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ビジネスの創造方程式で勝ち抜こう(第4回)

by staff on 2012/8/10, 金曜日

デジタルハリウッド大学大学院/NVD株式会社 松本英博

1.アイデアと事業ネタ、事業テーマの関係

 前回の発想の触媒などを参考にアイデアを出すことを進めてきました。さて、多くのアイデアから徐々にビジネスに役立つ「事業ネタ」、さらに商品やサービスの具体的なイメージをもつ「事業テーマ」に発展させていきます。

 アイデアと事業ネタ、事業テーマの関係は下表のように、アイデア段階は個人的な発案、事業ネタは、他者の意見を聴いてみて、事業の「におい」があるものです。

  アイデア 事業ネタ 事業テーマ
発想の対象 ● 自由 ● 事業の「におい」のあるもの ● 商品・サービスまで語れるもの
完成度 ● 問わない ● 問わない ● 商品・サービスがイメージできる
発想の広がり ● 広い ● ある程度まとまっている ● まとまっている
他者への説明 ● 多くの説明が必要 ● 事業の「におい」の共感得られる ● 具体的な商品・サービスイメージで説明できる
次へのステップ ● 大量に出し続ける ● 発想の要因を大量に出し続ける ● 他のイメージがないか?
● 具体的なデータ調査
事業計画の策定に必要なアクション ● 日常の蓄積 ● 他者とのコミュニケーションと修正 ● 他者とのコミュニケーションと修正
● 事業ネタへの回帰

事業の「におい」とは、「儲かりそう」、「売れそう」といった発案ですね。事業ネタになると、具体的な商品やサービスイメージがある、図解できるといった発案です。

 

2.アイデアは大量にないと事業テーマにまで到達しない

 新規の事業や企画を生み出すには、事業テーマの発案まで行かねばなりません。つまり、単なるアイデアでは思い付きのレベルで、年間数億円も売り上げるような大事業には発展しません。

 となると、成功確率を上げるためにも事業テーマあるいは事業ネタがたくさん必要となります。更に言えば、アイデアが大量にないと事業ネタでさえも少なくなってしまいます。
 アイデアが大量に必要なのは、成功確率を上げる秘訣です。ですから、発想するときに、意図的に増やすことを意識してください。さらに、最初から、「これは無理」とか、「出来っこない」といった否定的な評価は出来るだけ避けましょう。

 そんなにゴミのようなアイデアでよいのか、とよく筆者も聞かれますが、ゴミと評価する時点で否定的な発想になっています。評価を下す前に、突飛であっても数を出すことが重要だと思ってください。

● ちょっと一言 ● アイデア出しを妨げるもの

 アイデア出しを行っていると、発想の触媒を使って無理にいろんな発案を行います。肝心なのは、発案を記録しておくこと。アイデア出しから事業ネタに発展させるとき、多くのアイデアを捨ててしまいます。ですが、記録があれば、捨てる、つまり評価した後も残ります。

 実は、疑うべきはその捨てる判断、評価にあります。アイデアを出した時点での技術や状況によって私たちは評価をしますが、未知の技術や実現可能な状況があることも否定できません。

 例えば、衛星電話というサービスがあります。これは、地球の周りにたくさんの通信衛星を配置して、無線でその通信衛星を経由して、遠くの相手と通話するというものです。この発想は、米国モトローラ社がイリジウム計画として構想され実現しました。当時、77個も通信衛星を打ち上げて使うなど、「これは無理」、「出来っこない」のアイデアだったのです。

 

3.アイデアから事業ネタへ

 アイデアから事業ネタへの持っていく方法で有効な手段は、他者とのコミュニケーションです。自分のアイデアを、先入観なしで聴いてもらうことがその一歩です。

 話を聴いてもらうのは、気楽な雰囲気が良いでしょう。意見も出易いし、頭も軟らかくなります。

● ちょっと一言 ● ブレインストームのルール

 アイデア出しで良く使われる手段にブレインストーム(略してブレスト)があります。読者の中にも経験があるのではないでしょうか。

 ブレストで重要なことは、

  1. 相手の話を遮らない(どんなにゆっくり説明されても聴く)
  2. 相手の話を批判しない(良し悪しをつけない、「でも」といった否定口調は使わない)
  3. 相手の話に乗っても良い(便乗意見は大いに結構)

ですね。この中で意外と出来ないのが 2 と 3 。特に、2 は発想する気力を萎えさせてしまいますから厳禁です。

 著者はさらに、質問のルールをフィンランド・メソッドに則って、

  • 「どうして」を繰り返して、相手に考えてもらう
  • 「どうして」を繰り返すことで、常識を疑う
  • 「どうして」を繰り返すことで、発想の原点を探る

ことを行います。何度も「どうして」と聞かれることは、最初は慣れませんが、慣れてくれば、自分のアイデアを質問しながら、心の中で「どうして」とつぶやくことで、良いアイデアに発展することもあります。

 さて、アイデアを幾つかメモに書きながら、下の順序で、会話をしていきましょう。このとき、この会話を「楽しむ」ことも重要です。

  • アイデアを相手に説明する:出来れば図やキーワードを披露しながら説明できれば、相手のアイデアの理解も良くなります。
  • アイデアに対して質問してもらう:発案者にとって常識と思っていたことに実は、新しい視点がある場合もあります。質問は、「どうして」でも結構です。
  • 質問に答える。こじつけもOK。:すべて、回答する気持ちで。多少のこじつけでも結構です。このこじつけが新たなアイデアを生む場合もあります。
  • アイデアの評価をしてもらう:事業ネタとして「儲かる」、「売れそう」といった評価をしてもらいましょう。良いなら、何がポイントか、ダメなら、何が良くないかも把握してみましょう。
  • 気になったキーワードや気付きがあれば、アイデアを修正する:会話の端々で出てきたキーワードや気付きがあれば、実は新しいアイデアが生まれてくる可能性もあります。メモを使って書き留めておきましょう。

 事業ネタを事業テーマとして展開するのは次回に行いますが、有効な手段は、事業テーマの説明図に書いてみることです。図を描くことはネタを客観的に見て、いろんな視点で見ることで更に具体化することになります。

 

4.事業テーマと事業性の評価

 折角出た事業テーマも、会社や部門がその発案を取り上げないと、実現に必要な経営資源(ヒト、カネ、モノ、情報)を与えられません。いわゆる、「お蔵入り」になります。

 では、誰しもが推す事業テーマも「お蔵入り」になるのでしょうか。

 そこには、企業の事業に関する考え方が原因となっています。事業を、現在行っている事業(既存事業)と新しく行う事業(新規事業)に分けてみると下表のような考え方の違いが浮かび上がってきます。

 既存事業は、リスクを最小限に、正確に事業を推進することがミッションです。ですから、価値観も保守的で具体的な評価となります。一方、新規事業は、リスクを取って、最大のリターンを得る挑戦的な事業で、その企業にとっては、フロンティアです。

 さて、ここにある事業テーマを提案したいとします。
その時、A => A’ (改善型) か A × B => C (異種間融合型) かといった、発想の原点に由来して、提案の仕方が変わってきます。

 例えば、事業テーマが改善型であれば、既存事業の改善である場合が多いため、提案によって、リスクを最小限にし、効果も明確で、継続的に改善をおこなうことが収益をあげるものとなりやすいのです。一方、異種間融合型の事業テーマである場合、既存事業の範疇外であることが多く、既存事業の尺度での「事業性の評価」は出来ないか、あるいは無価値と判断される可能性もあります。しかも、リスクが大きく、効果の評価も未経験かもしれません。多くの経営者が、新規事業に慎重なのは、心理的に「危ない橋」に見えるからです。

 それでは、異種間融合的で、新規の事業テーマあれば、事業化出来ないのでしょうか。

 答えは、ノーです。もし、事業化出来ないのであれば、これまでの新製品や新サービスはすべて生まれてこなかったかもしれません。松下幸之助の電球、本田宗一郎のエンジン、ソニーの井深大のトランジスタラジオ。何れも、当時は、「危ない橋」の事業です。しかし、当時の提案者や推進者、発明家が事業に向かっていけたのは、大きなリスクを取る代わりに、自分で見通せる「顧客への提供価値」があったからです。必ずやれば、お客さんの要望に応え、満足してもらい、商品を手に入れてくれるという見通し、ビジョンがあったからです。

 ビジョンや見通しは数字に直すのは困難ですが、既存の商品やサービス、代替手段からその価値や価格を割り出せば、そこに事業テーマの規模や成長性などを見出せるはずです。そこまでくれば、リスクの大きさも見えてきます。つまり、儲かる皮算用の「提供価値」が分かれば、それに投資する経営資源(ヒト、カネ、モノ、情報)の大きさも概算できることになります。

 確かに、競合や不測の事態、ニーズの変動で、リスクの大きさも変動しますが、これを上回る、「顧客への提供価値」がビジョンとして見通せれば、アクションプラン(行動計画)として事業計画の素案を描くことができるのです。

※「発想の触媒」のトレーニングがしたいというなら、参考に拙著「ヒット商品を生み出すネタ出し練習帳」をどうぞ。

次回の予告

次回は、「事業のネタ」から「事業テーマ」への展開の仕方について考えていきます。

松本英博 プロフィール

 

松本 英博(まつもと ひでひろ)

デジタルハリウッド大学大学院 専任教授/NVD株式会社 代表取締役

 京都府出身。18年にわたりNECに勤務。同社のパーソナルメディア開発本部で、MPEG1でのマルチメディア技術の開発と国際標準化と日本工業規格 (JIS)化を行い、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで画像圧縮技術を習得のため留学。帰国後、ネットワークス開発研究所ではWAPや i-モードなどの無線インターネットアクセス技術の応用製品の開発と国際標準化を技術マネジャーとして指揮。

 NEC退社後、ベンチャー投資会社ネオテニーにおいて大企業の新規事業開発支援、社内ベンチャーの事業化支援を行い、2002年9月にネオテニーから分離独立し、NVD株式会社(旧ネオテニーベンチャー開発)を設立、代表取締役に就任。大手企業の新規事業開発・社内ベンチャー育成などのコンサルティング 実績を持つ。

 IEEE(米国電子工学学会)会員、MIT日本人会会員。神奈川県商工労働部新産業ベンチャー事業認定委員、デジタルハリウッド大学大学院 専任教授、現在に至る。

 

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