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書評 「奇跡のリンゴ」 幻冬舎文庫 石川拓治 著

by staff on 2013/9/10, 火曜日
 

 「日本には100年ほどまえに来た」甘いリンゴを歓迎したのは人間だけでなく、他の生き物もだっだ。大変な手間をかけ改良がおこなわれた。津軽はそれを継続した。そして100年。津軽でもやめていく人は沢山いた。それほど手間がかかった。

 1953年の春に主人公秋則は生まれた。子供のころから違っていた。自宅の電気製品は興味を持つとバラバラにした。「答えを見つけねば気がすまねえ」「あきらめんな!失敗して答えを見つけるんだ」そんな秋則をお母さんは励ました。「なぜ人間だけが笑うのか!笑うっていうのは人だけが持っている性能だ!」

 リンゴは手入れが大変。季節季節に頻繁に農薬を散布する。それをここまでしたのは津軽魂だった。

 そんな時に見合いの話がくる。婿養子だった。それは偶然同級生の女性だった。「みえこさんといると おちつかねえのよ!」津軽の春は霧がかかる。それはリンゴの消毒の為の農薬散布の為だ。みえこは農薬に弱かった。いつもその頃は苦しんでいた。秋則はなおのこと農薬のないりんご栽培に夢をふくらませた。「りんごはかよわいものよ!!」酢・わさび・牛乳。農薬に変わるもので殺虫に代わるものはないか。大量の虫がでて、手でつまんで行く作業がある。今年こそと思っても花が咲かない。

 組合で義父は「うちは農薬はつかわねぇ」と発言する。秋則は家に帰って義父に頭を下げる。「おまえの目見てたら、あー言わねばしょうがねぇべぇ」懐から「土」を親父は出す。「ラバウルの土よ」「なんにもねぇ所で食うに困った。肥料もねぇところでつくったよ!草が生えたよ!なんにもねぇ所でだ」 「さらばラバウルよ、港が見いえる、・・・・」義父は口づさむ・・・「生きねば駄目だと言われたようでよ!その時の炎を消したらいかんと思って持ってきたのよ!」電気は消され、回覧板も届かない。「あきらめろ」「諦めることは人類が諦めることになる」「農薬でいくべさ!」

 あるときの祭りで娘がお面をほしそうにしていると思って「お面ほしいのか?」「いらね!いらねってば!!」そのやり取りを見てみえこは「少し笑ってよ!」「笑って何になる」「人間だけが持っている性能なんでしょう!」「いまさらどうにもならねーよ!いくも地獄引くも地獄よ!」

 岩木山が夏も冬も見つめていた。冬の出稼ぎにいくのは「あの人だけでした」 都会の公園で寝てまでしてお金をためる。寝込みを襲われてお金の入ったバッグを取られるさみしさと絶望感で青森に電話を入れる。

 「壊れた機械のようでした!木と話はじめました!」 「どうしたの」 「なにかあったの?」

 木村がリンゴの木に声をかけたのは、心からリンゴの木に感謝していたからだ。相手が聞いているかどうかは問題ではない。リンゴの木は、リンゴという果実を生産する機械ではない。リンゴの木もまた、この世に生を受けたひとつの命なのだ。あたり前のことのようだけど、心からそう思えることとはまた別の話だ。彼はそのことを誰よりもよく知っている。だからリンゴに声をかける。木村は人という生き物として、リンゴという生き物と向かい合っている。

 はるかなる  岩木山  ねぷたはどこ

 祭りの日に秋則は消える 美栄が走る 月のあかりのなかで秋則は環を首にかける。
   「死んで何の意味もないのに!答えは死だけか!」
   「助け合って生きているのだ!!」「雑草も力だ!!!」
   「笑顔は人間だけが持っている機能や!貧乏を恥ずかしいと思っていられない!!」
夜飲食店にアルバイトにでる!

 小説奇跡のリンゴにつぎのようなくだりがある。
 「この抜けた歯は、リンゴのために私が戦った証だと。人になぐられるようなことまでして、自分はリンゴの木を守ったということを一生忘れない、歯抜けのままでいようと思ったの。だけど一本ぬけたら、周りの歯がぐらぐらしはじめてよ。ぐらぐらするたびに、ペンチで抜いたらいたらそのうち歯が一本もなくなった。なんで歯がないんですかって人に聞かれると、こう答えることにしているの。私はリンゴの葉と、自分の歯を引き換えにしたんですとな」 畑がジャングルのようになった 虫が秋則さんの畑に飛んでゆく 人はどこまでもやさしい生き物  周りの目が変わっていく 「農薬を使わなくなってわかったことがあるな。農薬を使っていると、リンゴの木が病気や虫と戦う力を衰えさせてしまうのさ。楽するからいけないんだと思う。クルマにばっかり乗っていると、足腰が弱くなるでしょう。同じことが起こるわけ。それでな、リンゴの木だけじゃなくて、農薬を使っている人間まで病気や虫によわくなるんだよ。」「おら!!!わかったことがある!」「ひとつのことにこだわれば!必ずいつかは!!答えが見つかる!!!」「いつかはむくわれる!!!!」 こだわれ! 夢をすてるな! ありがとう!!!!

 「自然は細切れになど出来ない。それは、木村があのドングリの木の根元で悟った重要な真理だった。自然の中に、孤立して生きている命など存在しない。自然をどれだけ精緻に分析しても、人はリンゴひとつ創造することはできないのだ。ばらばらに切り離すのではなく、ひとつのつながりとして理解すること。科学者がひとつひとつの部品にまで分解してしまった自然ではなく、無数の命がつながり合い絡み合って存在している。生きた自然の全体と向き合うのが百姓の仕事なのだ。だから、百の仕事に通じなければならない。」

(文:横須賀 健治)

 

 

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