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「レッドライト」 (連載第1回)

by staff on 2011/4/10, 日曜日

大塚・歳勝土遺跡の断崖
 

 港北ニュータウンを歩くと、三つの時代を追体験することができる。ひとつは縄文時代の暮らし。二つ目はペリーが開港した頃の里山の暮らし。三つ目が歴史と断絶した現代社会である。

 地下鉄センター北駅で下車し、駅前の複合商業施設「ノースポート・モール」を通り過ぎると、コンクリートで固められた断崖絶壁に突き当たる。その長さはおよそ300メートル。一見なんでもないこのコンクリート壁は、縄文時代の遺跡(大塚・歳勝土遺跡)を切り崩した跡だ。

 じつは港北ニュータウン一帯は縄文~弥生時代の遺跡の宝庫なのだ。センター北駅のすぐ北側からも「A-2」と命名された縄文時代中期の集落遺跡が発見されている。このほかにも A-1(縄文~奈良時代の集落) 、A-3遺跡(縄文時代早期の集落遺跡)、 宗玄塚遺跡(縄文~弥生時代の集落)、清水遺跡(縄文時代の集落) 、大棚杉山神社遺跡(弥生時代中期の集落遺跡) 、C16及び C17遺跡(古墳時代の集落遺跡)、 C18(古墳時代の横穴墓遺跡)

などかなり近郊からたくさんの遺跡が発掘されている。その数は、都筑区全体でなんと30あまり。都筑区は区域の大部分がニュータウンとして開発された「ニュータウン区」だが、同時に「遺跡区」でもあるのだ。

 しかしその事実とは裏腹に、遺跡は殆ど残されていない。なぜか。センター北駅のすぐ近くに建設された歴史博物館をみれば一目瞭然だ。

 この博物館は発掘された埋葬品の展示や、勾玉などの土産物を売っている施設だが、なんと大塚・歳勝土遺跡を半分切り崩してつくったのである。わざわざ遺跡を破壊し、その跡地に建てられた歴史博物館。 まるで横浜市当局の歴史に対する考え方を体現しているかのようだ。30あった遺跡の大半は、紙の資料として記録され、切り崩されて宅地の下敷きとなった。

 大塚・歳勝土遺跡の残された半分は公園として整備され、竹林とクヌギ・コナラ・カシの雑木林、復元された竪穴式住居、そして 江戸時代の民家を移築した民家園 で構成されている。この古民家は「旧長沢家」といい、ちょうど日本が開港したのと同じ頃に建てられたのだそうだ。つまり近代横浜の歴史とほぼ同じ築年数だ。

 その古民家と竪穴式住居を見下ろすようにして、近代的なマンションがそそり立っている。不思議な形で悠久の歴史と向き合う暮らしだ。

 ふつうニュータウンというと、判で押したように無個性な「中央公園」がひとつだけ用意され、あとはだらだらと宅地がつづくものだが、港北ニュータウンにはそれが当てはまらない。近郊に大小併せて十数カ所の公園が点在している。「緑ある公共空間」という見地から神社仏閣もふくめてしまえば、その数は20近くにもなる。そのどれもが個性的だ。

 水泳の国際大会も開かれるウォ-ターアリーナで有名な山田富士公園、中世城郭史の傑作といわれる茅ケ崎城址を整備した茅ヶ崎城址公園、長大な牛久保公園。圧巻は都築中央公園で、公園全体が、杉山神社の鎮守の森になっている。税金対策で鎮守の森を切り払い駐車場にしてしまう神社さえ珍しくないなかで、これは画期的な取り組みといえる。

 ニュータウンという言葉はショッピングモールとならんで、「ファスト風土(*註)化した均質化社会の象徴」などといわれ、社会学者や批評家から批判の矢面に立たされることが少なくない。人が生活していく上で必要なものが全て揃っているし、安全で清潔で人間工学的に「正しい」が、土地の固有性に欠けた紋切り型の退屈な場所、というわけだ。

 そうした評価は、港北ニュータウンの取り組みを前にすると、あらかた消散する。先鋭的な事業として名を売った横浜市の六大事業(1965年に飛鳥田市政下ではじまった都市計画プロジェクト。みなとみらい地区の形成によ

 
大塚・歳勝土遺跡の断崖

り、ほぼ完遂している)という事もあり、港北ニュータウンからは、地下道化した関内地区の首都高速道路やみなとみらい地区の造成と同じアカデミックな都市計画プランが感じとれる。

 画期的な事業。良心的な設計。しかしなにかやり残したような割り切れない感じ。幹線道である「歴博通り」をはさんで、歴史博物館と大塚・歳勝土遺跡の断崖が向かい合わせに建つ光景を前に、言葉にならない複雑な感情がこみ上げてきた。

 

 *註 「郊外文化研究」で知られる論客・三浦展の造語。地方社会において固有の町並みが消滅し、大型ショッピングセンター、コンビニ、ファミレス、ファストフード店、レンタルビデオ店、カラオケボックス、パチンコ店などが国道を中心に建ち並ぶ風景が全国一律となったことをさす。駅前繁華街の衰退とセットで語られることもすくなくない。

<参考>

檀原照和 プロフィール

1970年、東京生まれ。埼玉県立松山高校卒業後、法政大学で元横浜市役所企画調整局長の田村明ゼミに入り、まちづくりの概念を学ぶ。その後大野一雄、笠井叡、山田せつ子などにダンスを学び舞台活動に参加。2006年、「ヴードゥー大全」の出版を機に執筆活動を始める。他の著作に「消えた横浜娼婦たち」(2009 年)

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