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しあわせの「コツ」(第38回) 「おむすび」はエライ!

by staff on 2020/2/10, 月曜日

第38回 「おむすび」はエライ!

      おむすび
 
いじわるされて帰ってきた日
お母さんがおむすびを作ってくれた
 
「夕食前だからね」と言って
小さなおむすびを作ってくれた
 
具は何も入っていない
まわりにぐるりと味噌を塗っただけの
ころんとしたおむすび
 
ほおばると
涙がボロボロこぼれた
鼻をすすりながら
夢中で食べた
 
指に張り付いたごはん粒も
きれいに食べた
 
いつの間にか涙は乾いていた
もう誰にも負けない気がしてきた
 
お母さんの手の味がしたおむすび
もう一度食べたいな

恥かしながら、この詩は某年某日の出来事を描いた若き(幼き?)日の私の作品です。

「おむすび」。
日本人で「おむすび」を食べたことのない人はいないでしょう。どこのコンビニでも売れ筋商品です。私たちの生活に溶け込んでいるおむすびにまつわるエピソードも、それこそ日本人の人口数だけあるのではないでしょうか。
私の思い出は、詩に書いたように、夕食の支度で忙しい母にせがんで作ってもらった「味噌むすび」です。ある時、この詩を読んだ三女が「これ、まるで私のことみたい」と言いました。親子で同じ体験をしたんだね、と笑い合ったものです。

「おむすび」という言葉をたどっていくと、「むすひ」という古語に行き着きます。「むすひ」は、実は日本人の考え方の根本にある大変重要な概念です。

漢字で書くと「産霊」。「産=むす」は生じる、生まれるという意味です。
なので、生まれた男の子は「むす・こ」、女の子は「むす・め」となります。
「霊=ひ」は霊威と言われますが、平たく言うと「目に見えないポテンシャルエネルギー」だと思います。ですからポテンシャルエネルギーがまだ4割程度しか開花していない未熟な存在は「ひ・よ(=4)」、7割くらい開花すると「ひ・な(=7)」、全部開花すると「ひ・と(=10)」と呼ばれます。

「産霊」(むすひ)は神様の名前にも入っています。造化の三神と言われる(注)天之御中主神・高御産霊神・神御産霊神のうち、二柱の神様のお名前に「産霊」(むすひ)が入っています。高御産霊神は男性神、神御産霊神は女性神とされ、「創造」「生成」を意味し、男女の「むすび」を象徴していると言われています。

(注) 天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、高御産霊神(たかみむすびのかみ)、神御産霊神(かみむすびのかみ)

武蔵村山
滝之入不動尊境内の
「造化三神」像

「むすひ」(=エネルギーを生み出す)という宇宙的なはたらきを対象化し、神格化した昔の日本人の研ぎ澄まされた感性には驚かされます。かつて人々は、あらゆる現象にこの「むすひ」を見たのでした。男女の営みはもちろん、物事が生成されていく全ての過程は「むすひ」なのです。

楠木正成が座右の書としたことで有名な兵法書「闘戦経」*では、「武」(ぶ)は混沌を整えて新しい秩序を生み出すものであり、その点では新たな生命体を生み出す「産」(む)と同一であると説いています(「武」は「む」とも読みますね)。武道では、敵との斬り合いでさえ、「斬り結ぶ」と言って、それも相手との「むすひ」の一種と考えるのです。

*「闘戦経」
大江匡房(1041~1111)による兵法書。中国の兵法書「孫子」は「兵は詭道なり」と、権謀術数を奨励していますが、日本の兵法書「闘戦経」は、天地自然と共存することを前提に、「誠と真鋭(正々堂々と道に乗って戦うこと)」を貫くことが武であると説いています。

日本の民族衣装、着物につきものの帯にも「むすひ」は欠かせません。昔の人はこの「帯を結ぶ」ということを、装いの便宜上だけでなく霊的成長にとって大変重要なことと考えていました。子供が成長して着物の付ひもを取り、初めて普通の帯を結ぶ時期になると「帯解き」と言って男女を問わずお祝いをしたのです。
この風習は室町時代末期から始まり、江戸時代中期以後は男子5歳の袴着に対して、女子は7歳の祝いとなりました。それが七五三の由来です。

帯を結ぶとは、「むすひ」を自覚させることだったのです。「もう赤子ではない」―つまり自分で生成エネルギーを開花させることができる年齢になったということなのです。

現代の「帯解き」七五三

帯に限らず、結び目には「神威」が宿るとされました。水引(正確には「水引結び」)も、結婚式とお誕生祝いとでは結び方が違うように、結び目の形に魔除けや寿ぎのエネルギーを乗せています。

「むすひ」。
今でも私たちは至る所で「むすひ」を行っています。縁を結ぶ、契約を結ぶ、本州と四国を結ぶ、髪を結ぶ、印を結ぶ、手を結ぶ、口を結ぶ、庵を結ぶ、話を結ぶ、紐を結ぶ、実を結ぶ、等々。「むすぶ」(=むすひ)は、とても量子力学的な言葉です。混沌とした状態から意味のある形へとエネルギーを凝集させていったり、分離しているものを統合していくはたらきなのです。

冒頭で触れた「おむすび」も、バラバラのご飯粒をぎゅっと結んで一つの形にします。同じ量のご飯でも、おむすびにするとなぜかおいしく感じられます。もちろん握った人のバイブレーションも影響しているでしょう。でも、一番大きな違いは、一つの形にすることで、同じお米でもご飯粒の時とは異なったエネルギーが生まれるからではないでしょうか。

おむすびの基本は三角形で、そこに「産霊」(むすひ)の神様のパワーが宿ると言う人もいます。だからおむすびを食べると力が出るのですね。

あれ? 三角形ということは、もしかして「造化三神」を表しているのでしょうか?!

いやはや、おむすびがそんな尊い食べ物とは知りませんでした(笑)。

水引。最近ではデザイン化された水引もあるが、
結び目に込められた意味は変わっていない。

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・株式会社エランビタール代表取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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