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『さすらいの舞姫』 西木正明 著 (光文社)

by staff on 2010/12/10, 金曜日
『さすらいの舞姫』 西木正明 著(光文社)

2010年11月23日、北朝鮮が韓国の延坪島を砲撃して民間人が亡くなったというニュースが報道されました。北朝鮮の意図はわかりませんが、国民はともかく軍部は好戦的な集団であるのは間違いないでしょう。
韓流ブームでここ数年は民間レベルでの交流が進み、韓国の文化等が日本でも紹介されるようになってきました。一方、北朝鮮の人々の生活については私たちは全くといっていいほど知る機会はありません。

そんなときに1920年から1940年ごろまで日本で活躍した朝鮮半島出身のバレリーナ崔承喜(チェ・スンヒ 1911~69)を描いた小説を読みました。著者の西木正明氏は、私の高校(秋田県立秋田高校)の先輩でもあります。西木氏は、日本だけでなく世界的も人気を博していた崔承喜が政治に翻弄され、北朝鮮で粛清されるまでの一生を淡々と書き綴っています。

西木氏が彼女に興味を持つきっかけが、文豪川端康成が崔承喜(「さいしょうき」と呼ばれていた)のことを「アメリカのイサドラ・ダンカンよりはるかに素晴らしい」と絶賛していたことからだと小説の冒頭で語られます。

崔承喜は、ソウルから日本に来て舞踊家の石井漠に弟子入りし、祖国の民俗舞踊を取り入れたダンスで人気者になりました。美貌で長身でバレリーナとしての才能に恵まれ、社会主義者である夫の献身的なマネージメントを受けて欧米公演も果たします。戦前の男尊女卑の風潮の中で、自分の夢を捨ててまで妻に尽くす夫に恵まれた崔承喜は女性としてうらやましくもあり、それだけ魅力に溢れた女性だったのでしょう。

朝鮮半島出身という中傷も跳ね返して、独自のダンスで大衆の心をつかんだ彼女のバイタリティには感服するばかりです。自分のために作家をあきらめた夫のために崔承喜は、第二次大戦後「北」に戻ったのです。この小説を通して朝鮮独立運動をめぐる緊迫した政治情勢も見えてきます。
崔承喜夫妻は、一時は金日成の庇護を受けて北朝鮮の幹部になるのですが、権力闘争に巻き込まれて夫婦ともに行方不明となってしまいます。

私が幼少の頃、近所の方が「地上の楽園」と言われた北朝鮮に行きました。その後、全く連絡が取れなくなったと聞いていますが、日本から渡った多くの方々と同じように厳しい生活を強いられたのだと思います。人の命が独裁者の一存でどうにでもなるという北朝鮮、それは60年たった現在でも変わっていない現実に怒りを感じます。

「さすらいの舞姫」というタイトルは、朝鮮半島から日本、中国、そしてまた朝鮮半島へと移りながらも踊りを捨てなかった舞姫、彼女の踊りにかけた情熱と波乱に満ちた生涯そのものです。
激動の東アジアの歴史が女性の一生を通してドキュメンタリーのように展開していきます。900ページを超える大作ですが、作家の気迫に圧倒されて一気に読んでしまいます。若い方に是非読んでいただきたい一冊です。

 

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