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しあわせの「コツ」(第41回) 男の涙

by staff on 2020/5/10, 日曜日

第41回 男の涙

世に「男の手料理」「男のロマン」「男の休日」と、「男の〇〇」という表現があります。粗野でワイルドで、武骨で不器用で、でも直情的で、冒険心に富んだ少年のような、あるいは男性的なセクシュアルな魅力に富んでいる、マッチョな・・・大体そんなイメージで使われていることが多いようです。世間一般で言う、いわゆる「男らしさ」を前提とした言葉のようです。

女性から見ると、生身の男性が必ずしも体現していない(であろう)資質が、「男らしさ」というイメージで語られ、また男性自身もその言葉に縛られているように見えます。ですから、「男らしさ」を前面に出すときの男性には、一種の「はにかみ」や「照れ」が見え隠れするのです。男性はそのことに気づいているのでしょうか?

「照れ」-それは本当の姿があらわになることへの恥かしさです。男性はなぜか自分の内面が人にさらされることをきらいます。韜晦したり、とぼけたり、とにかく防衛機制を張って内面を見せないようにしています。

では、男性が隠したい自分の内面とは一体何でしょうか? それは「繊細な感性」に他なりません。細やかで臆病で、優しくてはかなくて、女々しくて・・・ちょっとした言葉にも傷ついたり揺れ動いたりする感性。そう、いわゆる「男らしさ」と対極にある、繊細なガラス細工のような感性です。これはどんな男性にも備わっています。そして、現れたら恥かしいこの「繊細な感性」を守り、隠すために男性は「プライド」という鎧をまとうのです。

触ると壊れそうな繊細なガラス細工

以前、異業種交流会を主宰しているKさんと「男性のプライド」に話が及んだ時、いつもは温厚な紳士のKさんの顔が急にきりっとした表情になり、こう言ったのです。

「プライドは、男にとって命の次に大事なものです。それを傷つけられようものなら、もう、大変ですよ。ただではすみません(笑)。」

この言葉を聞いたとき、私は病院の待合室で読んだ「週刊文春」の記事を思い出しました。随分前のことなので詳しくは覚えていないのですが「事件の裏側」と言った記事でした。内縁関係の男女の話で、男性が女性を殺めた事件の裏側を探った内容でした。

その犯人は捕まった後、取り調べの刑事が何度聞いても、うつむき、固く口を閉じたまま決して殺害の動機を語ろうとはしませんでした。ある意味、単純な事件だったので、刑事はなぜこの男性が犯行の動機を語ろうとしないのか、理解に苦しみました。

業を煮やした刑事が「なあ、どんな理由だったんだ? 本当のことは書かないから、俺だけに言ってくれないか?」と語り掛けました。

そう言われた男性は、おずおずと顔をあげて刑事の顔を見つめました。
「刑事さん、本当に誰にも言わないでくださいよ」と言って、ポツリポツリと語り始めたのです。

犯人の男性と被害者の女性は、仲睦まじい事実上の夫婦でした。ところが、事件のあった日、女性が男性の性的能力を小ばかにするような態度で笑いながら冗談を言ったそうです。それを聞いた瞬間、カッとなった男性はそばにあった道具(何だったかは忘れました)で、彼女を何度も殴りつけました。やがて、ぐったりと動かなくなって床に倒れた彼女をみて、彼は我に返り、自ら通報したのでした。

「どうして、早くそれを言わなかったのかね」と刑事が尋ねると、男性は「だって、刑事さん、俺のことを『男として役立たず!』と笑いながら指をさして言ったんですよ。俺のプライドが・・・。俺の男としてのプライドが・・・。」

そこまで言った男性の目からは大粒の涙があふれ、言葉を継ぐことができませんでした。好きな女性が発した心ない言葉が、男性の「プライド」という鎧を突き破り、「プライド」がガードしていた「ガラス細工の感性」を粉々に打ち砕いてしまったのです。そのため、彼は理性を失い、取り返しのつかない行動に出てしまったのでした。

彼の涙は、好きな女性を殺めてしまった後悔の念だけでなく、「プライド」でガードしていた「ガラス細工の感性」が壊されてしまったことへの怒りにも似た「悲しさ」のあらわれだったのではないでしょうか?

いわゆる三面記事的な内容でしたが、私は考えさせられました。男性にとって「プライド」とはそれほど大切なものなのか、という感慨があったのです。

誤解を恐れずに言えば、繊細で優しい感性を男性の中に感じた時、その人の魅力は数倍に跳ねあがります。ですから、マッチョだの、ワイルドだの、という「男らしさ」の神話から自由になり、繊細な感性こそ、実は男性の魅力の源泉であることに、すべての男性が気づいてほしいと思わないではいられません。

ヒロイン「あなたのように強い(hard)人が、どうしてそんなにやさしく(gentle)なれるの?)
 
マーロウ「強くないと生きていけないよ。でも、やさしいところもないと、生きていく資格がないね。」

レイモンド・チャンドラー「プレイバック」

     
  レイモンド・チャンドラー(1888~1959)   映画「プレイバック」でフィリップ・マーロウ役のハンフリー・ボガード  

そうです。「やさしさ」とは男性が「男性」として生きるための大切な資質なのです。男性が鎧をまとわず、自然体の「やさしさ」を何もてらいもなく発揮するとき、女性は作られた「女性らしさ」を脱ぎ捨てて、本来内に秘めている「しなやかな強さ」をのびやかに発揮することでしょう。

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・株式会社エランビタール代表取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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