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中小経営のニッチから国際化へ(第9回)

by staff on 2014/6/10, 火曜日

デジタルハリウッド大学大学院/NVD株式会社 松本英博

1.海外視察やトレードショウ

 前回フィージビリティー・スタディー(事業性検証)を事前にやっておくことをお勧めしました。その検証で効果的なのは、海外の顧客候補やパートナー候補に直接会って、提案し感触を得ることです。

 しかし、現実的には、個別に顧客候補やパートナー候補に会うにも、手立てがなく、また、現地での情報を広範に手に入れることもできない場合が多いものです。

 今回は、海外視察やトレードショウ(展示会)を上手く活用することで、顧客候補やパートナー候補に会う機会を設けることを考えていきましょう。さらに、コストと時間を削減することも考えることも重要です。

 海外視察でもトレードショウでも、海外現地の情報が自社の事業展開に大いに関連するところです。また、同様の体験をした多くの人に話を聞くと、成功と失敗のポイントがあるようです。

2.トレードショウのポイント

 トレードショウも自社が能動的に行う、いいかえれば、自社製品やサービスを展示したり、プレゼンテーションしたり、商談したり、といった場合と、受動的で、展示会や他社製品を見ることに主体を置いた場合では、目的も現地での行動も大きく異なります。

展示会を受動的にみる

 この場合は、現地の業界情報の収集や他社製品の位置づけなどを自社の商材を伏せて行えます。また、競合企業などのブースなどの様子から、顧客の視点で冷静に自社との差別化すべきポイントが浮かび上がってきます。また、現地でのビジネスの習慣や日常生活を垣間見ることで、ビジネスの機会や差異を体験できます。

 さらに、自社が海外進出した場合の現地のパートナー企業に目星をつけることも行えるかもしれません。

展示会で能動的に動く

 この場合は、自社自体、製品などをアピールする機会です。十分な準備を行って、展示会を通じての情報取集を行いましょう。顧客やパートナー候補の情報収集が目的であれば、展示物も重要ですが、商談を軸に日程や資料をあらかじめ見込んでおく必要もあります。さらに、上記の受動的な立場として、他社ブースもできれば精力的に一日かけて見ておく必要もあるでしょう。

 さらに忘れがちなのは、展示会以後のコンタクトに対するフォローです。現地と異なり一旦帰国すると、テンションが落ちて、相手へのお礼とその後のフォローが遅れがちになります。重要な顧客やパートナー候補に対しては、現地との接触を保ち続けることが重要ですから、フォローは必ず行う必要があります。

 また、社内で展示会後の報告会(反省会?)を催し、情報を共有することは言うまでもなく行うことやフォロー、次への行動計画も明確にしておきましょう。

3.海外視察のポイント

 展示会やトレードショウとは、異なり、会社の海外展開の戦略を持ったうえで、海外を視察する場合には前述よりも更に効率的に情報収集を行いたいものです。海外視察については、展示会などを通じて顧客やパートナー候補、現地の金融機関や当局の現状把握を行うことが主目的になると思います。そこで、ポイントとして経営資源、「ヒト」・「カネ」・「モノ」の視点で確認しておきましょう。

ヒトの2つの確認ポイント

 ここでの確認ポイントは、①人的な特性、②人的なコストの2点です。

 ①人的な特性:

現地の国柄、宗教、慣習や文化が対象です。現地人は親日的か、宗教的戒律、主食、食事の回数や制限、言語や経済水準については、現地視察前にはある程度把握を行うことで、現地視察のときに、特異な就業ルールや慣習に出くわしたときに理解できるでしょう。

 ②人的なコスト:

人件費と違い、地域ごとの最低賃金、学歴などの差異による賃金格差、祝日や深夜など時間外手当の割り増し分、社会保障や年金の会社負担分に加え、同業他社が会社内で実施している社員向けの貸付や財形などについても把握しておくことです。こうすることで、事業計画は策定しやすくなります。高度技術、熟練技術者が必要となる職種については、対象従業員を雇用するための費用についても確認しておきましょう。

カネの2つの確認ポイント

 ここでの確認ポイントは、③資金調達方法、④徴収(課税)があります。

 ③資金調達方法:

海外進出時の現地銀行からの調達、法人銀行と提携している現地銀行の確認、親会社からの資本投入に関する規制を確認しましょう。さらに、リース・サービス会社の確認や支払サイトを管理するために、進出商社の有無など確認することになります。これらの情報でようやく、具体的な経営計画を描くことができます。

 ④徴収(課税):

進出先の行政によって判断が、会社形態によって異なる場合や、外資に対してインセンティブを与える場合もあるので、予備知識を持った上で、現地での聞き取り調査を行う方が最新情報を知る上で重要です。課税ルールが突然変わる場合や判例を採用する場合もあるため、最新の事例を情報収集することで、進出後の監査対応も考慮することができるかと思います。さらに、特に新興国で頻繁におこるが税金トラブル対策は、監査する側の性格を熟知し、強い有識者をがっちり連携するも必要になるかもしれません。

モノの3つの確認ポイント

 ここでの確認ポイントは、⑤調達コスト⑥調達品質、および⑤調達のリードタイムがあります。製造業、サービス業問わず、日本国内と同様の購買発注計画が機能することは稀であると考えておいた方がよいでしょう。

 ⑤調達コスト⑥調達品質、および⑦調達のリードタイム:

現地調達ができるのであれば問題はないです。しかし、不可の原材料や設備がある場合には、日本や他国から取り寄せとなります。現地調達が可能でも⑥品質を事前に確認しておき、使用の可否を判断する必要があります。

さらに、調達までの⑦リードタイムを明確にして、安定した事業活動が行えるか否かを明確にしなければなりません。機械設備を現地で調達する際は、スペアパーツやエンジニアリングサービス有無などを必ず確認し、故障対応などのアフターサービスについても把握しておきます。

総合的な確認ポイント

 総合的な確認として、経営資源にそれぞれ係る⑧制度については確認しましょう
「人」については、健康・労災にかかることや年金、業務に対する年齢制限、国内業務に対するルールです。「モノ」について、まず、輸出入規制や環境面の制約です。さらに、保管・設置ルールや許可申請の必要の有無さらに発行担当局と準拠する法律を抑えるといった法務的な調査が必要となります。「カネ」について、特に外資に対する規制やインセンティブを、現地の進出斡旋業者や銀行、JETROの現地事務所に問い合わせすることで、概要を把握しておきましょう。

 ⑧制度に関しては、多種多様、枝葉末節となるため、現地調査では、制度を熟知しているであろう、有識者に面談をして、効率的に整理していく必要があるでしょう。

 何れにしても、重要なポイントは、常に好奇心をめぐらせ、前提条件をとり払って考える姿勢が重要です。

※さて、別のビジネス・コラムの「創造方程式」による発想のトレーニングがしたいというなら、参考に拙著「ヒット商品を生み出すネタ出し練習帳」をどうぞ。

次回(最終回)の予告

これまでの議論を振り返り、中小経営での国際化の意義についてまとめます。

松本英博 プロフィール

 

松本 英博(まつもと ひでひろ)

デジタルハリウッド大学大学院 専任教授/NVD株式会社 代表取締役

 京都府出身。18年にわたりNECに勤務。同社のパーソナルメディア開発本部で、MPEG1でのマルチメディア技術の開発と国際標準化と日本工業規格 (JIS)化を行い、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで画像圧縮技術を習得のため留学。帰国後、ネットワークス開発研究所ではWAPや i-モードなどの無線インターネットアクセス技術の応用製品の開発と国際標準化を技術マネジャーとして指揮。

 NEC退社後、ベンチャー投資会社ネオテニーにおいて大企業の新規事業開発支援、社内ベンチャーの事業化支援を行い、2002年9月にネオテニーから分離独立し、NVD株式会社(旧ネオテニーベンチャー開発)を設立、代表取締役に就任。大手企業の新規事業開発・社内ベンチャー育成などのコンサルティング 実績を持つ。

 IEEE(米国電子工学学会)会員、MIT日本人会会員。神奈川県商工労働部新産業ベンチャー事業認定委員、デジタルハリウッド大学大学院 専任教授、現在に至る。

 

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