4月 三ツ池だより 「一人ではない・・」
三寒四温が実感できる日々であり、時に驚かされもする。
3・11を忘れることが出来ない。その日は東京の会議に出ていた。まさかこんな大災害になっているとは想像すら出来なかった。品川にでて京急電鉄にのり鶴見につけば歩いてもなんとかなると踏んでいた。18時頃にはホテルのロビーの端に資料の紙を敷いて床に坐っていた。今日はここで仮眠になるかもしれないと覚悟した。21時30分頃だろうか、新幹線で小田原まで行くという会話を遠く耳にして、駅の改札へ急いだ。すでに200人ほどの列がいくつか出来ていた。新横浜から家の近くを通るバスの最終に飛び乗れて24時ごろに帰宅出来た。
バスは超満員で渋滞のなかを動いていた。運転手さんが皆さんに時々マイクで話しかけてくれた。「気分の悪くなった人はいつでも声をかけてください。どこでも止めますよ。」「大変な地震になっています。状況をお知らせするためにラジオをかけます。」身じろぎもせず聞き入った。
山ほどに東北の春壊されし 詢
三ツ池公園は彼岸桜が咲いている。山桜は枝の先に少しの姿の変化を見せ始めたところだ。いよいよ一気に咲き乱れるはずだ。それにつけても被災地の様子が常に頭から離れない。宗教学者の山折哲雄さんは「無情を受けとめる」の一文に「人は悲しみを完全に共有する事は出来ない。ただ寄り添うだけ。そこにひとりではない自分がいると感じることが出来た時、生きていることの実感が湧いてくる。」と書かれた。そして私たちは日々生活していかなければいけない現実がある。
なきものを探す警杖小雪舞ふ 詢
家の前の公園にブランコがある。ブランコのことを「ふらここ」ともいう。昨年の今頃に使用禁止の張り紙が出された。なかなか禁止が解除にならなかったので公園の事務所に訊ねた。予算が取れ次第に修理しますとの返事だった。孫はブランコが好きで公園に来ると、ブランコをのり、次ぎに我が家にくるというパターンが定着していた。
ブランコは擬人語「ぶらり」「ぶらん」から来ているという説、バランスからきているとも言われる。鞦韆(しゅうせん)とも言われる。古くは中国の官女が使った遊び道具で、今と違い飾りがたくさんついていた。遊戯中、裾から足が見えて、皇帝から喜ばれお声がかかる、と聞くと驚いてしまう。その「ぶらんこ」がいよいよ新しくなって登場した。スマートになった姿を工事の柵から見せる。
残されしものも悲しき春の海 詢
3・11の余震がおさまらずまだ全容が把握出来ていないという。厳しい現実を見ることができる。私は大震災のその前日日記に次ぎのようなことを書いていた。
何が欲しいのだ 地位か名誉か役職か そうではないはずだ やすらかに死にたいのだ つないだ事実が欲しいだけだ だったらとっとと 今にこだわるのではない。
自分の立ち位置を しっかりもって さらなる役に立つ生き方をするのだ。
災害に寄り添い紡ぐ遅き春 詢
山田洋次さんは今度の震災に「想像することでつながる」という一文を新聞に寄せている。阪神大震災で寅さんに来てくれといわれて大変悩んだ時のことだ。「私たちが今欲しいのは、同情ではない。頑張れという応援でも、しっかりしろという叱咤でもありません。そばにいて一緒に泣いてくれる、そして時々おもしろいことを言って笑わせてくれる、そう言う人です。だから寅さんに来てほしいのです。」と言われて、撮影を始めたと書いておられる。
石となりひかりて春を訊ねけり 詢
寅さんになることはできない。少なくとも、遠く離れた地での生活者としての私たちは「想像することでつながる」ことに思いをはせていきたい。そしてまた桜の季節になったことに新たな思いを寄せていきたい。自然との共生、生かされ生きている喜びの連鎖、一人ではないという思いを・・・。
Photos
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(文・写真:横須賀 健治)
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