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田中健介の麺食力-それから- 第17回 「へんなマスターの堅実な一面」

by staff on 2020/2/10, 月曜日

第17回 へんなマスターの堅実な一面

2010年に出版した自著「麺食力-めんくいりょく-」。横浜の麺料理とその周辺の情景を描きながらほとんど売れなかった可哀想な本。著者自身も出来上がった本に向き合うことなく、二回目の東京オリンピックで沸くであろう2020年で出版丸10年となるのを機に、改めて当時の内容を振り返り、現在の移り変わりを綴っていく、ついでに啜っていく企画の今回が第十七回目でございます。

 

「麺食力」刊行10周年トークイベントのお知らせ

2020年、拙著「麺食力」刊行の2010年3月24日から丸10年。
その1日後となる3月25日(水)に10周年イベントを開催致します。
場所:横浜日ノ出町試聴室その3
日時:2020年3月25日(水)19:00開場、19:30開演
料金:予約1,500円、当日1,800円(別途1Drink500円)
※ご予約は下記からどうぞ
http://shicho.org/category/events/s3events/

 

日本の人口は2008年をピークに緩やかに減少の一途をたどり、約200万人ほど減少しています。
向こう数十年でどんどん減っていくものと思われます。
近年古くからの飲食店が閉店していくのはこの問題とは別です。
消費者の動向がチェーン店やショッピングセンターなど利便性の良い方向へシフトしている、外食から中食が増えている、後継者が不在、など、それぞれ複雑です。
日本全体では人口は減ってきていますが、横浜市に関しては戦後からずっと人口が増え続けているのです。なのに、そんな横浜でも、エリアによっては一昔前に比べるとすごく寂しい街並みになっていることが多く、特に南区は古くからの商店街自体が次々となくなり、賑わいが失われた街が多い気がします。それでもマンションは次々と建っていくのが、人口が増え続ける要因となっているのでしょう。

横浜市南区・蒔田周辺。鎌倉街道はいつも多くの車が行き交っている

南区蒔田エリアもそんな街の一つ。かつては「蒔田商店街」などとド派手なアーケードは目を引いたものですが、現在は商店街自体も解散。鎌倉街道は相変わらず通行量の多い幹線道路で、このあたりは路面店が立ち並んでいます。横浜市電があった頃はもっと賑やかだったのでしょうが、40代も中盤になろうかという筆者でさえ、もはやリアルに市電を見ていない世代。昔のことばかり言っていてもしょうがない。

「へんな洋食屋」外観

店舗内観。レンガ調が落ち着いた雰囲気

鎌倉街道沿いにある「へんな洋食屋カフェ」。
拙著「麺食力」では、「へんな洋食屋」として、224ページに掲載しております。
実は、2011年に一度閉店しています。
3月11日の東日本大震災により、震災による被害はほとんどなかったものの、自粛ムードが高まり、当時80数件入っていた歓送迎会などの予約がほぼ全てキャンセルとなってしまいました。これが経営に大きな打撃を与え、閉店を決断。しかし同年秋に閉店後、常連客などの声もあり、コースメニューなど事前準備や経費のかかるものは撤廃するなどメニューを絞ったうえで、2012年春に「へんな洋食屋カフェ」としてリニューアルオープンしているのです。

「へんな洋食屋」の名物だった、秘密のヘンなスパゲッティ
(2008年撮影)

「秘密のヘンなスパゲッティ」はそのリニューアルオープンを機に「へんなグラタン」に変更しています。スパゲッティではなく、マカロニに変わりました。
「『ヘンなスパゲッティ』は、メディア受けが良くて年間100件くらい取材を受けていたこともありました。その影響で近所にあるスパゲッティ専門店にも『ヘンなスパゲッティください』と間違って注文されたようで、迷惑かけちゃってたからマカロニに変えたの。」



「秘密のヘンなグラタン」はマカロニだった

スパゲッティはマカロニに変わったものの、その迫力は健在。
パンの蓋を開けると、ホワイトソースのマカロニがぎっしりと。
トーストされたパンのサクサク感とホワイトソースのクリーミーさが相まって、フォークとナイフと時々素手が止まりません。

「手にたばこの匂いを付けたくないから。」
と気さくに筆者の質問に答えるマスター星山氏

マスターの星山建一氏は大学卒業後、和食の世界に身を投じました。

「実家が居酒屋で、それを継ぐつもりでいたけれど、成り行きで洋食屋を開こうということになりました。」

和食時代の師匠から教えられたのは、包丁の扱い方。
料理人にとって包丁は魂であると。その魂である包丁は30年以上、毎日どんなに忙しくとも、磨き続けていると言います。

30年以上毎日磨き続けているという玉鋼の包丁は光り輝く鏡面仕上げ

玉鋼の包丁。
砥石はサンドペーパーの4000番にあたるものを使用しているので見事なまでの鏡面仕上げ。

「某テレビ番組で共演した調理専門学校の先生から驚かれたよ。」

プロの料理人とは、普段見えないところにも、気を使っているのです。

「10年も前に本にしてくれて、改めてこうして取材してくれるのは嬉しいよ。何かの縁だよね。もし数か月遅かったら、こうして会えなかったわけだ。」

ん? どういうことでしょうか?

「今、この店の借り手を募集しているの。いくつか名乗りを上げてくれているところがあって、契約がまとまればうちの店も終わり。私は引退します。」

そうだったのですか!!

「へんな洋食屋カフェ」は閉店に向けて粛々と準備を進めているのであった

「閉店っていうと、イコール『つぶれた』っていうネガティブなイメージが先行するけど、決してそればかりではない。確かに私も60歳を過ぎて、一昔前に比べたら動きも悪くなって歯痒い思いもある。この店をビルにして、その借金も返済した。あとは家賃収入で生活できる。私は成功者なのです。だからまだ元気なうちに趣味のギターとかを楽しむ生活を送りたいと。」

マスター星山氏の肖像画。これからは趣味のギターに生きる

自分は成功者。
鎌倉街道の裏通りにテナントとして10年。やはり表通りの方が良いと店舗兼ビルを建てて15年。そのローンは予定通りに完済。「へんなマスター」と言われても、人生プランはしっかりと立て、それに沿って生きてきた男の、強い言葉でした。

星山建一氏と拙著。
テレビ取材も多数受けてきた中で「竹内結子は、本当に美しかった。」

後日、別件で入店した際に次のテナントとの契約交渉をしていたマスター。その席で2020年1月いっぱいで閉店することをあっさりと決めてしまいました。

「来月からハローワークに行かないとな。」

筆者紹介

 
本 名 田中 健介(たなか けんすけ)
略 歴 1976年9月生まれ。横浜市出身。横浜市在住。
武相高校、神奈川大学卒業。
自称エッセイスト、本業は福祉関係。
ベイスターズファン歴35年、CKBファン歴17年。
 
2009年9月、日本ナポリタン学会設立、会長となる。
http://naporitan.org
 
2010年3月、著書「麺食力-めんくいりょく-」(アップロード)刊行
https://amzn.to/2DGVqiU(Amazonへ短縮リンク)
 
2017年5月~ 連載「はま太郎」(星羊社)「田中健介のナポリタンボウ」
https://www.seiyosha.net/
 
連絡先:hamanomenkui@gmail.com

 

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