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しあわせの「コツ」(第39回) 「育児」は「育自」

by staff on 2020/3/10, 火曜日

第39回 「育児」は「育自」

長男が生まれた時、私は子供の魂にこう誓いました。

「親のエゴで、決して子供の資質を潰すまい」と。

いくら親でも我が子がどんな資質を持ち、何に向いているかは分かりません。親が医者になってほしいと思っても、子供は「ベニスに行ってゴンドラの船頭になりたい」とか「格闘家になりたい」というかもしれません。その時、犯罪にかかわることでない限り、子供の選択を喜んで受け入れられる親になろう!と決心したのでした。

この誓いは、親としての責任感であると同時に、子供の興味を持つ事柄の中にその子の資質や傾向を読み解いていく、謎ときのような楽しみでもありました。
それは、子供とともに自分が成長することでもありました。なぜなら、子供が生まれた時、私も「親として生まれた」からです。

子供年齢0歳、親年齢0歳、ともに「育事」(あえてこう書かせていただきます)という、相互に関わりながら成長する「自分育て」という営みを始めた同士なのです。ですから子供の成長に親が追い付いていないと、子供からサインが出ます。それを正しくキャッチすると、ともに大きく成長していくのです。

その例として、とても印象的な話をご紹介しましょう。

もう10年近く経ちますが、かかりつけの歯科の私の担当医がシングルマザーのS先生でした。

S先生がいた新宿のデンタルクリニック 治療室内

私が6人の子持ちという事もあり、治療の合間によく育児の相談を持ちかけてきました。ある時、S先生が小学6年生になる一人息子が最近荒れて、口も利かなくなったとこぼしはじめたのです。

S先生 「田尻さん、聞いてくださいよ。こっちが話し掛けても、口も利かずに睨めつけるんです。何度も言うと、『うるさい、くそばばぁ!』って怒鳴るし・・・。一体どうしたらいいのでしょう。」
「一人称を変えたらいいんですよ。」
S先生 「一人称? どういう事ですか?」
「先生は息子さんと話すとき、『ママ』と自分のことを言っていませんか。息子さんが赤ちゃんのときはそれでいいですけど、もう12歳ですから
先生も12歳の親にならなければ。」
S先生 「?」
「今度息子さんと話すとき、『ママ』をやめて『私』を使ってみるといいですよ。」

素直なS先生は半信半疑ながら私のアドバイスを実行しました。
次の週治療に行くと、S先生は満面の笑みを浮かべてこんな結果報告をしてくれたのです。

S先生 「田尻さん、大成功でしたよ!
あの晩、夕食後息子と雑談しました。最初は恥かしかったのですが、勇気を出して『私ならこう思う』とか、『私はね』という言葉を使って話しました。おしゃべりしている時は無反応だったのですが、部屋に戻るとき、息子がリビングのドアを開けながらこう言ったんですよ!
 
『今日はぼくを一人前に扱ってくれてありがとう。嬉しかった・・・。』
 
息子がドアを閉めたとたん、ぶわぁ~と涙があふれてきて。」

S先生はその時を思い出したのか、目が潤んでいました。

それからS先生には子供年齢と親年齢の話や、息子さんの反抗的な態度は『お母さん、僕と一緒に成長してよ!』というメッセージだったことなどを伝えました。

それからというもの、S先生と息子さんは夕食後に話す時間が長くなり、息子さんの好きな女の子の話や、ニュースについてなど、話題が尽きなくなったそうです。S先生曰く「なんだか年下の友達ができたみたい。」

こうして、親が子供とともに成長することを受け入れると、子供は必ず態度が変わってきます。難しいのは、子供は放っておいても心身共に成長しますが、親は子供より年上なので、変なプライドが邪魔して子供を「育事」の同士として見られないことです。そういう時は「この子のこういう態度は、私に何を学ばせようとしているのだろう」と、視点を変えるといいと思います。

また両親が不仲だったり、仮面夫婦でどちらか(あるいは両方)が不倫している場合も、子供は意識では気づかなくても無意識のレベルで感知するので、全存在をかけて親にメッセージを発信します。

それが不登校のような生活態度だったり、病気だったり、現れ方は様々ですが、そうした異常が出た時は「この子は、この状態を通して私に何を学ばせようとしているのだろうか」あるいは「何に気づけとサインを送っているのだろうか」という視点から子供を見ると、解決の糸口が見つかると思います。

親と子。
「産んでくれと頼んだ覚えはない」という反抗する子供の常套句がありますが、とんでもない話です。池川明氏の「ママのおなかをえらんできたよ」にもあるように、霊的進化にふさわしい相手として、子供は親を選んで生まれてきているのです。

池川明著 「ママのおなかをえらんできたよ」

私も末っ子の三女を通してそのことを実感しています。

三女が2歳のときのこと。
夕方洗濯物の山をせっせと片付けていると、急に膝に乗ってきて、こう言うのです。

三女 「おかあさん、おそくうまれてごめんね。」
「???」
三女 「ほんとうはね、もっとはやくうまれたかったんだけど、おにいちゃんやおねえちゃんたちがどどっと入ってきて、さきにおすべりをおりていったの。
だからこんなにおそくなっちゃったんだ。ごめんね。」

私は洗濯物を放り出して娘を抱きしめました。涙が出て止まりませんでした。

三女 「おかあさんはあっちでとっても人気があったよ。」
「あっちって、どっち?」
三女 「? だからあっち。」

この会話、大きくなった娘は全く覚えていませんでした。胎内記憶のある2、3歳までの記憶なのでしょう。不思議なことがあるものです。それ以降、育児に限らず辛い事や自己嫌悪に陥りそうになるときに、私は三女のエピソードを思い出すようにしています。

「私は6人の子供に選ばれたんだ!しっかりしなくちゃ!!」

当時中学生だった長男曰く「6人から課題を貰わなくちゃいけないほど、お母さんには修行が必要だったんだよ。」

え~、そうなの?

― どうやら我が家では子供が親を育てているようです(笑)。

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・株式会社エランビタール代表取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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