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「創造的福祉社会 成長後の社会構想と人間・地域・価値」ちくま新書 広井良典著

by staff on 2011/12/10, 土曜日
書評「創造的福祉社会 成長後の社会構想と人間・地域・価値」ちくま新書 広井良典著  

 どういう社会を目指していったらいいのかを考えていたときに書店で目に留まった。

 「区民の幸福の総量」荒川区における取組の紹介などは驚くものがあった。従来のタテワリだった「都市政策」と「福祉政策」を融合していく取組であり「歩いて楽しめる街を作っていく」ことだった。ドイツにおける「座る場所が多くあり、人々がそこでくつろいだり、談笑したりしている光景」、ヘルシンキのバスターミナルを地下化し、その上に公的にするとともにカフェなどを配置した空間づくり、中国の無数の市場などが存在する濃密なコミュニティづくりを紹介してくれる。日本では静岡駅そば呉服街通りや香川の丸亀商店会の試みも伝えている。

 「地域の豊かさとは何だろうか」広井さんは若者のローカル化を次のように見ている。「若者のローカル志向を内向きになったとか、外に出ていく覇気がない、といった形で批判する議論が多いように思うが、それは全く的外れな意見だと私は思う。海外に進出していくのが絶対的価値のように考え、欧米=進んでいる、日本アジアは遅れている、といった固定的な観念のもとで猪突猛進してきた結果が、現在の日本における地域の疲弊であり、空洞化ではなかったのか。むしろ若い世代のローカル志向は、そうした日本や地域社会を救う萌芽的な動きと見るべきであり、そうした動きへのさまざまなサポートや支援のシステムこそが強く求められている。」と述べている。

 さらには中小規模の市町村の取り組みに触れている。「ローカルなまとまりを重視し、経済や人ができる限り地域の中で循環するような方向を目指すところが増えている。」「できる限りローカルなレベルにおいて地域内部で循環するような経済を築いていくという方向は、中小規模の市町村や農村部ではある程度浸透したものとなっていると言える。これに対し、平成の開国の下で推進されつつあるTPPのような政策は、一歩誤ればこうした方向を破壊していくものになってしまうことが危惧される。」

 大きな時代認識としてはグローバル化の先にローカル化というより究極的な構造変化が存在すると考えるべきで、各地域における具体的な実践とともに、そうした方向を支援する総合的な公共政策がもとめられている、とのべ松任谷由美の「生まれた街で」を紹介している。

生まれた街のにおい   やっと気づいた
もう遠いところへと    ひかれはしない
小さいバイクをとめ    風を見送ったとき
季節がかわったよ

 日本社会が直面している構造的な諸問題そのものは震災の前後で究極的には変わりはなく、今回の震災はそれを様々な面で、いわば先鋭化させたものとしてとらえ、従って、震災を契機に本来必要だった改革やパラダイム転換を加速させるという方向が重要ではないか。どんな社会をめざしていくのか。それは「いわば商店街やローカルな地域について考えることが、そのまま哲学あるいは普遍的、グローバルなテーマにつながるという、そうした時代になっているのではないかと思う。」という言葉になる。

 表表紙の裏には次のような紹介文が載せられている。
 「限りない経済成長を追求する時代は終焉を迎えた。私たちは、人類史上三度目の定常期に直面している。飽和した市場経済のもと、われわれの社会は”平等と持続可能性と効率性”の関係をいかに再定義すべきか。”危機の時代”に追求される荒田な価値原理とは、人間と社会をめぐる根本思想とは、いかなるものか。再生の時代に実現されるべき社会雑を、政策と理念とを有機的に結びつけ構想する」今足元をしっかり見つめる時。

(文:横須賀 健治)

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ランニングが大好きで、月に150kmほど走っているというヨコハマNOW編集長の辰巳隆昭が、お気に入りの新横浜公園のランニングコースを紹介します。
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