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ビジネスのフレームワーク入門(第8回 最終回)

by staff on 2013/8/10, 土曜日

デジタルハリウッド大学大学院/NVD株式会社 松本英博

1.フレームワークはなぜ今も使えるのか

 さて、この連載も今回で最終回となります。前回触れたフレームワークとロジカルシンキングの関係を違った視点で見ることで、より身近にフレームワークを扱えるうようになるでしょう。

 前回、ロジカルシンキングで重視する思考は、①仮説思考、②ゼロベース思考、③ポジティブ思考、④フレームワーク思考として経験的に体系化されていると述べました。フレームワークとは密接な関係は分かりましたが、そもそもフレームワークとしてなぜ、今日まで使えるようになったのか、という視点で考えていきましょう。そうすれば、今後もこれらのフレームワークが単発的なものではなく、継続的に使えるという安心感につながります。

仮説思考の視点から

 仮説思考とは、「ある時点での仮説をもとに行動する」という考え方です。それぞれのフレームワークはそれ自身の記法や分類に、仮説を含んでいます。例えば、第3回で取り上げたMECEですが、縦軸、横軸の評価軸に重なりがないことを前提にしています。言い換えれば、問題解決を行う場合、どちらにも入らないとか、どちらにもはいるといった項目を排除しています。つまり、どちらにも入らない場合や逆にどちらにも当てはまることは、MECEを活用する上で、重要事項でないという仮説が隠れているのです。

 これは、フレームワークの活用や分析にある前提条件が、仮説そのものであることも意味します。バリューチェーンという枠組みを考える場合、自社の立ち位置によって、同じ商品でも違った価値が要求されます。図1を見てください。商品はソフトウェアですが、立ち位置によってIT部材を売る事業やSI専門事業、ITアウトソーシングを行う事業など変わってきます。

 このように、仮説を幾つも検討したいときは、フレームワークでは、位置付けや前提条件の変更を順次おここなえば紙上で検証できることもあります。

ゼロベース思考の視点から

 ゼロベース思考とは、「既成概念を取り払い、何もないゼロベースの一から最善の答えを見つけ出す」という考え方です。どのフレームワークもゼロベース思考である点は同じです。最初から意図をもって、フレームワークを使うことはありません。

 多くのフレームワークは、それを活用することで分類、分析が自然に行える点で、ありがちな常識、過去の経緯、前提、ルール、不文律さらに経験と言った「しがらみ」から離れて考えることができます。

ポジティブ思考の視点から

 ポジティブ思考とは「今の解決策よりも更に良い解決策が存在する」という考え方です。多様な切り口でのフレームワークを使うことで、新たな概念を生み出すことがあります。これの例として米マサチューセッツ工科大学(MIT)が確立したフレームワークに、全体観を掴むことで大規模で複雑な課題を解こうとするものです。良く使われるフレームワークに因果ループ図があります。(図2)

 記法のルールとして、以下の過程にそって、書き出していきます。

  • ある問題に対して起きている事象を書き出す
  • 矢印をそれぞれの事象につける
    • 正の因果関係(原因が増加すると、結果も増加する):Sを記入
    • 負の因果関係(原因が増加すると、結果が減少する):Oを記入
  • できた輪に
    • バランス(一定の状態に保とうとする作用):Bを記入
    • 拡張(雪だるま式に膨れようとする作用):Rを記入
  • 以上で、何と何が影響しているか、あるものが解決すると、全体としてどのような影響を与えるかを分析する

このようにフレームワークを当てはめることで新たな発見を見出すこともできます。

フレームワーク思考そのもの

 「モレ、重複といったことを排除して無駄をなくすこと」がフレームワークの目的です。ただし、情報がそろっていない状況での分析で判断することは危険です。もっと言えば、フレームワークを活用している際でも必要に応じて情報を追加することも必要です。つまり、フレームワークに情報を「当てはまる」ことばかりに気を取られて、「考える」ことが欠落することです。いつしか、当てはめることが目的になってしまうこと、これが危険です。SWOTのフレームワークでは、強み、弱み、機会、脅威を整理して枠に書き込むことが目的ではないのです。SWOTを見て何が言えるのか、強みと機会と掛け合わせてどんな可能性があるかといった「考える」ことが重要となります。

フレームワークの得手不得手

 とはいえ、フレームワークの1つで済むわけではなく、得手、不得手があります。更に言えば、フレームワークを自分のものとして活用するには、その得手、不得手を知り、実際に分析をしてみることが必要です。TPOに応じてフレームワークが活用できれば、多くの課題に対しての対策が打てるはずです。

フレームワークが今も使える理由

 起承転結で文章を書くフレームワークは、形式や型と呼ばれ、古くから受け継がれてきました。言い換えれば、先人の知恵の集大成として活用され、受け継がれてきたことは、フレームワークが生き残れる要素を持っているからです。その要素は、このロジカルシンキング(論理的思考)に起因します。ある意味で不変として捉えられ、我々はこれらを使い、それを応用することで、フレームワークに手を加えることで変化します。新たなフレームワークは、別人に活用されることで、やがて定着します。このような手直しが何度も行われ現在の多くのフレームワークが存在しているわけです。

2.ビジネスでフレームワークを使おう

  前回示した経済学者のドラッガーが提唱するイノベーション(技術革新)の7つの機会はビジネスで応用できます。このように多くのフレームワークがビジネス(もちろん、それ以外の分野でも)に有用です。

 ビジネスでの課題の多くは、論理的な分析と決断によるところが多いでしょう。分析にフレームワークを使うことで、多くの選択を見出すことになります。実際は、経営資源や市場環境などで制約を受けて、選択肢の中から最適な項目を選んで対策とします。これらの分析を自分や部下、関係者で共有して、課題解決を進めることは、実は経営や事業の戦略となるわけです。

 言い換えれば、社内でも日常的にフレームワークを活用できれば、自社にとって強みとなります。皆さんも、是非、ビジネスでフレームワークを適材適所に活用して、成功を勝ち取ってください!

※発想や創造に関する「創造方程式」による発想のトレーニングがしたいというなら、参考に拙著「ヒット商品を生み出すネタ出し練習帳」をどうぞ。

次回の予告

今回で『ビジネスのフレームワーク入門』を終了します。なお、次のコラムについては『中小経営のニッチから国際化へ』といった視点で事例を紹介できればと企画中です。乞うご期待!

松本英博 プロフィール

 

松本 英博(まつもと ひでひろ)

デジタルハリウッド大学大学院 専任教授/NVD株式会社 代表取締役

 京都府出身。18年にわたりNECに勤務。同社のパーソナルメディア開発本部で、MPEG1でのマルチメディア技術の開発と国際標準化と日本工業規格 (JIS)化を行い、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで画像圧縮技術を習得のため留学。帰国後、ネットワークス開発研究所ではWAPや i-モードなどの無線インターネットアクセス技術の応用製品の開発と国際標準化を技術マネジャーとして指揮。

 NEC退社後、ベンチャー投資会社ネオテニーにおいて大企業の新規事業開発支援、社内ベンチャーの事業化支援を行い、2002年9月にネオテニーから分離独立し、NVD株式会社(旧ネオテニーベンチャー開発)を設立、代表取締役に就任。大手企業の新規事業開発・社内ベンチャー育成などのコンサルティング 実績を持つ。

 IEEE(米国電子工学学会)会員、MIT日本人会会員。神奈川県商工労働部新産業ベンチャー事業認定委員、デジタルハリウッド大学大学院 専任教授、現在に至る。

 

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