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中小経営のニッチから国際化へ(第5回)

by staff on 2014/2/10, 月曜日

デジタルハリウッド大学大学院/NVD株式会社 松本英博

1.国際化に無関係ではいられない

 これまで取り上げた会社は、ソニーなど昔は確かにベンチャー企業だったかもしれませんが、やはり大手です。まだまだ、自社の国際化や自分の事業とは遠いと考える人も多いと思います。

 何度も申し上げますが、国際化は国内企業にとって大小を問わず無関係ではありません。つまり、

  1. 市場が国内であっても、仕入れや流通、開発、生産の中に海外製品・サービスを必要とする
  2. 自社の顧客の取引は確かに国内であるが、顧客が海外の製品・サービスを利用している
  3. 自社の製品を海外の企業が欲しがっている、利用したがっている

など、これらの理由で国際化の波に自社は知らず知らずのうちに飲み込まれようとしているのです。

 a. では、大手企業の業務を受注するために、中堅の関連会社が海外に進出することを余儀なくされる場合なども含まれます。 b. は、海外の企業などが既に国内市場で重要な位置を占め始め、顧客自身が巻き込まれている場合です。 c. は、折角の販売の機会を逸している、機会損失の場合です。さて、ここまでの理由を読んで、「うちは、国内のお客様相手だから無関係」と思われる方は、まだおられるでしょうか。

2.委託業務から自社製品での業務へ

 筆者は、神奈川県の新規事業やベンチャーの評価やビジネスコンテストの審査を行ってきました。そこでの経験で分かったことですが、国際化の距離感と自社のコア、あるいは強みとが反比例していることです。つまり、国際化があたりまえ、近いと感じるのは自社に強み、自信があるということになります。逆に自社に強みや自信が見えない場合は国際化の波に弱いということになります。

 国際化の荒波にのみ込まれない、更に言えば、消極的な海外進出でなく、積極的に打って出て自社の発展に結び付けることは出来ないのでしょうか。

 この打開策として、自社の業務を業務委託から自社製品・サービスの業務に主軸を移すことが重要になります。

 例えば、神奈川県には製造業の中堅企業が大手からの業務委託で事業を展開しています。著者は、これを決して否定しているわけではなりません。業務委託も技術力などのコアがしっかりしておれば、ニッチ業界ではトップであり続けられるものです。トップシェアはよいのですが、問題は、請け負えば請け負うほど、自社の売上や利益が逃げていくことを回避しないといけないことです。つまり、委託先からみれば、少々の無理でも聞いてくれる、小回りのきく便利屋に陥っていないかということです。確かに国際化がそれほど進んでいない時代には、破壊的な価格設定というものはまれでした。反って業界は、業務委託ができる先を頼り、育ててきたものです。しかし、国際化の波が押し寄せ、新興国での人件費や材料費の破壊的な価格設定で、業界は海外への委託を始めて、やがて製造過程に組み込むことまで進んでしまったのです。

 打開策は、自社の強みを生かし自社製品、自社サービスを生むことです。お客様は、前回申し上げたように国際的な視点でのニッチ市場です。

 自社製品・サービスを生むきっかけは、いろいろあるでしょうが、ここではその事例の一つをご紹介しましょう。

3.コマの製造、競技で見出した自社の強み

 今月22日に東京御茶ノ水 ソラシティ―で筆者が理事を務める 一般財団法人BCi戦略研究所 ( 公式フェイスブックページ ) が「第1回シンポジウム「日本とアジアのコラボレーション」~COOL JAPAN戦略を拡張するための課題」を開催しました。このシンポジウムのパネルディスカッションに、全日本製造業コマ大戦協会 副会長・心技隊事務局長の伊藤 昌良さん ( 株式会社エムエスパートナーズ代表取締役・神奈川県横浜市 ) に御登壇を依頼しました。伊藤さんが参画している心技隊は、「技は心と共にあり」を掲げ、活動する集団 として2008年創設。当時は4名、現状メンバー12名で「我が為でなく、他が為に何が出来るか?」を模索しながら、テクニカルショウヨコハマ2012に出展する際にイベントとして「コマ大戦」を開催したのです。

 このイベントは、子供のころに遊んだベーゴマ競技の会社対抗戦で、全国の中小製造業が自社の誇りを賭けて作成したコマを持ち寄り、一対一で戦う大会。コマ大戦にて使用されるケンカゴマは直径20ミリ以下で一円玉より小さいコマ。小さなコマを製造業が本気で設計し、プロの機械を使用して自社の持てる技術を全て注ぎ込み、製造や競技法、戦略を戦わせていくものです。筆者も第1回のパシフィコ横浜で競技の様子を見ました。

 さて、このコマ大戦は全国的に広がり、平成25年度地域づくり総務大臣表彰など多くを受賞し、メディアにも多く取り上げられています。今や海外大会の開催まで広がり続けています。

 伊藤さんにコマ大戦のご紹介をしてもらないながら、日本モデルとアジアについて討議して頂くのが狙いです。特に、全日本製造業コマ大戦の製造業としての意義とアジア展開などに語って頂きました。日頃は、目に付きにくい製品を取り扱うプロの技が、土俵の上でぶつかり合い、それが自社の強みやコアの気付き、仲間の形成に役立ったことを説明して頂いたのです。

 パネルディスカッションで伊藤さんや他のパネリストともに語っていただいたのが、「果たして日本(ビジネス)モデルはアジアで通用するか」というお題でした。狙いは、通用する、しないに関わらず、そこでの課題やアプローチ、対策の生の声を参加者と共有することでした。

 伊藤さんは、コマ大戦をアジアに展開するうちに分かってきたことは、国や人種を超えて、製造業を軸に、思いが通じるということです。イベントであるあると同時に交流の場であり、それがきっかけで思いが共有できるのは、コマの製造を通じて、真剣に取り組んだことであるという点です。そこに、自社のコア、強みを見出す企業もあったと言います。開催が進むにつれて、他社のコマを研究したり、今まで挑戦したことがない、設計を試みることは、遊びである半面、中堅企業の意地があったのです。この意地を分解すると、他に負けないという自負や、拘り(こだわり)や顧客の視点で見る付加価値が浮かび上がってきます。それは、コマ大戦を通じて、頭だけで分かっているというより、他社も一緒に体験した理解につながります。さらに、これが言葉の違いや国の違いをはるかに超えている点です。

 コマ大戦は異業種交流を超え、コマを通して異文化交流を生み、自社製品や強みを見出す機会にもなっているのです。 ( 全日本製造業コマ大戦公式サイトはこちら )

 最後に伊藤さんのフェイスブックでのつぶやき:『いつも思うんだけど・・・コマ大戦の女神は、より本気で取り組んだ人間に微笑むんだよね。』ということばに、自社のコアのヒントがあると感じました。


(撮影:松本英博  登壇者の承認済み)

※さて、別のビジネス・コラムの「創造方程式」による発想のトレーニングがしたいというなら、参考に拙著「ヒット商品を生み出すネタ出し練習帳」をどうぞ。

次回の予告

自社製品やサービスの探索、育成、成長について考えていきます。

松本英博 プロフィール

 

松本 英博(まつもと ひでひろ)

デジタルハリウッド大学大学院 専任教授/NVD株式会社 代表取締役
一般財団法人 BCi戦略研究所 理事

 京都府出身。18年にわたりNECに勤務。同社のパーソナルメディア開発本部で、MPEG1でのマルチメディア技術の開発と国際標準化と日本工業規格 (JIS)化を行い、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで画像圧縮技術を習得のため留学。帰国後、ネットワークス開発研究所ではWAPや i-モードなどの無線インターネットアクセス技術の応用製品の開発と国際標準化を技術マネジャーとして指揮。

 NEC退社後、ベンチャー投資会社ネオテニーにおいて大企業の新規事業開発支援、社内ベンチャーの事業化支援を行い、2002年9月にネオテニーから分離独立し、NVD株式会社(旧ネオテニーベンチャー開発)を設立、代表取締役に就任。大手企業の新規事業開発・社内ベンチャー育成などのコンサルティング 実績を持つ。

 IEEE(米国電子工学学会)会員、MIT日本人会会員。神奈川県商工労働部新産業ベンチャー事業認定委員、デジタルハリウッド大学大学院 専任教授、現在に至る。

 

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