佐々木彬文の「四季・色・贅・食」 第24話 (最終回) 理趣経(りしゅきょう)
12月は “師も走る” と言われ何かと気ぜわしい月であります。そしてお正月が参ります。大晦日(おおみそか)からお正月(松の内)に皆さんも神社やお寺にお参りに行かれると思います。日本のとても良い習慣だと思います。出来れば何時でもお暇な時は、ぶらぶら神社やお寺の境内を散策し、のんびりして頂くとよいと思います。
真言宗には、理趣経(りしゅきょう)というお経がありそれを大切に護持しております。皆さん、お寺にお参りなさるとその宗派のお経を耳になさり、神社では詔に頭を垂れてお参りなさる事でしょう。詔もお経も節回しや韻をふんでいて、良く聞くと美しいものです。
今回は、『理趣経』というお経の美しさをお話しさせて頂きます。ただ、このお経は間違って解釈すると、とんでもない事を言い出す人が現れたりしますので、今回は「お経」の解釈は致しません。このお経のリズムやメロディーや調子が変わる面白さをお話しさせて頂きます。
そして宜しければお正月に、高野山真言宗のお寺にお参りに行ってみて下さい。前もってこのお話しを読んで頂き、お寺に行かれて『理趣経』を耳になされば楽しくなると思います。理趣経はちょっと長いお経です。
プレリュード(前奏)
構成としては、最初にprelude部分にあたりますのが “理趣経三昧表白” です。どんなに素晴らしいお経かを唱えます。先ず、敬って大日如来・両部曼荼羅諸尊諸衆の仏様、また、諸(しょ)大眷属(だいけんぞく)並びに弘法大師等密教伝来・諸阿闍(しょあじゃ)梨(り)、総じては、尽(じん)空(くう)法(ほっ)界(かい)の一切の三宝の境界に、このお経がどんなに素晴らしいかと唱え奉ります。
皆さん「何んのこっちゃ?」と言われると思います。それくらい素晴らしい内容の解説がされている部分です。「即身成仏(即身仏ではありません、即身仏は御浄土様の思想であり真言宗の考え方ではありません)への道筋に頓証菩提(とんしょうぼだい)になるための真文ですよ!」って説明している部分です。
文章(言葉)の節回しがとても美しい部分です。声に出して読んで頂きたいです。一部分をちょっと表しますと・・・
“瑜伽(ゆが)清浄(しょうじょう)の密壇(みつだん)を建(た)て般若(はんにゃ)理(り)趣(しゅ)の秘法(ひほう)を修(しゅう)す”
とか
“浄(じょう)菩提(ぼだい)心(しん)の宝珠は清光(せいこう)を十六生(じゅうろくしょう)の朝(あした)に添え等(とう)覚(がく)無垢(むく)の浄(じょう)月(がつ)は円(えん)輝(き)を三五夜(さんごや)の秋に伴(ともな)わん”
とか最後に
“乃至(ないし)法界(ほうかい)平等(びょうどう)利益(りやく)、敬(うやま)って白(もう)す”
などちょっと素敵です。
般若理趣経の「無染~~~~~~」
そして、般若(はんにゃ)理趣経に入って行きます。最初に毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)※に帰依を誓う部分です。このお経がとても面白い構造で、毘盧遮那仏を唱え、次の段で『無染無着真理趣』とありますが、声に出して唱える部分は『無染』だけで後は声に出さず心の中で唱えます。
ですから皆様に聞こえるのは「無染~~~~~~」です。そして、同じく次の段は、生生値遇無相教ですが「生生~~~~~~~」だけ、次の段が世世持誦不忘念ですが、「世世~~~~~~~~」だけで、最後に本尊界会増法楽や弘法大師増法楽と唱えます。
声に出してみると「弘法大師ぞ~~~~ほ~~~~~ら~く~~」ってな調子です。
「いつでもそばにいるよ」
メインテーマの大楽(たいら)金剛不空真実三摩耶(きんこうふこうしんじさんまや)経(けい)(声に出しませんが般若波羅蜜多理趣品が続き)如是我聞(じょしがぶん)と一気に唱えます。
意味は、『是(かく)の如(ごと)く我(われ)聞(き)けり』です。余談ですが、私が掛け軸や色紙に認めます時の冒頭印に『如是』と云う言葉を使って居ります。意味は「何時も傍に居るよ」とか、「僕はここに居るよ」です。この『如』『是』の字はとても美しいなと思って居ります。
「一切」はアップテンポで!
そして、お経はアップテンポで一時薄伽と続きます。第一テーマに当たる部分のキーワードは “一切(いっせい)” です、全部で十か所も出て来ます。この “一切” にアクセント付けて唱えますと、とても唱えやすくリズミカルなお経になります。次に調子が変わって各々の菩薩様の名を読み上げます、キーワードは “菩薩摩訶(ぼーさーばーかー)薩(さー)” です。
金剛手菩薩摩訶薩
観自在菩薩摩訶薩
虚空蔵菩薩摩訶薩
金鋼拳菩薩摩訶薩
文殊師利菩薩摩訶薩
纔発心転法輪菩薩摩訶薩
虚空庫菩薩摩訶薩
薩摧一切魔菩薩摩訶薩
と、全部で八つの菩薩様のお名前を唱えます。もちろんアップテンポで小気味よく唱えます。次に『我々の本来在る姿は、先程唱えた菩薩様になれますよ!』って唱えます。そしてその説明部分がこれまた小気味好いです。
妙適清浄句是菩薩位
欲箭清浄句是菩薩位
触清浄句是菩薩位・・・と続きます。
全部で十七も有ります。中に「愛縛清浄句是菩薩位ですよ!」って言っている部分も有ります。
愛する心で人を縛ろうとするのは「苦」だが、理趣経では「愛縛も清浄に整えることで菩薩の位になる」と・・・
皆さんがよく耳になさる言葉に “四苦八苦” という言葉があります。四の苦は “生・病・老・死” であり、それに “愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五蘊盛苦” の四つを合わせて八苦となると説明しています。愛する人との別れは勿論苦であり、故に、『愛する心で人を縛ろうとする心も苦である』と考えられますが、それが、理趣経では『愛縛も清浄に整える事で菩薩の位になる』と現わされております。「え、えっ?!」です。
それ以外にも、愛清浄・悦清浄・身楽清浄 などに至っては、般若心経にも出て参りますが「色・声・香・味なども『清浄に整える事で』菩薩の位になれる」と語られております。
般若心経での内容は、これらは無であると書かれ、眼・耳・鼻・舌・身・意も無であると書かれています。 その意味は、人は肉体の中に魂が宿っていると考え、其の魂の本来の姿は、眼も耳も鼻も無く、故に、色(身体)も声も香も味も無い、魂の構造とその質量が無く、故に、汚れる事も無く増える事も減る事も無いと魂の説明であります。人が亡くなって肉体から離れても魂は存在し、そこには体積も重さも無いので自由に解放され、故に苦も無く、そこには老いも死も無く、最後に有名な真言が唱えられております。その意味は、「彼岸に居られる方よ、永遠に幸あれ!」と唱え讃えて居ります。これは、魂と人・曼荼羅の中での宇宙の構造を説明しているものであります。
理趣経は、「今生活なさっている方々が、今生で幸せに成って頂くには」と唱えています。
リズムの変調があります
次に、最も美しく楽しいお経『百字の偈(ひゃくじのげ)』を唱えます。もちろんアップテンポです。元気よく明るく思いっきり声を出して唱えます。小気味良いテンポで唱えるのですが、時々、何とも言えない節回しでスローな部分が出て参ります。 例 “不空無礙” とか “金剛手言” です。そして、
善哉善哉 大薩埵
善哉善哉 大安楽 ここまではスローテンポでとうとうと唱え
善哉善哉 摩訶衍 がとたんにアップテンポでスタッカート
善哉善哉 大智慧 が戻ってスローテンポ
そして、また元に戻るのですが、時々抑揚の有る部分がにくい所に現れ、最後はとうとうと『毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)』を違ったメロディーで11回唱えます。この『百字の偈』は、メロディーと調子が変化しとても面白いお経です。このお経を聞かれて、彩子さんというお嬢さんが一言「ラップやねん!」って言われました。「お見事!!」素晴らしい解釈です。それで良いのです。
後讃を唱えます
最後に後讃を唱えます。
「摩訶迦嚕坭建曩貧捨娑多藍薩嚩吠南本女那地寠・・・」を唱えます。「なんじゃこりゃ????」真言陀羅尼(しんごん―だらに)と言われるものです。
真言宗は、真言を護持し唱え、皆さんにいくら仏の教えの素晴らしさを解いても、日々の暮らしに追われ苦しみが多ければ、自らを磨き昇華させる事など到底出来ません。心にゆとり無くば信心の心も芽生えません。故に「この身 今生にて仏に」と即身成仏を願い、先ずは『皆さんの生活の安定、そして佛の教えを聞く事が出来ますように』との願いから加持祈祷を行って居ります。また、真言宗は密教で有ります。密教とは如来密の“密”で有り、怪しげなものではありません。如来(にょらい)様の教えを説き法界平等利益を願い、日々精進して居ります。
『お正月は、私をお寺に連れて行って!』
お正月は、お寺に行ってお経を聞いてみて下さい。正座してかしこまらんでも良いです。本来、お寺は佛の膝前で心を休める所であります。胡坐(あぐら)かいても良し、他人様にご迷惑が掛らないようでしたら大の字に寝そべって心を休めて頂いてもよし、もっと気楽にお寺に行くと良いと思います。また、お経を音楽として聞いてみて下さい。特にお正月は、太鼓や笙や鈴等楽器を多く使っているので、楽しいお経を耳にして頂けます。真言宗の考え方では、仏の教え(御経・真言)は八万四千の毛穴から入るといわれて居ります。ご安心を!(笑)
横浜市では、桜木町駅始発、バスの11番(神奈川中央バス)「保土ヶ谷行き」に乗り、増徳院前で降りて頂きますと高野山真言宗の増徳院が在ります。高野山の別院は高輪にございます。
最後に阿弥陀如来様の陀羅尼をひとつ、
のうぼうあらたんのうたらやーや
のうまくありやみたーばーや
たたぎゃたやあらかてい
さんみゃくさんぼだや
たにゃたおんあみりてい
あみりとうどはんべい
あみりたさんばんべい
あみりたぎゃらべい
あみりたしっでい
あみりたていぜい
あみりたびきらんでい
あみりたびきらんだぎゃみねい
あみりたぎゃぎゃのうきちきゃれい
あみりたどんどびそばれい
さらばあらたさだにえい
さらばきゃらまきれいしゃきしゃようぎゃれい
そわか
南無 合掌 ご~~~~~~ん!
※びるしゃなぶつ【毘盧遮那仏】とは。意味や解説。(梵)Vairocanaの音訳。光明遍照と訳します。
文・:佐々木彬文(日本画家・裏千家茶道講師)/構成:高野慈子
佐々木彬文プロフィール
● 日本画家(彬文会主宰)
● 茶道講師(裏千家 佐々木宗秀)
● クラッシックギター演奏者
活動スケジュール
茶道の御稽古 |
関内の技能文化会館 7階 和室2 ¥3,500/1回 12月15日 午後1時から茶道教室 1月4日 11時から初釜です。お茶初体験の方も遊びに来て下さい。何も知らなくて良いです。お茶は誰でも飲んでいるものです。其の自然体が大事です。作法は体験してから楽しければ学んで下さい。 お客様:¥1,000 - 参加の会費に御典倶ください。 事前連絡:12月31日24時まで(お菓子の準備の為にお願い致します) 連絡先:qgqhw370@ybb.ne.jp fax 045(641)6822 多くの方の御参加を宜しくお願い致します。 1月19日 午後1時から茶道教室 2月23日 午後1時から茶道教室 ※3月以降のスケジュールは追ってご連絡致します。 ※Facebookでも佐々木彬文を見て頂けましたら其の都度掲載させて頂きます。 |
「文人画」教室 |
岩谷学園粋生倶楽部 第4水曜日(変更あり) 午前10時30分~12時 お問合せ:岩谷学園 http://www.ikiiki-club.jp/ TEL:045-444-2181 |
自宅にて | 日本画教室・茶懐石指導を随時(ご希望の時間帯で)行っております。 |
出張指導 | 日本画、茶道、茶懐石 etc は出張指導いたします。 |
(髙野慈子)
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