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2012年6月 三ツ池だより 「棚田の水の音が聴こえますか」

by staff on 2012/6/13, 水曜日
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 「草枕」の本がグレン・グールドの手元にいつもあったという記事を以前書いた。先月朝日新聞の投稿欄にグレン・グールドを評価していた吉田秀和さんの思い出を書かれた佐藤実さんの文を読んだ。「1980年代半ば、私は短いエッセーを先生に依頼したことがある。うれしいことにお引き受けいただいたのだが、忙しくてうっかり締切日を忘れてしまった私は、翌日先生からご立腹の電話をいただいた。多くのご予定を抱えた先生が締切をきちんと守ってくだったのに。電話を切ると即、鎌倉のご自宅に伺った。玄関の戸を遠慮がちに開けると、先生は意外にもやや笑顔さえ浮かべ、穏やかな表情で迎えてくださった。私は、当時、自分でもよく聴いていたグレン・グールドの話題を持ち出した。先生は新しい良いものに対して消極的な日本の音楽批評について不満をくちにされた。」

 「草枕」に出てくる峠の茶屋。「おい」と声を掛けたが返事がない。
 さて、人は時間をどのようにとらえているのだろうか。うっかりしてしまう時間、おいと声を掛けても返事のない時間。時にどう寄り添っていくのか。限りある時間、限りない時間。人は当たり前の時間を皆同じように持っている。どのようにとらえるか。才能のある者だけが評価される世の中は住みにくい。能力あるものをどう評価し、才能のないものの生きる道とは何かと問いかける。だからこそ「何かひとつでも特徴をもつ」ということになるのだろう。有限の時、出会いを自分のものにしてみたいものだ。

 笑顔が出来なかったものがひたすら笑顔をみせるようになった。字が書けなかった人がひたすら文字を書くようになった。自分では気が付かなかったことでも周りの励ましがあって、素直にとりくんでいったとする。才能のあるなしでなく、そこを越えた受け入れこそが光っていく。能力のあるもの、身につけたものがそれをおすそ分けしていく。対価を頂く者といただけないものが対等であるはずはないが、時は同じように存在する。

 あらためて問いかける。六月はどのような月なのだろうか。大地が育ててくれたものを私たちは自然の恵みという。その恵みをただ自然にと思っているだけでいいのだろうか。頂いたものをわけあたえる月と考えてみる。水田を見てみる。どんなに大量の水が必要か。水を必要以上には貰わず次に引き渡していく。日本の棚田などそれで成り立っている。棚田が美しいのはそれぞれの田が独立していながら、一体となって時を共有している。お互いに身を寄せあわなければなりたたない棚田なのだ。頑張りすぎない田の存在がそこにあり、大自然の中だからこそ存在しうることなのだ。

五月雨田ごとの闇となりにけり
与謝野蕪村

 蕪村が詠んだのは千曲の姨捨の地であり棚田がある。

おもかげや姥ひとりなく月の友
松尾芭蕉

 月光の中で伝説の姨を連想したといわれます。
 棚田の句には次のような句も見られます。

梅雨ぐもり棚田は蛙呼びあえる
松尾芭蕉
この蛍田ごとの月とくらべみん
松尾芭蕉
田に落ちて田を落ちゆくや秋の水
松尾芭蕉

 芭蕉、蕪村とくると一茶の句は何と思われます。ありました。

元旦は田ごとの月こそ恋しけれ
小林一茶

 棚田には月が似合います。ある場所に佇んでいると今見た月が隣の田に移っています。現在ならこちらがじっとしていられないので、動いていると隣へ隣へと田に映る月がみえてくるのでしょう。棚田という生活の基本が文化になり、保存という行為になってきた今は進歩したというのでしょうか。

 六月は有り余るほどの自然の恵みの中にいます。心の中に沁みこんでくる棚田の水を思いながら、大規模農業と生産自給率の向上と日本人の月を感じる心と、生きることは命のリレーのバトン渡しであることなどにも思いを馳せます。水とどのように関わっていくのかを考える月なのでもあります。住みにくい世の中を、住みよい世の中にするのは、私でありあなたの積極的な生き方と参画の意志なのではないでしょうか。美しい日本を取り戻したい。くしくも水源を地方自治体が購入して、外国資本の進出を排除する動きが出ています。当然といわねばなりません。もう一度、この日本の風土を、恵まれた大自然を見直していく月なのだと思います。大自然の音に畏敬の念をもって、耳をそばだててみたいと思うのです。

 

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(文・写真:横須賀 健治)

横須賀 健治プロフィール

メジャーテックツルミ 代表取締役
はかることのプロとして50年です。
食品の放射能測定のアークメジャーを設立しました。
「計量から見える幸せ」をライフワークにしています。

 

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