッセイスト、本業は福祉関係。
ベイスターズファン歴35年、CKBファン歴17年。
 
2009年9月、日本ナポリタン学会設立、会長となる。
http://naporitan.org
 
2010年3月、著書「麺食力-めんくいりょく-」(アップロード)刊行
https://amzn.to/2DGVqiU(Amazonへ短縮リンク)
 
2017年5月~ 連載「はま太郎」(星羊社)「田中健介のナポリタンボウ」
https://www.seiyosha.net/
 
連絡先:hamanomenkui@gmail.com

 

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