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しあわせの「コツ」(第42回) 「カスタマイズ」大国・日本

by staff on 2020/6/10, 水曜日

第42回 「カスタマイズ」大国・日本

昔から日本はオリジナルなものがなく、「物まね」大国だと言われ、日本人自身もそのように自分たちを見ているのではないでしょうか。

歴史をひもとけば、確かに初めて国家らしい体裁を整えた奈良時代、「大宝律令」も中国の官僚制度をコピーしたものです。衣装も、文字も、文物一切がよその国の借り物・・・と思いきや、実はそうでもありませんでした。形は借りても肝心のところは、ちゃっかり日本風にアレンジして使っているのです。

例えば、前述の日本の律令制度ですが、ある大事な部分が中国の制度とは違っています。

上が日本の律令制度、下が中国(隋・唐)の律令制度です。どこが違うかお分かりになりますか? 中国の制度では皇帝が直接官僚制度を掌握しています。一方日本の制度では、天皇と官僚制度の間に「太政官」と「神祇官」があり、
官僚制度は太政官と直結しています。

これが何を意味しているかというと、中国では「皇帝は律令制度の中の一ポスト」という位置づけであるのに対し、日本では「天皇は律令制度に含まれず、その上に君臨している」ということになります。政治は太政官、のちには左大臣・右大臣が行い、天皇は直接政治にはかかわらないのです。

ですから中国で「政権を倒す」という時は、「制度の頂点にある皇帝」を廃位させるか死に追いやることになります。日本で「政権を倒す」という時は、「制度の頂点に立つ太政官」を廃することであり、制度に組み込まれていない天皇(制度を超越した存在)にはノータッチです。むしろ自分の政権奪取をオーソライズしてくれる存在が天皇なのです。

日本の天皇がジュリアス・シーザーや中国の歴代王朝の皇帝のような存在ではない、ということが分かりますね。どちらかといえば法王に近いかもしれません。そんな「天皇」と「皇帝」との違いを踏まえて、「律令制度」を日本風にカスタマイズしたうえで導入しているのです。

また、1911年に清が滅亡するまで3000年の長きにわたって中国に存在していた「宦官」も、日本は導入していません。なんでもかんでも真似しているわけではないのです。

松岡正剛さんは近著「日本文化の核心」のなかで、稲作についても大変興味深いことを述べています。

     
  松岡正剛   「日本文化の核心」
講談社新書
 

古代中国の水稲栽培は、直播(じかまき)で天然の降雨に任せて稲を育てていました。しかし、日本では種もみから「苗代」というインキュベーターで稲の苗を育てます。そして苗が大きく育つとそれを田に植え替えるのです。直播の方が手間がかかりませんが、日本ではひと手間かけて「苗代」という苗のインキュベートシステムを開発し、より丈夫な稲を手に入れ、効率よく収穫を増やしていったのです。素晴らしいカスタマイズです。

苗代 日本の稲作に欠かせない種もみのインキュベーター

松岡さんは「稲作のプロセスに苗代を挟んだことは、日本の画期的なイノベーションでした」と結んでいます。事実「苗代」はその後の日本文化に大きく深い影響を与えています。

まず、「苗代」で種もみを育てることによって、稲の成長を管理できるようになりました。立春から数えて88日目に田植えをすると、大体何月ごろ収穫となる、という農作業のカレンダーが見えてきます。生活のリズムもそれに合わせて決まってきます。こうして、「苗代」の導入という稲作のカスタマイズが、日本人の生活様式が形成されるきっかけとなったのでした。

柔軟な感性の持ち主である日本人は、昔から海外の文物を貪欲に取り入れ,カスタマイズして日常になじませていきます。「襦袢」もそうですね。もとはポルトガル語のジバン、その前はアラビア語のジュッパといい、袖のない胴着のような衣装が、日本では袖が付き、伝統衣装の着物に欠かせない下着となりました。

現代でも、日本人はすでにあるものにひと手間かけて「自分仕様」にすることにたけています。カスタムバイク、カスタムトラック、はては携帯のカスタム化まで、とどまるところを知りません。コロナ騒動でマスクが必需品となりましたが、様々な工夫を凝らしたマスクを見るにつけ、「ああ、これは日本人のDNAなのだな」と思わないではいられません。

ハーレーダヴィッドソンのカスタムバイク

マスクさまざま デニム生地のマスクと和装用のマスク

「オリジナリティ」というと、全く新しいものを創りだすことのように言われますが、オリジナルなものにアレンジを加えていく才能も、「もう一つのオリジナリティ」と言えないでしょうか? あるものはそのひと手間のカスタマイズによってより使いやすくなり、あるものはさらにグレードアップしてオンリーワンとなる。それは確たる美意識やコンセプトがなければできないことです。

すでにものが溢れている現代では、新しいものを生み出すより、今あるもののカスタマイズこそが求められる才能なのではないでしょうか?

筆者紹介

 
本 名 田尻 成美 (たじり しげみ)
略 歴 著述家・株式会社エランビタール代表取締役
著書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)
主な訳書「都市革命」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「空間と政治」(H・ルフェーブル著 晶文社)、
「文体論序説」(M・リファテール著 朝日出版社)
比較文化的視点から、日常の出来事をユーモアを交えて考察していきます。
著 書 「しあわせのコツ」(幻冬舎)



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