佐々木彬文の「四季・色・贅・食」 第8話 お香で あ・そ・ぼ
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今日は日本の御香のおはなし・おはなし。沈香・白檀・練香・塗香とその歴史です。 595年4月淡路島に一抱えもある沈香が漂着しました。沈香とは知らずに村人が ちなみに仏教(伝来538年?559年の説も)と共に御香が日本に伝わって来たといわれております。 |
沈香の名の由来
沈香の名の由来は、樹脂が凝固し比重が水より重く沈む程の木であることから沈水香木(沈香)と呼ばれています。
練香の始まり
鑑真和上(奈良時代)が御香の配合を伝えたと謂われております。 平安時代には、公家が香料を複雑に組み合わせ『薫物』(練香の始まり)として楽しみ、着物に移り香として楽しむ様子が源氏物語などに記されております。
象牙の香合は、磯子区在住の茶道具師の千木良芳夫さん作です |
聞香への移行
時代が下り室町期に佐々木導誉(ささきどうよ)(※注1)という香木の大コレクターが現れます。(導誉は他に笛の名手で、お茶や華道・和歌・連歌にも精通しておりました)178種類もの沈香を所有していました。導誉の死後、これらの御香は東山殿に納められました。これが、平安時代の練香『薫物』から香木自体を割り薫らす『聞香』への移行の始まりです。
足利将軍義政は同仁斎(日本最古の四畳半茶室)を核として身分の上下無く文化人と集い、東山文化が始まりました。 その頃参集した人々に、禅僧=横川景三・茶道=村田珠光・華道=池坊専慶・香道=志野宗信・能=音阿弥・作庭=善阿弥・土佐派=土佐光信等などがおります。現在の『道』と付く文化の多くがこの頃確立され、義政は同仁斎に集まった人々と茶を愛で香を楽しんだのだろうと思います。 義政の事を少々。 奥様はかの悪名高い恐妻日野富子で毎日ガミガミ・ガミガミ。執政では采配の |
失敗から応仁の乱を起こしてしまい。家臣は言う事を聞かず・・・とうとう拗ねてしまい東山に山荘(注2) 銀閣寺=慈照寺を建て隠居してしまいます。今で言う引き籠りの状態です。
政治の才覚は全然だめでしたが文化に対しての造詣は深く、身分の差無く才覚のある人々が集いました。同仁斎の名の由来も横川景三(おうせんけいさん 臨済宗・禅僧)と相談し『聖人は一視同仁』から同仁斎と命名しました。その思想が後の文化に大きく影響しました。
蘭奢待
光明皇后が聖武天皇の遺愛の品々を東大寺に献上しました。 それらが正倉院に納められております。その中に、156cm 10kgを超える大きな沈香があります。
その名を蘭奢待(らんじゃたい)と言い足利義政・織田信長・明治天皇の三人が切り取りました。切り取った箇所には札が付いて居ります。 信長様は切り取った蘭奢待の三分の一しか使わず、残りの一部は千利休にプレゼントされたそうです。
香木の話
沈水香木(沈香)は、沈丁花科沈香属の木が病気や風雨などで傷が付き、樹脂が傷を治す様に浸み出し凝固し、その後、木が倒れ、埋まり、菌等の力を借り香気を持つようになったものです。 つまり、樹脂の塊や枯れた木の香気を持つ部分を削り出し沈香として使っていますが、造られるまでには悠久の時間がかかり、また乱獲などから現在ではワシントン条約希少品目第2種に指定されています。
沈香は採れる地域によって六国(伽羅=安南(ベトナム地方)・羅国=タイ・真那加=マラッカ・真南蛮=マラバール・佐曽羅=サッソール・寸聞陀羅=スマトラ)五味(甘・辛・苦・酸・鹹(塩辛い))に分かれます。 これらの六国五味を組み合わせ、作法・所作に則り香を聞き楽しむ事を『組香』といいます。 江戸時代に現在の形に成りました。 特に伽羅(きゃら)はこの中でも特別な扱いをされています。現在、産出量も極端に少なく樹脂部分が多く色の黒く(黒は伽羅の語源)芳香の良い物は極上品として扱われ、値段も、松栄堂で1g=¥36,000前後(2012年現在)しております。各御流儀の先生方は所蔵の香を大切に大切に扱われております。 |
白檀(びゃくだん)は、沈香に対し現在でもインド・インドネシア・マレーシア地方や太平洋沿岸諸国に広く分布・生育しており、価格も比較的安定しておりますが、栽培が困難なため、インド政府では栽培・輸出規制処置がとられています。 芳香の点でインド=マイソール地方の白檀が最上の物とされ『老山白檀』と珍重されています。
沈香・白檀の形状から、木・爪・割・角割・刻・重と分類されます。ご購入の折は形状を指定してください。「えっ?」「形状なんて分からない」って! 「行けば判る」筈です(笑)。
塗香
僧侶の方が法要など読経の前に身を清める所作の折に手元を注意して見ていて下さい。 黒檀の丸い香入れから一振り・二振り塗香を掌に振り出しそれで手を清めています。
香料を粉にして配合したもので皆さんも持って歩くとおしゃれですよ。 耳かき一杯の塗香を小さな和紙片に乗せ薬種包みにして、着物の袖や、シャツでしたら胸元のポケットに入れておくと体温でそこはかとなく香ります。
文香を作って封筒に入れて送っても先様が封を開けると香のかおりが・・・素敵ですよ。ちょっとオシャレでしょう?!
お香で遊ぼう!!
練香ってすごく粋な遊びなのです。 練香の材料は、香木に香料・木炭、それに皆さんが驚く材料が・・・『蜂蜜』や『梅の実』などが使われることも・・・この香の名前は梅の実が入っているので『梅の香』と名付けましょうか?
源氏物語にも出てくる代表的な『黒方』、菊の香りを表現した『菊花』など小さくて黒く丸いお香なのですが、平安時代に現在の形になりました。
作り方は墨の作り方に良く似ております。 皆様も香料を粉にし、炭の粉と混ぜ合わせて作ってみては如何ですか? 香りを調合して、ご自身で名前を付けて楽しんで下さい。 お花の名前を付けて「夕顔」「あじさい」「若菜」。 源氏物語がお好きなら・・「明石」「蜻蛉」「空蝉」「末摘花」・・・作者に思いを寄せて「紫式部」。虫の名前でさえ「ひぐらし」「鈴虫」「蛍」とオシャレに聞こえます。横浜人なら「霧笛」「浜風」「汐汲み」なんていかがですか? オリジナルの香に名前を付けて、香りを楽しむ・・・粋な遊びでしょう?
私もお点前に使う炭を挽いた後の粉が勿体無いので練香を作って遊んでいます。(お茶事に無駄な物は何も無いです! エッヘン(笑)
香道
現在は多くの流派が在りますが『御家流=三条西家』と『志野流=志野家』が平安・室町期に前後して興りました。 御家流は、平安時代を彷彿とさせる御道具も塗り蒔絵が多く華やかなのに対し、志野流は東山文化、村田珠光・音阿弥や義政様の影響から侘びた風情の御道具類が主に成っております。
横浜で小生の我が儘を聞いて下さる程の御香屋さんは無く、表参道の青山香房(松榮堂)と鎌倉の鬼頭天薫堂が一番近いと思います。小生は青山香房にお世話に成っています。 青山香房は、小生のようなものの拙い質問にも色々と丁寧に教えて下さり、相談に乗って下さります。さすが、300年続く老舗です。
(写真は 青山香房/香老舗松榮堂:渋谷区神宮前5-47-13 2F)
http://www.shoyeido.co.jp/shop-info/aoyama.html
茶道の中の御香
お茶は御香をとてもたくさん使います。最初に白檀の角割3枚を灰の上に置きそれから炭手前です。炉の手前には練香を・風炉の季節には白檀の角割を2枚使います。そうして、心を清浄に寂めお点前へと入って行きます。
香入れの作者は友人の菅野京子さんです。 菅野先生は藪明山(1853-1934)のお孫さんです。 ですから、菅野先生の箱書には “やぶ工房” となっています。やはり、血は争えないですね。 |
藪明山は眞葛窯の宮川香山と交流があり、横浜の「メイドイン ジャパン」を作った男達」として有名です。
(眞葛ミュージアム:http://kozan-makuzu.com/)
裏千家の香御道具は小さく質素なのですが、村田珠光・武野紹鴎・千利休と伝わる御香を楽しまれた方々の教えから、お香のお手前をとても大切にしております。
ここで注意! 釜を掛ける灰床の香木は白檀と決まっています。間違っても伽羅しかないからと(入れる方はいないと思います・絶対に!! 何故って?! 伽羅1g¥36,000 なら入れないでしょう!)もしも、あなたが億万長者だとしても、伽羅を入れたりしないで下さい。 なぜなら、伽羅は樹脂が強く、釜に付着し釜を痛める事になりますから。
頓首
注1)佐々木導誉(ささきどうよ)京極 導誉(きょうごくどうよ)または佐々木高氏(ささきたかうじ)京極高氏(きょうごくたかうじ)は、鎌倉時代末期から南北朝時代の武将。導誉は法名で、諱が高氏。
注2)足利義政公は延徳2年(1490年)1月7日、銀閣の完成を待たずして死去。享年55歳(満54歳没)
日本料理を世界遺産に!! これからの「茶懐石料理を楽しむ」の予定
第4回 | 7月25日(水) | 魚の開き方:若狭開き・腹開き・背開き 鮎のきも(うるか)を水と酒と塩で煮詰めた中に開いた鮎を浸けて干す。 (終了しました) |
第5回 | 8月22日(水) |
大徳寺麩(煮物椀) 滝川豆腐のジュレ(壺々) ☆煮物と陰陽のお話・・・ ☆壺々って何? ☆茶席デビューのお話(亭主・正客・次客・御末席) |
第6回 | 9月26日(水) |
卵素麺(箸洗い) 萩蒸 ご飯 ☆箸洗い・・・世界一薄い汁物・箸洗いの具について ☆萩蒸し・・・基本は白いご飯ですが?! ☆季節の工夫 |
写真は7月25日岩谷学園にて
会場:岩谷学園 粋生倶楽部サロン 〒220-0023 横浜市西区平沼1-38-24 TEL/FAX 045-314-3730
時間:11:00~13:00
会費:一回ごと 会員3,200円 一般 3,700円
(全3回 会員9,000円)
佐々木彬文プロフィール
日本画家(彬文会主宰)
茶道講師(裏千家 佐々木宗秀)
クラッシックギター演奏者
文・絵:佐々木彬文(日本画家・裏千家茶道講師)/編集・写真:高野慈子
ヨコハマNOW 動画
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ランニングが大好きで、月に150kmほど走っているというヨコハマNOW編集長の辰巳隆昭が、お気に入りの新横浜公園のランニングコースを紹介します。 |
横浜中華街 市場通りの夕景 | ||
横浜中華街は碁盤の目のように大小の路地がある。その中でも代表的な市場通りをビデオスナップ。中華街の雰囲気を味わって下さい。 |
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