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第11回 目利きのプロに相談したくないですか?

by staff on 2013/4/10, 水曜日

有限会社 鈴木アトリエ一級建築士事務所
鈴木信弘

 私が生まれたのは、ちょうど東京オリンピックの準備で世の中が活気づいていた1963年。
映画「ALWAYS/3丁目の夕日」と同じ頃です。

 映画の中でも登場する、リアカーを引く氷売りのおじさんは確かにいたし、洗濯機は2層式で脱水層の右には絞り機がついていましたね。それから昭和の暮らしといえば、毎朝牛乳がポストの上に置かれ、夕方には酒屋さんがプラッシーとビールのケースを交換に来たし、クリーニング屋のお兄さんも毎度洗濯物を届けてくれていました。そうそう思えば、住まいに関してもいろんな人が家に関わってくれていました。季節の変わり目には植木屋さんが庭の枝の手入れに来てくれたし、襖を直しにくる経師屋、棚を直しにくる大工、テレビの調子が悪いと電気屋、皆住んでいるのが近所だったのでしょう、ちょっとした時に寄ってくれて「そろそろ外壁を塗った方が良いね」とか、「最新の冷蔵庫は凄いよ?」とかいろんな面倒をちまちまと見てくれたし、情報も頂いたものです。

 今ではすっかり横浜も様変わりしました。工場だった所は大型店舗のショッピングモールになり、幹線道路にはファミレスができ、駅前の小さな喫茶店や定食屋がなくなり、ドラッグストアと学習塾とファーストフード店ばかりになりましたし、家に出入りしていたご用聞きの職種の人たちもすっかりといなくなりました。牛乳屋さんは既に配達をやめ、酒屋さんもコンビニに代わり、クリーニング店は消え、昔の大工さんが亡くなって縁がなくなり、すっかりと生活のなかで関わる人の数が減ってきた気がします。

 確かに、大型店舗やチェーン店は品物が均一で安定していて、価格も安く、いつでも手に入り、自動車で行けて便利です。世の中のサービスは私たちが求めたものなのでしょう、その結果が今の状況なのかもしれませんし、これからも大資本が残り、小さな業態はもっと淘汰されていくのかもしれません。

 私個人においても知識や情報の入手方法はだいぶ変わりました。地元や地域とのつながりも薄くなり、話す機会も減り、近くで何かを頼む相手がいなくて、ついインターネットでいろんな情報を探してしまうのです。

 でも、実は最初からネットで何かを探すのが好きだったのではないのです。身近な店舗や専門店に、きちんとした専門家、プロのアドバイスのできるひとが少なくなってきたから仕方がなくネットで探しているのです。

 例えば、鍋を買うとします。使っていた鍋が駄目になり、買い替える時には、次は取手が木で根元の取り付けが云々、といろいろ素人料理人ならではの、ちょっとした希望を考えます。

 店に出向いて展示されている鍋に希望の品物がない時には店員さんにその旨を伝えるのですが、「ここにあるものしか扱ってないです?。」の一言。

 いやいや、そうではなくて、ほかに売っていそうな店を教えてくれたり、メーカーを教えてくれたりすればありがたいのだが、自分の店で買わないからなのか、店員さんがアルバイトなのか、知識もなさそうだし聞いても無駄だなと早々にこちらも退散。

 しかたがなく自宅に戻りネットで調べたり、情報検索に走るのです。するとやっぱりありました。世の中は広い。自分の悩みを解決してくれるようなこだわりの理想の鍋が見つかるのです。

 個人経営の専門店が生き残れず、目利きの専門家が少なくなり、平均化された商品や規格品で満ち溢れるこの頃。接客すらマニュアル化、効率化され、未経験者でも対応できるような即席の店が多すぎて、人件費を抑えるのには貢献しているけど、サービスの質って低下しているのではないかと思う。ちょっとしたこだわりや悩みをなかなか解決してくれないし、提供もしてくれない。はたまその道の目利きも減ってきていて、どこに行っても同じような店ばかり。本当のプロ店員が減っているのはかなり残念。

 こんな経験ありませんか?

 さて前置きが長くなりましたが、実はこれ、家をつくる、建てる時も全く同じだと思ったのです。上記の鍋屋と同じことが日常でよくあると思うのです。

 住宅を建てようとするとき、たいがいの人が一度は行く住宅展示場。そこで見る、凄く大きな住宅の数々。地震にも強そうで、素敵な広いキッチンと豪華な設備にすっかり酔ってしまい、夢がふくらみ、笑顔のスーツ姿の担当者に予算と敷地を伝えると、一瞬で出来上がる我が家のプランが刷り込まれたカラーのパンフ。おお、早い!と感動して浮かれていると「今月中に契約してくれれば、食器洗浄機と床暖房はサービスですよ?!」と言われてビックリ。

 すっかり舞い上がって帰宅し、冷静になってその夜に家族会議で考えてみる。すると、うーん、ちょっと変えてほしいなと思うところがでてきて、「ここは変えてほしいのですが」と尋ねる。たいがいは若い営業マンが接客しており、質問には半分くらいしか答えられないし、困り顔で「上に聞いてきます」と戻っていく。次には上司が一緒に来るのだが、怪訝そうな顔で「我社はそういう対応はできません!」とか、「オプションならできます」といわれ、そこだけ面倒くさいと言わんばかりのべらぼうに高い見積もりがでてくる。

 マニュアル化された接客、カタログから選ぶ仕様、合理化と効率化のシステムには細かなことにはいちいち対応するつもりもないし、そもそも営業マンは設計のプロではないので、顧客の細かな要望に対しての答えなど最初から持っているはずがないのです。本来なら、その会社で作るかどうかを選択するのは正しいのですが、すでに片足突っ込んでしまっているために、気づいた時にはその店に陳列してある商品のなかから選ぶしかない。こんな状況が日常茶飯事だと思うのです。

 本当はその道のプロに一度相談すべきなのです。

 お金があろうがなかろうが、条件が悪かろうが、その内容に応じた本物のプロのアドバイスなら、見方も世界も広がるはずです。知らなかったことも教えてくれます。気づかなかった別の側面も見えてきます。物事の善し悪しを偏った目で見ずに、公平に考えてくれますし、無限の選択肢から、最も適切なものを一緒に探すのですから、依頼者が道を誤らずに済むのです。

 そんな人を早くから見つけて、相談して家のことは任せられる、相談できる、アドバイスをもらえるようにしてくのが良いと思うのです。いわゆる、自分にとっての住まいに関するブレーンを雇うようなものです。

 一般的に敷居の高いと思われている設計事務所とは、実ははそんな身近な存在だったりします。私たちは自分たちを建築や住宅のプロと自負しているからこそ、どこにも属さず独立しています。つまりそれぞれがこの道の「目利き」のプロであり、こだわりの店主達なのです。

 しかし、ほとんどの方は私たちの存在も仕事の内容も知りませんし、一部の特殊な人たちが依頼する別世界の人間だと思われている気がするのです。

 建築家のHPを見ていただけるとわかると思うのですが、掲載されているのは多くのお客様が私たちをブレーンとして雇ってくださり、建築に関して安心してくださっている事例が掲載されています。

 あなたにもきっと相性のよいプロが存在します。

 それが、新しい建築(住宅)との関わり方になると思うのです。


(クリックで拡大写真)

 

水テラスと名付けられたこの浴槽は、実はリビングの横にある。
え? 湿気は大丈夫なの? とほとんどの人に聞かれるが、もちろん大丈夫。その工夫は写真にはあらわれないが、実に快適なのである。
家に帰ってきて、風呂につかりながらテレビを見たり、酒を飲む。
もちろん、天気の良い日は窓を開け放し、屋根付きテラスとして 外気に触れる場所。狭い家で浴室を使わない時間のほうが多いの だけれどそれはもったいない。そんな施主の言葉で奮起した住宅。
(横浜市港南区)


(クリックで拡大写真)

 

家の中に坪のような部屋がある。なんじゃこれ!?
といつも言われるが、普通の人が住む小さな住宅。
外部のシェルターのような殻の中にもう一つ部屋が入れ子になっている。
つくり方はカヌーと同じ方法。
出来上がってみると凄いものが家の中に置かれていることになった。
でも、一度この部屋で寝るとやみつきに。
まるで包まれたような安堵感と安心感がある。
その価値は体験しないとわからない。
写真には形しか写らないから。
しかもこの家9坪×2層=18坪の小住宅なのです。
どうせ作るなら、こういう世界も面白いと思いませんか?
(横浜市港北区)


(クリックで拡大写真)

 

リビングを半地下にして天井高さ3mを確保した家。
念願の薪ストーブで料理から暖房までを担うため、プランの真ん中に薪ストーブを設置。
煙が隣家にいきにくいように配慮したためです。
この施主は、薪ストーブのために、夏からせっせっと薪集め。
一冬で巾10m、高さ2mの薪を消費するのですから。
他の趣味も存分に盛り込んだ住宅なのですが、このストーブのおかげで、早く帰ってくるようになって、外で遊ばなくなったそうです。
あらゆる食材を取り寄せては試し、料理と熱燗で晩酌を楽しむ。
階段下には酒蔵まであります。
時間を掛けて対話することで設計の方針が決まり、成功した例。
(神奈川県相模原市)

「暮らしを大切にデザインする」ギャラリーへ

横濱元町AA STUDIOは「暮らしを大切にデザインする」17名の建築家のギャラリーです。それぞれの建築家の模型・作品写真など自由にご覧になれます。

横濱元町代官坂の中腹にあるカフェのようなギャラリーで、週末は交替で建築家がお迎えいたします。(建築家と話そう!)ホームページのスケジュールに担当建築家が掲載されていますので、カフェに立ち寄る気分で横濱元町まで建築家とお話にいらしてください。お待ちしております。

なお5回ほど私が連載して参りましたが、今後はメンバーが交替で「新しい建築とのかかわり方」を綴りますので、変わらぬお付き合いでご愛読くださいますと幸いでございます。ありがとうございました。

AA STUDIO WEB http://www.aaplan.com/aastudio/
Craftman Shop Street Motomachi http://www.motomachi-cs.com/cm/shop/shop051

青木恵美子 http://www.aaplan.com
新井今日子 http://www.arai1992.com
伊藤 寛 http://www.ito-kan.com
岡田 勳 http://www.kuukantoshi.co.jp
荻津 郁夫 http://www.o-as.co.jp
神田 雅子  
北川 裕記 http://www.aalab.com/kitagawa/
栗原 正明 http://msak.asia
河辺 近 http://www.ken-ken-a.co.jp
後藤 武 http://www.gtaa.jp
鈴木 信弘+洋子 http://suzuki-atelier.com
豊田 悟 http://home.m07.itscom.net/toyoda/
中村 高淑 http://www.unit-h.com
藤本 幸充 http://www.kamakobo.com
松井 理美子 http://www.matsui2ar.com
水口 裕之 http://homepage1.nifty.com/eau/
山口 賢 http://www.amarterrance.com

 

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ヨコハマNOW 動画

新横浜公園ランニングパークの紹介動画

 

ランニングが大好きで、月に150kmほど走っているというヨコハマNOW編集長の辰巳隆昭が、お気に入りの新横浜公園のランニングコースを紹介します。
(動画をみる)

横浜中華街 市場通りの夕景

 

横浜中華街は碁盤の目のように大小の路地がある。その中でも代表的な市場通りをビデオスナップ。中華街の雰囲気を味わって下さい。
(動画をみる)

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