ビジネスの創造方程式で勝ち抜こう(第3回)
デジタルハリウッド大学大学院/NVD株式会社 松本英博
1.創造方程式の反応を促す「発想の触媒」
さて、前回2つの創造方程式をご紹介しました。
(1) 異種間融合方程式
A x B => C
これは異なった、モノやコトの2つを反応させて、新らしいモノ、コトであるCを生むというものでした。
(2) 改善方程式
A => A’
これは、元あったモノやコトであるAを改善したり、改良したり、変化させて違った、モノやコトであるA’とするものでした。
さらに、これらの新しい C や A’ をスムーズに生むために「発想の触媒」を紹介しました。
前回、「発想の触媒」で人間系を紹介したので、時間、空間、論理系や環境系について考えてみましょう。
先ずは、時間、空間、論理系の「拡大/縮小」、「反転/逆転」について例を使って考えてみましょう。
2.発想の触媒(その2)
下の表は、前回も出しましたが、覚えておくとアイデア出しの時に役立ちますから、再度出すことにします。
人間系 | 時間・空間・論理系 | 環境系 |
【五感】 | 【拡大/縮小】 | 【環境】 |
● 食べる ● 飲む ● 考える ● 話す ● 聞く ● 触る など |
● 空間(広い/狭い) ● 時間(短期/長期、居今からX年後) など |
● 現実/仮想 ● リアル/ネット ● 身代わり/なりすまし ● 個別/集団 ● 代替 など |
【動作】 | 【反転/逆転】 | 【感性】 |
● 使う ● 書く ● 出来る など |
● 左右反転 ● 上下反転 ● 因果逆転 ● 主客転倒 など |
● 極限状態 ● 挑戦 ● こだわり など |
人間系の発想の触媒を巧くコツは、実際のイメージすることです。例えば、Aを棒として「食べる」を使うなら、
A (棒) = 「食べる」 > A’ (ポッキー)
と、ポッキーを食べている自分を思い描くことです。
時間、空間、論理系の「拡大/縮小」、「反転/逆転」の利用のコツも、同様に対象物の変化を想像することから始めると、比較的 A’ や C が出易くなります。
自動車サイズのスマートフォン
さて、身近なスマートフォンや携帯電話を「空間の拡大」を使って A’ をたくさん出してみましょう。例えば、自動車サイズのスマートフォンと考えると、どんなアイデアが出るでしょうか?
- 電話をかけるにしても、おおきな動作でボタンを押すことに。となると、音声認識で電話をかける方が良いかも・・・。
- 電話がかかってきたら、大音量だ。しかもバイブレーション。地震発生機みたいだ。
- アプリを動かすにも、身体全体で操作しないと・・・。
- 実物大の広告なんかできるなあ・・・・。
- 電子新聞や電子書籍を読むときは、子供と一緒に眺められるかも・・・
といった、いろんな思い付きや想像がめぐるはずです。ここまで考えてみて、言葉や図解を行ってみると更に具体的になります。さらに、その言葉や図解で、新しいアイデアが出来てくかもしれません。
スマートフォンを自動車サイズにするといった奇想天外な発想こそ、実はアイデアを出す引き金になったと理解して頂ければ、「発想の触媒」の利用法が分かって頂けたかと思います。
さらにデジタルサイネージ(電子看板)の発想へ
さらに、自動車サイズのスマートフォンのアイデアの中に、
- 実物大の広告なんかできるなあ・・・・。
- 電子新聞や電子書籍を読むときは、子供と一緒に眺められるかも・・・。
といったアイデアがありますね。そう、街角のTV広告や広告塔と同じ発想だと分かれば、スマートフォンのように、他の情報機器から自由にメッセージを送って、大画面にメッセージや商品の動画を写し出し、これらの情報を大勢で共有できることが出来ますね。いわばデジタルサーネージ(電子看板)の発想です。
アイデアが出てこないというのは、考える余裕がないか、それとも、「発想の触媒」を使ったイメージ、つまり自動車サイズのスマートフォンが想像できない場合なのです。
アイデア出しでの障害は、
- 考える余裕がない: 考えることが許されるような時間や空間を用意する、心配事などがあれば、先にそれらの処理を済ませて取りかかるといった準備が必要です。
- イメージできない: 「ありえない」とか、「不可能」とは思わないで、楽しく、イメージしてみましょう。私の場合、大きなものを考える時も段階的に、例えば、ヒトの身長、自動車のサイズ、スカイツリーの高さ、富士山、・・・といった膨らませる方法をとります。
小さな場合は、かばんサイズ、手のひらサイズ、ペンの大きさ、小豆、米、髪の毛、顕微鏡でみるミジンコサイズ・・・という考えです。
3.改善も新規発想の仲間
さて、2つの創造方程式で、メーカーや商品を企画するする方に人気が高いの異種間融合方程式である A x B => C です。どちらかというと、改善方程式である A => A’ は目新しくないというだけで人気がないようです。
ただ、これはある意味で偏見だと私は思います。つまり、改善も立派な発明であり、新規の商品や企画であると言えるのです。その根拠として、多くの特許や実用新案は、改善に根ざしたモノがほとんどだからです。確かに改善は、対象となるモノ自身に大きな変化がないように見えます。しかし、効果はどうでしょう? 改善は、少しの変化で大きな効果を見出すことで、新しい用途や利便性を生むといった特徴があります。ビジネスでは、コストが最小で最大の効果が出るわけですから、改善型は、新規事業のネタを生む王道とも言えます。日本企業、とりわけ自動車産業では、TQC(Total Quolity Control; 総合的な品質管理)で幾多の改善を行い、世界で大きな位置付けを得たのは事実です。
異種間融合型は、多くの場合、天才的なインスピレーションを要求し、出来たモノの成功の確率も低いことから、ハイリスク・ハイリターンであると言えます。つまり、 Ax B => C では、A や B から C を生む原理に精通していなければなりません。
一方、改善型は、工夫の積み重ねであり、ローリスク・ハイリターンを狙うものです。つまり、A => A’ となる現場を熟知し、現場の知恵が生かされるものです。よく、発明工夫展で、主婦の発明が、意表を突く発明であるのも、日常生活での不便、課題、問題を、改善の視点で変えることに長けているからかもしれません。
さて、いかがでしょうか。異種間融合は憧れに近いですが、日々、「発想の触媒」を駆使すれば、意外と「目から鱗かも」しれません。また、改善も、「発想の触媒」で飛躍的に効率よくアイデアが出てくると思います。
※「発想の触媒」のトレーニングがしたいというなら、参考に拙著「ヒット商品を生み出すネタ出し練習帳」をどうぞ。
次回の予告
次回は、いよいよ、アイデアからビジネスに役立つ「事業のネタ」へ考えを拡げる方法について説明します。
松本英博 プロフィール
松本 英博(まつもと ひでひろ) デジタルハリウッド大学大学院 専任教授/NVD株式会社 代表取締役 京都府出身。18年にわたりNECに勤務。同社のパーソナルメディア開発本部で、MPEG1でのマルチメディア技術の開発と国際標準化と日本工業規格 (JIS)化を行い、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで画像圧縮技術を習得のため留学。帰国後、ネットワークス開発研究所ではWAPや i-モードなどの無線インターネットアクセス技術の応用製品の開発と国際標準化を技術マネジャーとして指揮。 NEC退社後、ベンチャー投資会社ネオテニーにおいて大企業の新規事業開発支援、社内ベンチャーの事業化支援を行い、2002年9月にネオテニーから分離独立し、NVD株式会社(旧ネオテニーベンチャー開発)を設立、代表取締役に就任。大手企業の新規事業開発・社内ベンチャー育成などのコンサルティング 実績を持つ。 IEEE(米国電子工学学会)会員、MIT日本人会会員。神奈川県商工労働部新産業ベンチャー事業認定委員、デジタルハリウッド大学大学院 専任教授、現在に至る。 |
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