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第8回 公教育を考えるフォーラムに参加してみた

by staff on 2013/12/10, 火曜日

 

 将来に渡り、この国を継続的に豊かな国にするためには、人づくりこそが最も大切だと考える人は多いと思う。そのためにも、産まれた環境、親の収入に関係なく、誰もが質の高い教育を受けられる国、つまりは、公教育の質の高さが求められる。その、公教育を考えるフォーラムが先月開催されたので、参加してみた。

「公教育未来フォーラム」
 ■ 開催日時:11月16日 13:00~16:30
 ■ 場所:渋谷商工会館
 ■ 主催:公教育フォーラム2013実行委員会
 ■ 共催:株式会社トモノカイ

 分科会を含め、の盛りだくさんの内容だったが、今回は、藤原和博氏の基調講演をご紹介したい。
 ご存知の通り、藤原氏は、リクルートから杉並区立和田中学校の校長先生となり、「よのなか科」を実践し、和田中の教育改革を成功され、現在は、大阪府の教育改革に取り組んでおられる、教育界では異端児であり、ヒーローだ。数年前に藤原校長が教鞭を取られた和田中学校「よのなか科」の授業を視察した事がある。その時は「宗教」がテーマの授業だった。そのテーマにも驚かされたが、生徒全員の名前を覚えて授業されている藤原氏の迫力ある姿勢にも驚いた事を鮮明に覚えている。

さすがの藤原節

 今回の講演内容は、大きく2つ。
 1) 教育現場の最大の問題点と、
 2) その改革を藤原氏がどう進めているか
についてだった。

 1) については、後に詳細を後述するが、小学校から大学に至るまでの、日本の学校公教育全体に言える問題点を指摘し、2) については、その改革をどのように進めようとしているかの戦術と青写真をお話された。それらを、分かりやすく、スピード感をもって、最後まで、息つく暇なく爆走され、さらに磨きのかかった藤原節を披露された。

 今回は、1) を中心に話を進めたいと思う。

教育関係者こそ、時代が大きく変化している事を直視せよ

 この国の公教育における最大の問題は、社会が変化している事を直視せず、教育が行われているということだと、藤原氏は話された。

A) 20世紀 → 成長社会
B) 21世紀 → 成熟社会

 戦後の日本において、20世紀と21世紀は成長期から成熟期へと社会が大きく移行した。これは大きな変化で、当然生活スタイルも変化し、価値観も、必要となる力も技術も大きく変化している。これは人の営みによる変化であるため、もう一度焼け野原からスタートするような事がない以上、万国共通、それが、逆戻りする事はない。なのに、その事実を教育界は直視せず、旧体制の教育を続けていると藤原氏は言う。

A) 成長社会の特徴

A) の成長社会では、成長すべき(目指すべき)方向が明確であった。価値観が均一でみんな一緒で力を合わせて協力する事がよしとされている時代だった。良い大学を出て、一流企業に就職し、30代で郊外に家を買い、子供を二人育て、定年後は、時々来る孫の相手をしながら、普段は盆栽の手入れを楽しみ、皆に看取られながら最後を迎える・・・。こんな、理想の幸福像があった。

こういう時代の教育は、これが正しくて、これが正しくない、先生からは「はい、これわかる人?」と問われる教育、「正解主義」で、教育を行えばよかった。求められる能力は、その正解をいかに早く導けるかという “情報処理能力” だった。

B) 成熟社会の特徴

一方成熟社会は、目指すべき明確な方向はなく、それぞれ一人ひとりの社会。社会は複雑化し、変化が激しく、価値観は多様化し、正解がない。そのため、正解を主張するのではなく、自らが納得し、相手を納得させる「納得解」が主流となる社会。幸福感も一様ではなく、目指すものがないため、自らが自らの幸福感を構築できなければ、精神的にも苦しい時代かもしれない。

こういう社会では、常にアイデアや対応を修正させ進化させていく事が求められる。つまり、教育は「正解主義」や、正解を早く導き出す力”情報処理能力”のみをトレーニングしていてはダメで、情報をつねに更新修正し、つなぎあわせる「修正主義」で”情報編集力”をトレーニングする事も、新たに必要となってくるというのだ。

 しかし、現在の日本の公教育現場では、相変わらずA) のみが行われている。もちろん、A) も基礎教育の段階では必要な要素だが、問題はバランス。高等教育になるにつれ、B) のウェートを高めていく教育が21世紀は必要なのだと藤原氏は強調した。

「正解主義」と「修正主義」で学んだ学生の違い

 例えば、授業や会議の場。
 「これについてどう思いますか?」という問いに対し、手をあげて発言する人は、極めて優秀な人か、目立ちたがりに限られ、多くの人は手を上げないという風景がよく見られる。しかし、これは日本特有の現象だと、海外でも教鞭をとられた経験のある藤原氏は言う。それは、自分の意見を求められた時でさえ、正解(或いはそれに准ずるいい答え)を言わなければ恥ずかしい、という意識が無意識に働くためなのだとか。

 修正主義のトレーニングが一般化している海外では、正解を言おうという事ではなく、私は今こう思う、今こう感じた、という中間報告例を出しているに過ぎないので、どんな意見を言っても、恥ずかしいなどとは思わず、むしろその後が重要で、その出されたたくさんの例から、自分の意見をどう修正・進化させられるかが学習のポイントとなり、学生もそこに注力するのだそうだ。

 このような自らの意見・アイデアをどんどん進化させていく「修正主義」で学んだ学生と、人前では必ず正解を話す事を良しとした「正解主義」の教育を受けた学生とで、どちらが伸びしろがあり、柔軟性や適応力があるかは、言うまでもないという事だ。

教育界にはびこる3つの悪主義

 また、この正解主義を含め3つの悪主義が教育界(とくに管理職)にはびこり、教育改革を遅らせているという話もされた。その教育界にはびこる3つの悪主義とは、「正解主義」「前例主義」「事なかれ主義」。もちろん一般論という事で、例外も多々あり、現場で奮闘されている方々もたくさんおられる事は言うまでもないが、この3つの悪主義は、教育界だけでなく、広く日本を覆っている悪主義とも言えそうだ。

 「よのなか科」を始めた当初、藤原氏は、5年も経てば、この「よのなか科」の授業は各校に広まっていくだろうと考えていた。また、広めるためにも「よのなか科」の授業は完全オープン制にし、誰でも見学が可能な状態を作った。民間企業なら、良いと言われる競合の製品は、すぐに購入して調査し、あっという間に真似して、それ以上のものを作ろうとするのが当たり前だ。しかし、「よのなか科」はせいぜい30校程度にしか広まらなかった。ここに教育界の特異性があると言う。つまり3つの悪主義(「正解主義」「前例主義」「事なかれ主義」)でものを考えると(特に管理職がこの考え方であると)、修正し、進化する事は一切できなくなるというわけだ。

 藤原氏が実践されてきた「よのなか科」の “ななめの関係” や、 “地域本部”  “土曜塾” などは、一夜にしてできたものではなく、思考錯誤を重ね、様々な人の意見を取り入れ、修正・進化してきた、まさに「修正主義」のたまものだ。詳細は、多くのメディアでも紹介されているので、ここでは控えるが、大学生や地域や、民間企業までも巻き込み、つなげ、驚くべき成果をあげられた。中には、スタート時には大きな反対や非難を浴びたプロジェクトもあったが、結果、生徒全体の学力を大きく向上させ、当初約160人の廃校寸前の学校を、450人を超える人気校にまで押し上げると、誰も何も言わなくなった。

 「正解主義」「前例主義」「事なかれ主義」からは、決して生まれず、実施できない改革だったと言える。

 今回、様々な人の意見や情報を柔軟に取り入れ、自らの考えを修正・進化させていく「修正主義」という考え方を聞いただけで、自分の脳みそが柔らかくなったように思えた。また、このような考え方の方が、より楽に生きられるのではないだろうかとも感じた。

 価値観が多様で、変化の激しく、難解で生きづらく思われるこれからの時代。決してそれは不安だらけの世の中ではなく、多様で色鮮やかな時代だと、若者達に感じ取ってもらえるような公教育の実践を期待したい。

※参考サイト
藤原和博のよのなか科net
http://www.yononaka.net/

心に残った名言集

 今回の藤原氏の講演から、「ううっ!」と唸るような言葉やセンテンスを、たくさん受け取る事ができた。最後に、この講演中の名言をご紹介して終わりたい。みなさんは、どうお感じになるだろうか?

  • 「教員は、教えるプロではない。学ぶプロだ。教員の学ぶ姿から、子供は学ぶ。」
  • 「アイデアは、人の中にあって掘り出すものではない。人と人の間から出てくる。」
  • 「推測する力は、現象から学ぶ。現象をあらゆる角度からみるトレーニングが必要。」
  • 「現代は、“信じろ” を教える時代ではない。 “上手に疑う技術” を、トレーニングさせる必要がある。」

プロフィール

ペンネーム: 津木 雫(つぎ しずく)
オヤジ・オバチャン・オトメのO3マインドを持つ、なんちゃってコラムニスト。
約20年間メーカー勤務。広報・マーケティングを経て、現在フリーランス。
典型的な仕事人間という生活を過ごし、はたと気がつけば人生の折り返し地点。「さぁどうする!」と我が道を振り返っている真最中。
学生時代に、約15カ国を貧乏旅行。
その経験から、今の若者が育つ環境には、問題を自らの力で乗り越える体験が不足していると、感じている。若者教育関連のNPOを立ち上げ、神奈川を中心に現在活動展開中。

 

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